「雷雲」〜登山者が最も注意すべき雲|雲から知る山の天気(5)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。山の天気の変化を知る手掛かりとなるのが「雲」。『雲から知る山の天気』では、その種類と、天気との関係を山岳気象の専門家が解説します。第5回は、登山者が最も注意すべき「雷雲」です。

文・写真=窪田 純、猪熊隆之
イラスト=平のゆきこ

やる気を出して、ぐんぐん上方へ成長中の雷雲


山で遭遇したくない雲のひとつが雷雲。雷雲の発生を予想する上で鍵となるのが、上空の寒気と、地上付近の暖かく湿った空気の関係だ。

 

雷雲の特徴

登山者にとって最も危険な雲

入道雲がさらにやる気を出した(雲が垂直方向にぐんぐんと成長)ものが雷雲だ。別名を「積乱雲」といい、対流雲のひとつだ。発達すると雲頂は10kmを超えるものもある。雷雲が最も発達して雲の上部が平らになると、形が金属加工で使う金床に似ていることから「かなとこ雲」と呼ばれる。雷雲は夏に見られるイメージが強いかもしれないが、冬の日本海側でもよく見られ、短時間の強い雨や雪、局地的な大雨や大雪、落雷、突風、ひょうなどをもたらすおそれのある、登山者にとって最も注意すべき危険な雲だ。

 

入道雲から雷雲になりやすい条件

上空の寒気と、地上の暖かく湿った空気に注目

雲がやる気を出して入道雲から雷雲に成長するのは、大気の状態が不安定なときだ。大気が安定か不安定かを調べるには、上空に強い寒気が入っているか、また地上付近に暖かく湿った空気が流れ込んでいるかに注目したい。特に盛夏、高層天気図の500hPa面で-6℃以下の寒気が入っているときは、雷雲の発生・発達に注意が必要だ。

上空の寒気
ヤマテンの高層天気図で500hPaのもの。-6℃のラインが目的の山域にかかっているときは要注意。


暖かく湿った空気
ヤマテンの850hPa相当温位図。黄色から赤になるほど空気が暖かく湿っており、大気は不安定に。


雷雲が発達する目安

時期 500hPa面の気温
12~3月 -30℃以下、
特に-36℃以下
4月下旬~5月下旬、
10月中旬~11月上旬
-21℃以下、
特に-24℃以下
9月下旬~10月上旬 -18℃以下
6月下旬~7月上旬 -12℃以下
7月中旬~9月上旬 -6℃以下

 

雷の性質について知ろう

雷の対策をするには、まずは雷の性質を知る必要がある。昔から雷は乾いたものより湿ったものに落ちるとか、木製より金属製のものに落ちやすいなどと言われてきたが、これは誤りであることがわかっている。では、どういった所に落ちやすいのかというと、突起状のものや高いものに落ちやすいとされる。

雷雲の上部が横に広がり、かなとこ雲が見られる。こういった雲の下では、落雷によるリスクだけではなく、短時間強雨による沢の増水にも注意が必要だ。沢沿いから離れよう

 

落雷の回避術

1.避難をするとき

木・岩から離れる
落雷の危険がある時に近づいていけないのは、次のイラストのような場所である。尖った山頂や高い木の下はもちろん、雷が落ちた衝撃により滑落の危険があるため、岩場などからも離れよう。


間隔を空ける
落雷の危険があるときは、ストックなどの突起物は地面に置き、稜線など高い所からより低い所へ避難を。二重稜線などの窪地、山小屋や避難小屋への避難も有効で、パーティの場合は個々の間隔は最低でも2mは空けたい。

 

2.雷に遭遇してしまったら

しゃがんで対処する
万が一、雷に遭遇してしまったら、少しでも落雷を回避する姿勢をとろう。両足を開いて立ったり、地面に伏せたりすると、雷が直撃しなくても感電するおそれがあるため危険だ。イラストのように両足を閉じて身を屈めた姿勢がよく、両手で耳をふさぐことで鼓膜を守ることにもなる。また、お尻は地面につけないように注意したい。

豆雲知識

雨が作り出す匂いとは?

皆さんは雨によって発せられる匂いを知っているだろうか。実は雨には、降り出したときに生じる「ペトリコール」と、やんだあとに生じる「ゲオスミン」という2つの匂いが存在する。ペトリコールとは、ギリシャ語で“石のエッセンス”という意味で、ある種の植物から生じた油が、岩石や土壌に付着し、その油に雨が当たることで匂いが発せられる。一方、ゲオスミンは、“大地の匂い”を意味する。土壌のバクテリアなどによって作られたカビ臭いような匂いで、雨水が蒸発する際に匂いが強まる。アリストテレスは、雨の匂いのことを“虹の匂い”と呼んでいたそうだ。街でも山でも雨の匂いを探してみては?

山と溪谷2022年8月号より転載)

 

 

プロフィール

窪田 純さん(山岳気象予報士)

くぼた・じゅん/1981年、山梨県北杜市生まれ。気象予報士。空や雲を見るのが好きで気象予報士をめざす。某民間気象会社勤務を経て、ヤマテンへ。学生時代は山岳部で活動し、今は家族や友人と手軽な山を楽しむ。

登山力レベルアップ講座

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