「カ・アブ・ブユ」〜小さな体で攻撃力抜群|山に潜む危険生物(4)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。『山に潜む危険生物』では、生物について知識を深め、回避法や対処術を学びましょう。第4回は、小さな体で攻撃力抜群の「カ・アブ・ブユ」です。

監修=羽根田 治、構成・文=岡村朱万里、イラスト=東海林巨樹、似顔絵イラスト=平のゆきこ、写真=PIXTA


さまざまなウイルスを媒介し、世界で最も人を殺している危険生物、カ。刺されれば腫れやかゆみが長引くブユやアブ。登山をしていれば必ずどこかで遭遇する吸血昆虫だが、身近な生物だからと侮らず、刺される前の対策を心掛けよう。

ヤブカの仲間で最もよく見られるヒトスジシマカ(右のイラスト)は、体長約4.5㎜。体色は黒で、白い縞模様と、中胸背面の白い縦条が特徴的。ボウフラ(幼虫)は小さな水溜まりでも発生し、日中に盛んに吸血する。デング熱ウイルスを媒介することでも知られる。このほか国内には、ウエストナイルウイルスや日本脳炎を媒介するイエカの仲間や、マラリアを媒介するハマダラカの仲間も生息する。これらのカは、主に夕方~夜に活動する。

アブ

鋭い口器で動物や人の肌を噛み、吸血するハエの仲間。イヨシロオビアブ(左イラスト)は体長9~12㎜。黒い腹部に白い帯が数本入る。山地の渓流沿いなどに生息し、産卵後に激しく人を襲う。早朝や夕方に活発になるほか、排気ガスに寄ってくることも。刺された瞬間は激しい痛みと出血があり、あとから腫れと激しいかゆみが出る。このほか、日中も活発に活動するヤマトアブや、スズメバチにそっくりなアカウシアブなどにも要注意。

ブユ

ブヨ、ブトとも呼ばれるハエの仲間。春~秋にかけて、山地の渓流沿いなどに発生する。アシマダラブユ(右イラスト)は、体長3~5㎜。体色は黒褐色で、脚が黄色と黒の斑模様。朝夕に人や動物の肌を噛みきり吸血する。刺された瞬間は軽く痛む程度だが、しばらくすると激しいかゆみが起こり、出血点を中心に丘疹が生じる。体質によってはアレルギー症状が出ることもあるので要注意。ブユと似たヌカカは、網の目もくぐるほど小さい。

 

 

事例

大群襲来でなすすべナシ。
長引くかゆみに悩まされる

奥多摩の巳ノ戸谷で沢登りをしていた20歳女性が、アブの大群に襲われた。肌が露出していたのは顔と手だけだったので、しゃがみこんで小さくなり、懸命に顔をガードした。それでも隙間から入ってきたアブに、まぶたの上や耳など5カ所ほど刺された。刺された瞬間はとても痛く、無我夢中でちぎるようにしてアブを体からはがした。しばらくして攻撃が一段落したのを見計らい、走ってその場を去った。

刺された箇所はひどく腫れ上がり、持っていた化膿止めの薬を塗っておいた。腫れは2日ほどで引いたが、かゆみはしばらく続いた。

 

カ・アブ・ブユに刺されないために

①吸血昆虫の出没場所と時間帯を把握する

多くの吸血昆虫は水のある場所で発生する。カは夏の低地に多く、小さな水溜まりやドブ川でも発生する。ブユは水のきれいな山地の渓流沿いで、春から秋にかけて発生。アブは山地に多く、毎年決まった場所に発生するので事前に情報収集を。薄明薄暮に活発になるが、日中に活動するものも。

②肌の露出をなるべく避ける

なるべく衣服で肌を覆い、露出を減らすことが重要だ。夏でも長袖長ズボンを着用し、首元も日よけ布付きの帽子や手ぬぐいなどでカバーしたい。腕まくりや、サンダル履きでの休憩もハイリスク。アブは靴下やタイツの上から刺すこともある。

③虫よけグッズを使用する

発生が予測される場所に出かけるなら、肌の露出部やウェアの襟元・袖口、靴下やタイツなどに、ディート(ジエチルトルアミド)などを配合した虫よけ薬を塗布しよう。定期的な塗り直しも忘れずに。モスキートネットや蚊取り線香もあると、より安心だ。

虫よけ薬は、商品によって有効成分の種類や濃度が異なる。カやアブ、ブユに効くか表示を確認しよう。モスキートネットは、テント用もある。

 

カ・アブ・ブユに刺されたら

①まずはその場を離れる

身を守るために人を刺すハチと違い、吸血昆虫は自ら人に近づき、しつこく襲ってくる。攻撃されたらじっとせず、急いでその場を離れよう。ハチの場合は、急な動きで振り払うなどの動きは危険だが、カやアブ、ブユの場合は振り払っても問題ない。

②毒液を出し、水で洗う

安全な場所に逃げたら、患部を流水で洗い流そう。ペットボトルの水を携行しておくと、虫刺されやケガの際に役立つ。アブやブユの場合は、刺し口をギュッと指で絞る、またはポイズンリムーバーなどで毒液を吸い出してから洗い流すと効果的。

③ステロイド軟膏を塗る

抗ヒスタミン剤を含むステロイド軟膏があれば患部に塗っておこう。市販の虫さされ薬でも、これらの成分を含むものならばより効果的だ。かゆみがひどい場合は、抗ヒスタミン剤(市販の花粉症の薬や、かゆみ止め内服薬など)を飲むのも効果がある。

④症状がひどければ医療機関へ

ブユは、体質によってはアレルギー症状が出ることも。全身症状がある場合は直ちに病院へ。市販薬が効かない場合や、患部を掻き壊して化膿してしまった場合などは、下山後に皮膚科で診てもらおう。カによるウイルス感染症が疑われる場合も病院へ。

山と溪谷2022年7月号より転載)

 

プロフィール

羽根田 治さん(山岳ライター)

はねだ・おさむ/1961年生まれ。長野県山岳遭難防止アドバイザー。山岳遭難や登山技術、沖縄、人物などをテーマに執筆活動を続ける。『野外毒本』(山と溪谷社)など著書多数。

登山力レベルアップ講座

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