高山植物の大量盗掘を受け、地元住民らで結成。アポイ岳ファンクラブ
豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、北海道のアポイ岳で高山植物の保護・再生に取り組んでいる「アポイ岳ファンクラブ」を紹介する。
取材・文=一ノ瀬伸、写真=アポイ岳ファンクラブ
アポイ岳ファンクラブ 〈 2013年度認定 〉
Area:アポイ岳Main activity:高山植物の保護・再生
Group profile:
高山植物の大量盗掘を受け、1997年に様似町住民らで結成。登山道整備、盗掘防止パトロール、研究者と共同での植物再生活動などに取り組む。北海道内外に約150人の正会員がいる。
https://apoi-fc.com/
盗掘事件をきっかけに設立、「お花畑を守らなきゃ」
今から25年前、事件は起こった。北海道・アポイ岳の固有種である高山植物、ヒダカソウが大量に盗掘されたのだ。
「100株くらい盗られて、すごく動揺しました。新聞でも大きなニュースとして報じられました」
当時地元の様似(さまに)町職員で盗掘の第一発見者の田中正人さんは振り返る。事件を受け、貴重な高山植物を守ろうと地元住民らで結成されたのが、アポイ岳ファンクラブ。現在、田中さんが会長を務める。
会は盗掘や踏み荒らしを防ぐために、まず、曖昧な部分もあった登山道を明確化したうえで、パトロールを実施。定期的な登山道整備と見回りを続けている。
盗掘を防げば、高山植物は回復するだろうと考えた。だが、そうではなかった。新たな問題がアポイ岳の自然を襲ったのだ。
「盗掘は減っているのに、植物は増えるどころか、急速に減りだした。温暖化です。黙って見ているわけにもいかないので、再生活動を始めました」
そして、メンバーや研究者らで構成する委員会が2005年に発足。五合目付近に設けた実験地に高山植物の苗を植え、再生に向けた調査を行なっている。
2011年からは「アポイドリームプロジェクト」と題し、地元の中学生が自宅などで育てた苗を実験地に移植している。「子どもたちが自然に興味を持ったり、大人になってからもアポイ岳のことを気にしてもらえたらうれしいです」。
近年は、本来お花畑があった場所に増えたハイマツの枝払いをしたり、生息数が減少する国指定天然記念物の高山チョウ、ヒメチャマダラセセリの保護に日本チョウ類保全協会と共同で取り組んだりして、一定の成果を挙げている。
また、オリジナルグッズが大好評だ。特に3年前に発売した、アポイ岳のマダニを樹脂に封入したネックレスやキーホルダーなどのグッズは在庫が不足するほどの人気ぶりだ。売り上げは活動の資金に充てている。
花がたくさん見られるアポイ岳に戻したい―。メンバーはその思いをもって、次々に直面する課題にひとつひとつ立ち向かう。
★日本山岳遺産認定地 詳細: アポイ岳[北海道]アポイ岳ファンクラブ (2013年)
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日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。
支援団体の条件
- 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
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- 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体
助成対象となる活動費の主な用途
- 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
- 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
- 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費
助成金総額 250万円(予定)
詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html
(山と溪谷2022年8月号より転載)
プロフィール
日本山岳遺産基金
日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/
日本山岳遺産の横顔
日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!