自由な発想で歩くトレイル 『グランマ・ゲイトウッドのロングトレイル』

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評者=土屋智哉

グランマ・ゲイトウッドのロングトレイル

著:ベン・モンゴメリ
訳:浜本マヤ​
発行:山と溪谷社​
価格:2640円(税込)

 

本書は、女性で初めてアパラチアン・トレイルをスルーハイク(全線踏破)したエマ・ゲイトウッドの物語。ロングトレイルやウルトラライトハイキングを語る上で避けて通れない彼女は、67歳でハイキングを始めました。

彼女はリュックの代わりに布袋、登山靴の代わりにケッズのスニーカー、テントの代わりにシャワーカーテン、寝袋の代わりに毛布と、身の回りにあるもので3500㎞を歩き通しました。こうした道具が語られることはありましたが、彼女の知恵や工夫にこそ現代のハイカーは目を向けるべきです。道具にとらわれることなく、自由な発想で数々の難局を乗り越えていきます。彼女のハイキングは自由です。それに比べてわたしたちがいかに型にはまったハイキングをしていることか。

本書は1955年のスルーハイクを軸に展開します。半年にわたるハイキングと彼女の人生とが絡み合うように語られます。それは長い旅の途上、ハイカーが自分の人生を振り返り、内省を深める行為と似ています。65年前のエマとシンクロするように読者はページをめくっていきます。時にはその手をとめて考え込むことも、何度も読み返すことも、どんどん読み進んでしまうことも、それはエマと一緒にロングトレイルを歩くかのような体験です。ハイキングは彼女の支えです。エネルギッシュに歩き、多くの人に慕われました。人生の第4コーナーともいえる時期から、彼女は自分がしたいように自由にトレイルを、そして人生を歩いたのです。そうしたかったから。

“Because, I wanted to.”

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山と溪谷2022年1月号より転載)

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