植物の名を知るには図鑑がいちばん効率的。この春から植物図鑑を使ってみよう

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野山に咲く花の名前を知るに際して最も効率の良い方法は、やはり「アナログの図鑑を眺めること」というのは自然・植物写真家の高橋修氏。図鑑をパラパラめくるほうが、画像検索よりもずっと早く見つかり、深く知ることができるという。

 

ソメイヨシノもすっかり葉桜になった。春まっさかりである。夏山シーズンまでに、なまった体を再調整しなければいけない人も多いだろう。若いうちは平気でも、年齢を重ねるごとにより慎重に物事を進める必要がある。私も若いころはなんでも平気だったが、今はしばらく山に登らないと、すぐに体力やバランス力が低下していることに否応なしに気付かされている。より安全な登山のために、まずは近所を散歩することから始め、低山歩き、中級山岳、夏山登山とステップアップしていこう。

登山にトレーニングが必要なように、植物観察も事前のトレーニングが重要だ。普段から自然をちゃんと観察する癖をつけておけば、山でも高山植物が目につきやすい。まずは街中散歩で植物観察を楽しみ、それを高山植物の観察に繋げよう。

植物観察の第一歩は、植物に興味を持つことから。そして興味を持った相手がいたら、その名を知りたくなるのは当然だし、必要なことでもある。初めて会った人には、まず名前を聞いたり自己紹介をしたりするが、植物はそれができないので、図鑑などで名を調べることになる。名が何かわからないものを調べる場合、ネットでは植物の名前を知らないと検索できないから調べるのは案外難しい。「白い星形の小さな花」なんて検索しても知りたい花であった試しがない。

そこで有効なのが、アナログな行為だが、紙に印刷された図鑑をパラパラめくって見ることだ。紙の図鑑はパラパラめくることで、人間の脳による何種類もの植物の画像検索が可能になる。人間の脳の力の潜在能力はすごいのだ。この方法のほうが現時点ではネットの検索よりも植物の名前を調べるのに適していると思う。

パラパラとページをめくって写真を見ておくことは、現地で植物の名を調べる場合でも有効な手段だ。人間の脳は頭の中に検索パターンとして、花をシルエットとして認識し、型紙のようなものに変換するシステムを持っている。

花なら一度覚えた名前は思い出せなくても、その型紙を完全に忘れてしまうことは少ない。だから花を見つけたときに、以前に図鑑で見たことがある花ならば、「名前は覚えていないけど、なんか見たことはある!」となるのだ。そして、今度は図鑑をパラパラめくると、今まで同じものに見えて、わからなかった花がサッと目に止まり、「これだ!」となる(はずである)。

世の中には数多くの植物図鑑がある。自分に適した図鑑を手にとって探し当ててほしい


普段から図鑑を見ておくことで、外で花を見た時、名前が思い出せなくても、それがどの花であるか見分けられるようになっていくのだ。だから春から高山植物図鑑を読んでいれば、この夏山でとても役に立ってくれることだろう。

私は植物好きであるから、よく植物図鑑を読む。植物図鑑には、その植物の大きさや形だけでなく、名前の由来や、面白い生態のことなども書かれており、「へえーそうなの。」と新しい発見につながることが書いてあることも多く、実は読み物としても楽しい(個人的感想です)。

植物図鑑の読む部分は短いから、電車の中とかで読むのもよい。ちょっと読みにちょうどよいのだ。それに私は図鑑を読み始めると急に眠くなる事が多く、眠くなったらすぐに寝ることもできるから、ベッドで寝る前に図鑑を読むことも楽しみだ。

 

植物図鑑を選ぶことから始める植物観察

植物図鑑は皆それぞれ特徴がある。できる限り書店で実物を手に取って見て、気に入ったものを選ぶのが一番だ。植物の写真のきれいさや、見分けのポイントがちゃんと写っているかどうかが、判断基準のひとつになるだろう。文章でも、上級者向けの図鑑はデータ重視なので初心者にはとっつきにくい。初心者でも名前を覚えやすいように、植物の特徴や名の由来などが書いてある図鑑は読み物としておもしろい。

よい図鑑を選ぶことが、自然と仲よくなれる重要なアイテムのひとつ。自分にあった図鑑は、最高の自然の中の道しるべになるだろう。

高山植物の図鑑の決定版と思われるのは「山溪ハンディ図鑑 高山に咲く花」「山渓ハンディ図鑑 山に咲く花」の2冊だ。山に持っていくには重すぎるのが最大の欠点である。

山の植物図鑑の決定版がこの2冊。少し重いが山の植物の道標となる


しかし、正確に植物の生えている環境を写しこんでいるだけでなく、植物の美しさも表現されている写真図鑑だ。見分けの難しい植物は、超アップ写真も多用されており、専門用語がわからなくてもよくわかる、とてもおすすめの図鑑である。

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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