生藤山から三国峠を越える古くからの道――。明るい展望と陽だまりの暖かさを楽しむ

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早春の奥多摩でオススメの山として挙がるのが生藤山。標高を上げると広葉樹林が広がる山は、冬の間はすっかり葉を落とすので、視界が広がり開放感も増す。そして4月に入ると、サクラやカタクリも楽しめる。

 

生藤山(しょうとうさん・990m)は、三頭山から高尾山を結ぶ甲武相国境尾根の、ちょうど中間地点にある明るい山だ。山頂西の三国峠は甲(山梨)、武(東京)、相(神奈川)の三県にまたがる。今回は、多摩川最大の支流・秋川上流の檜原村柏木野から万六尾根を登り、生藤山から三国峠(さんごくとうげ)を越えて相模川支流の鶴川上流へと辿る峠道は古くから歩かれた歴史ある道を紹介しよう。

生藤山の稜線を眺める(写真/トマトとケチャップさん

 

国境尾根に登る万六尾根は登りだしの僅かな部分は杉や檜の人工林だが、途中からは明るい広葉樹の森となる。葉が落ちた初冬から早春にかけては明るい展望と陽だまりの暖かさを感じ、このコースの最も美しい季節となる。

また、万六尾根と国境尾根には点々と、三国峠南の甘水草付近には山桜の並木がある。4月中旬~下旬はハラハラと桜が舞う中の登山ができる。どちらの季節も魅力的だ。

4月中旬には、ヤマザクラを楽しみながらの登山となる(写真/山田哲哉)

万六尾根から展望を稜線を通り軍刀利神社へ

行程:
柏木野・・・万六尾根・・・連行峰・・・茅丸・・・生藤山・・・三国峠・・・軍刀利神社・・・井戸バス停(約4時間30分)

⇒コースタイム付き登山地図を確認

 

登るほどに展望が広がる万六尾根から頂へ

出発は南秋川の柏木野のバス停だ。ワサビの植えられた斜面を降りて橋で川を渡り、暗い人工林の中をジグザグに付けられた道を登っていく。万六尾根に出た所に数年前まであった檜の大木と小さな社は、今は落雷で倒れてしまった。

ここからはホウの葉の落ち葉が敷き詰められた明るい尾根道だ。登るほどに背後の浅間尾根から大岳山、御前山が早春なら明るい狐色の山肌を見せる。万六ノ頭を西側から巻くと木の間越しに、これから向かう連行峰、茅丸、生藤山、さらに西に連なるのは軍刀利山、熊倉山と、小さなピークが林立する姿が見える。

すっかり葉を落とした広葉樹林の中を歩くのは心地が良い(写真/山田哲哉)


空気の澄んだ日は、左手に東京のビル群が見え、その手前には奥高尾の陣馬山が山頂の茶店まで確認できる近さに見える。最後に小笹の繁る尾根を登り詰めると国境尾根の連行峰に登り着く。南西に大きな真っ白な富士山が見えると、思わず上がる歓声をあげてしまう。

ここから三国峠までが、このコースの一番、良い所だろう。この辺りで最も標高が高い1019mの急峻な斜面を持つ三角錐の茅丸の山頂は、狭いが遮る物もなく明るく、連行峰より更に富士山が大きく見える。

尾根に上がれば、各所で富士山がの展望が楽しめる(写真/山田哲哉)


ここから先は、いったん尾根は広がり広葉樹の広々とした明るい尾根となる。この尾根周辺は4月上旬になると、よく探せば北側斜面にカタクリが点々と咲く。ちょっと岩場まじりの尾根を登りきると東西に長い生藤山の山頂に着き、「藤野町(現在は相模原市)十二名山、山梨百名山」などの何種類かの標識がある。

 

4月には桜並木も楽しめる道を下山

生藤山頂から三国峠(三国山)までの徒歩は僅かで、山頂の南西が山梨県、南東が神奈川県、北側が東京都と三国にまたがる「峠」だ。この峠からは、かつては山頂の南西側は足元が大きく開けていて、桂川の広がりの上に聳えたつ富士山がとりわけ大きく見えていた。しかし現在は木々が成長し、葉を落とした季節以外は木の間越しにしか、その姿は見られない。

三国峠は小広く、気持ちの和む山頂だ。富士山のほかにも大菩薩や三ツ峠山が意外な近さで眺められる。ここから軍刀利山、熊倉山、浅間峠と明るい広葉樹の尾根を縦走しても良い。また、桜並木のある甘草水を経て石盾尾神社へ向かう登山者も多いが、僕が最も好きなのは軍刀利神社奥ノ院を経て軍刀利神社、井戸の集落を抜けて行くコースだ。

山桜も点在する尾根を降り、人工林の中を丁寧につけられたジグザグの登山道を一気に高度を下げると、1時間足らずで立派な社の前に立つ。軍刀利神社奥ノ院だ。社も風格があるが、その横にある巨大なカツラの木は見上げるほどの大きさだ。

軍刀利神社奥ノ院とカツラの巨木(写真/山田哲哉)


さらに鳥居をくぐって整備された道を歩くと軍刀利神社の本殿がある。神社を越えて車道を下っていくと明るい井戸の集落だ。正面に富士山が、右手に権現山や三頭山が大きい。南秋川の谷間の集落から、光あふれる明るい集落へ、歩行4時間少しの、ささやかな「山旅」を感じさせる峠越えだ。

生藤山は、2月から3月にかけて積雪の可能性が高い。柏木野から登る万六尾根は北側斜面のため長く雪が凍り付いていることも少なくない。積雪の情報がなくてもスパッツや軽アイゼン、チェーンスパイクを持っていこう。

3月に入ってからも積雪の可能性は十分にある。雪に対する装備は用意しておきたい(写真/山田哲哉)

 

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
 ⇒山岳ガイド「風の谷」
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