目から鱗のヤマビル研究 『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』

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評者=松場省吾(信州まつもと山岳ガイド協会 やまたみ 子ども事業部)

ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記

著:樋口大良、子どもヤマビル研究会
発行: 山と溪谷社
価格:1430円(税込)

 

私はガイドとして10年ほど小学生向けのキッズ登山クラブを担当し、生き物に興味を示す子どもたちを身近に見てきた。が、ヤマビルという、嫌われ者で得体の知れない生き物を、小中学生が10年も研究し続けるとは……?

第1回のヤマビル研究会で、筆者の樋口さんや自然の家スタッフのジンクン、ヤマビル忌避剤開発の会社社長のジョニーさんが、子どもたちを引き込んでいくシーンは、まるでドラマのようで、夢中になるものを見つけた子どもたちの目の輝きが伝わってくる。

うまくいかないことがあっても、さまざまな工夫を凝らしながら子どもたちを主役に研究が進んでいく様子は、ワクワクする冒険物語のよう。昔から「こうだろう」と思われてきた常識が、子どもたちの研究によって覆されるさまは、天才物理学者を描いたドラマ『ガリレオ』のようで痛快。子どもたちのプレゼン力も高く、驚かされる。

虫が嫌いだったり、人工物のない自然に対して恐怖を感じたりする子はとても多く、実際に野外活動で一歩も前に進めないというような場面に出くわすこともある。知らないものに対して恐怖を抱くのは自然なことだ。この本では、一つの生き物の不思議がだんだんと解けることによって、子どもたちのヒルに対する気持ちや発言が変化していくのがとてもよかった。すべての生き物に対して敬意を払って接するということは、お話や授業だけでは絶対に伝わらないこと。その生き物に対する発見や驚きや共感が大切ということを、あらためて感じる本だった。

 

山と溪谷2021年11月号より転載)

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