「スズメバチ」〜危険度MAX!アレルギー反応でショック死することも|山に潜む危険生物(5)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。『山に潜む危険生物』では、生物について知識を深め、回避法や対処術を学びましょう。第5回は毒性も攻撃性もトップレベルの「スズメバチ」です。

監修=羽根田 治
 構成・文=岡村朱万里
イラスト=東海林巨樹
 似顔絵イラスト=平のゆきこ
 写真=PIXTA

 

日本全国の野山で遭遇の危険がある、スズメバチの仲間。刺された場合、局所症状だけでなくアレルギー症状に要注意だ。死に至る恐れがある「アナフィラキシー・ショック」を見極め、一刻も早く医療機関にかかるなど最善策を施そう。


オオスズメバチ

体長27~40mm。日本最大種のスズメバチで、平地や低山の森林などに生息。土中や樹洞などに営巣し、初夏~秋に拡大する。橙色の体に黒い横斑があり、攻撃性や毒性が強い。


キイロスズメバチ

体長17~24mm。平地から低山に生息し、木の枝、崖、土中、家屋の軒下や壁などに営巣する。体全体に黄色の毛が密生するのが特徴。国内のスズメバチ被害の大半はこの種による。

 

スズメバチの危険性

スズメバチに刺された場合に最も恐ろしいのは、ハチ毒アレルギーによるアナフィラキシーだ。2度目以降に刺された場合に症状が出やすいが、スズメバチの集団に襲われるなど毒液が多ければ初めてでもショック死することがある。

事例

ハチの接近でパニックに。
生徒たちが刺された事例

ある年の5月上旬、55歳の男性教師が小学生30人を連れ、岩手県花巻市にある大空の滝に向かっていた。左側は豊沢川に落ち込む谷、右側は地肌が露出した崖になっている山道を歩いていたら、10mほど前方の右の崖のくぼみにスズメバチの巣を発見した。巣のまわりにはかなりたくさんのスズメバチが飛び交っていた。この巣は下見のときにも確認していたもので、そのときはなにごともなく通過できたので、子どもたちにゆっくり歩くよう指示して巣のそばを通過しようとした。しかし、ハチが近くに飛んできたのを機に子どもたちはパニックに陥り、走って逃げだそうとしたため、次々と刺されてしまった。20m以上離れた時点でようやく襲ってこなくなったので救急車を呼び、刺された子どもたちを病院に運びこんだ。ひとりは発熱したが、翌日には回復。残りの数人には腫れと痛みの症状が出たが、数日で回復した。

 

スズメバチに刺されないために

①服装や匂いに気をつける

ハチは黒い色に反応するので黒いウェアは避け、髪の毛も帽子で覆っておくといい。また、甘い匂いに寄ってくることがあるので、香りの強い整髪料や香水、柔軟剤などには注意が必要だ。


②巣に近づかない

ハチが人を刺すのは、巣や仲間を守るため。不用意に巣に近づかないことが最大の予防になる。土中や草むら、木の洞などに巣があると気づきにくい。ハチがいたら周囲をよく観察しよう。


③威嚇行動(モビング)に気づいたらゆっくりその場を離れる

スズメバチは、攻撃の前に威嚇行動(モビング)をする。目の前でホバーリングし、毒液を噴射したりカチカチと警告音を鳴らしたりしはじめたら要注意。焦らず身をかがめ、ゆっくり(秒速1cm程度)巣から離れよう。急な動きはハチを刺激してしまうので避けて。

 

スズメバチに刺されたときの対処法

①アナフィラキシーの兆候があればただちに救助要請を

スズメバチに刺されたら、巣から離れた場所で全身症状の有無を確かめよう。意識障害、発熱や震え、顔面蒼白、嘔吐、下痢、浮腫、粘膜の赤みや腫れなど、刺された場所以外に症状がある場合はアナフィラキシー(特異過敏症)の恐れがある。ただちに救助要請し、医療機関へ搬送しよう。全身症状がなければ局所症状の処置をして自力下山できるが、刺されてから1時間くらいは引き続きアナフィラキシーの兆候がないか注意深く観察を。


②流水で洗い流す

ハチ毒は水に溶けやすいので、刺された箇所を流水でよく洗い流そう。ペットボトルの水を1本持っておくと、山中で傷口を洗うのに役立つ。ポイズンリムーバーや指で毒液を絞り出してもいい。


③ステロイド軟膏を塗る

抗ヒスタミン剤入りのステロイド軟膏があれば、傷口にたっぷり塗っておこう。濡れタオルなどで患部を冷やしたり、市販の解熱鎮痛剤を飲んだりすることで、痛みが軽減することもある。

コラム

エピペンとは?

ハチ毒に対する特異過敏症の人は10人に1人いるという。スズメバチやアシナガバチに一度刺されたことがある人は特に要注意。心配な人は医療機関で抗体検査をし、陽性ならエピペン(アドレナリン自己注射キット)を処方してもらおう。搬送に時間がかかる場所でアナフィラキシーショックが起きた場合、エピペンの使用が唯一の有効な処置となる。

山と溪谷2022年8月号より転載)

 

 

プロフィール

羽根田 治さん(山岳ライター)

はねだ・おさむ/1961年生まれ。長野県山岳遭難防止アドバイザー。山岳遭難や登山技術、沖縄、人物などをテーマに執筆活動を続ける。『野外毒本』(山と溪谷社)など著書多数。

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