「毒ヘビ」〜猛毒注意。こいつらだけには手を出すな!|山に潜む危険生物(2)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。『山に潜む危険生物』では、生物について知識を深め、回避法や対処術を学びましょう。第2回は咬まれれば命にも危険が及ぶ「毒ヘビ」です。

文・写真=羽根田 治
イラスト=東海林巨樹
似顔絵イラスト=平のゆきこ

 

日本国内で注意すべき毒ヘビはニホンマムシ、ヤマカガシ、ハブの主に3種。いずれも毒性が強く、咬まれると重症化することもあります。草むらやヤブのなかを歩くときは足元などに要注意を。


ニホンマムシ

体長40〜60㎝。胴が太く、褐色の銭形斑紋が左右非対称に並んでいるのが特徴。体色は茶系、赤系、黒系など変異が大きい。瞳孔は猫のような縦型。草地や草むら、田畑、山地などに生息し、カエルやネズミなどを捕食する。とぐろを巻いていることも多い。冬は土中で冬眠する。


ヤマカガシ

体長60〜120㎝。まれに150㎝ほどになる個体も。体色は地域や個体によってかなり差があるが、東日本の個体は黒と赤の紋様が並び、西日本の個体は紋様が不明瞭で地味な傾向がある。瞳孔は丸い。田や河川の周辺など水辺を好み、主にカエルを主食とする。冬は土中で冬眠する。


ホンハブ

体長100〜200㎝。大きな三角形の頭部と細い首が特徴。体色は黄褐色で、大きな黒褐色の斑紋が不規則に並ぶ。人家周辺から畑、草むら、森林にまで生息。ネズミなどの小型哺乳類を主な餌とする。夜行性で冬眠はしない。南西諸島にはこのほか4種のハブが生息する。

 

毒ヘビの危険性

毒をもつヘビに咬まれると、毒牙から毒液が注入されて、さまざまな症状が引き起こされる。ニホンマムシやハブの毒の主成分は出血毒と呼ばれるもので、タンパク質を分解する酵素が含まれているため、筋肉などの組織を壊死させてしまい、場合によっては重い後遺症が残ることもある。一方、ヤマカガシの毒は、組織を破壊することはないが、出血を止まらなくする作用があり、全身的な皮下出血や脳内出血、内臓出血などを腎不全などを引き起こす。また、首の背面にある毒腺からは毒液が分泌され、これが目に入ると、最悪、失明してしまう。

事例

完治までに時間がかかり、
後遺症も残った事例

2018年8月下旬、渓流釣りをするために単独で宮城県加美郡の鳴瀬川水系の沢に入渓した50歳男性が、草付き斜面に不用意に左手をついたときに、マムシに薬指を咬まれてしまった。その瞬間は針で刺されたような痛みがあっただけだったが、しばらくしても出血は止まらず、指も腫れ鈍痛も生じてきた。自力で車を運転して駆け込んだ病院では、抗生物質の点滴と破傷風の注射を受けたのちに、入院措置がとられた。

その後、左手肘から肩にかけてのむくみ、目眩、複視(ものが二重に見える症状)などの症状が現われ、結局3日間入院することになった。

退院後も地元の病院への通院とリハビリを続けたが、毒で組織が壊された薬指の第一関節は真っ直ぐ伸びず、曲がったまま固まってしまった。

 

毒ヘビに咬まれないようにするために

①草むらやヤブのなかでは足元に注意

毒ヘビには保護色をしている個体も多く、野山では気づきにくい。とくに視界が遮られがちな草むらやヤブのなかでは、そばにヘビがいないか足元に注意しながら行動しよう。マムシやハブは木に登ることもあるので、頭上への注意も必要だ。


②むやみに手をつかない

上の事例のように、不用意に地面に手をついたところに毒ヘビがいると咬まれてしまう。急斜面の登り下りで、手をついたりホールドをつかんだりするときには充分に注意すること。また、大きな岩の間や倒木の陰に潜んでいることも多いので、むやみに手を突っ込んだりしてはならない。


③見つけたらフリーズする

ヘビを見つけたら、そばに近づかず、フリーズ(動作を止めて、凍りついたように動かなくなること)して放っておくこと。間もなくヘビのほうから逃げていく。ちなみにヘビの攻撃範囲は全長の半分〜2/3程度と言われているので、1.5m以上の距離を保てば、まず問題ないだろう。

 

毒ヘビに咬まれたときの対処法

①毒液を吸い出す

傷口をきれいな水で洗い流し、傷口を強くつまんで毒液を体外にしぼり出す。ポイズンリムーバーがあれば、傷口からの毒液の吸引・排出を繰り返す。口で毒液を吸い出すのは、口内に傷や虫歯があると危険なのでやってはならない。ナイフなどで傷口を切開して毒を出そうとするのも厳禁だ。


②傷口より心臓側を軽く縛る

毒のまわりを少しでも遅らせるため、ハンカチや三角巾などの幅広の布で傷口と心臓の間を軽く縛る(手足の咬傷のみ)。あまりきつく縛ってはならない。医療機関に到着するまで、10分に1回1分ほどは布を緩めて血流を再開させる。なお、もし可能ならば咬まれたヘビの写真を撮っておく。


③なるべく早く医療機関へ

早急に医療機関で診断・治療を受ける。車や救急車を使えるなら迷わずに利用するが、山中の場合は自力で急いで下山するしかない。かつては、毒の巡りが早くなるので走ってはならないとされていたが、今日では走ってでも医療機関に駆け込んで、いち早く受診したほうがいいとされている。


④患部を冷やさない

咬まれた箇所は腫れてくるので冷やしたくなるが、血流が悪くなり組織が壊死してしまう。毒ヘビの咬傷に関しては、アイシングは行なわないこと。血液中の毒素濃度を下げ、毒素排出の排尿を促すために、水分は多めに摂取する。ただし心拍数を上昇させるアルコールやカフェインはNG。

山と溪谷2022年5月号より転載)

 

 

プロフィール

羽根田 治さん(山岳ライター)

はねだ・おさむ/1961年生まれ。長野県山岳遭難防止アドバイザー。山岳遭難や登山技術、沖縄、人物などをテーマに執筆活動を続ける。『野外毒本』(山と溪谷社)など著書多数。

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