共生への道しるべに『アーバン・ベア となりのヒグマと向き合う』

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評者=二神慎之介(自然写真家)

アーバン・ベア となりのヒグマと向き合う

著:佐藤喜和
発行:東京大学出版会​
価格:4400円(税込)

 

2021年6月、札幌にヒグマが出没。4人が負傷した。住宅街を走り回る大きな野生動物の姿は、衝撃的な映像として何度も繰り返し報道された。遠い存在だと思っていた野生動物が、人の生活圏のすぐそばまで来ていること、同時に我々の動物に対する対策や意識の変革が迫られている事態にあることを、これほど強烈に思い知らされるニュースもないであろう。

「アーバン・ベア」というタイトルから、そんな今の時代に合わせた時事的な問題を解説・考察する内容が想像されるが、単にそういう内容の本ではない。まずは市街地に出没するクマではなく、自然に生きるクマの暮らしの話から始まる。著者自らが関わってきたフィールドワークを紹介しながら、クマにとって「晩夏」という季節がどういうものかを解説し、クマが人間の生活圏へ迷い込んでいく原因の話に繋げていく。私はこの構成に非常に好感をもった。読者に本来の「ヒグマ」という動物を知ってほしい、という著者の思いが感じられたからだ。ヒグマと人間社会との軋轢を取り上げる本でありながら、クマに対する深い愛情を感じる内容になっている。

次に農地や市街地に出没するクマの行動を膨大な調査結果から分析・解説する。人間社会との軋轢を減らすための活動や、我々にできる対策法も教えてくれる。さらに終章では、これからのクマとの関わり方に対する提言がたっぷりと述べられている。街に出るヒグマに脅威を感じる方にも、森に暮らすヒグマを愛する方にも、ぜひ読んでいただきたい良書である。

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山と溪谷2021年12月号より転載)

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