「クマ」〜性格は臆病だが攻撃力は国内最強!|山に潜む危険生物(1)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。『山に潜む危険生物』では、生物について知識を深め、回避法や対処術を学びましょう。第1回は誰もが認める日本の山の最強生物「クマ」です。

文・写真=羽根田 治、写真=PIXTA、編集部
生物イラスト=東海林巨樹
イラスト=平のゆきこ

 

登山者がクマに襲われて負傷する事故があとを絶ちません。そのほとんどは至近距離での遭遇が招いたもので、元来クマは臆病でおとなしい動物です。お互いに不幸な遭遇を避けることで、共存の道を模索しよう。

生息域

ヒグマは北海道の主に森林地帯に生息。ツキノワグマは本州と四国の山地に生息するが、四国では徳島・高知県境付近に20頭前後が生息するのみとなっている。

ツキノワグマ

体長は成体で150㎝ほど。黒や暗褐色の毛色で胸に月の輪の形をした白斑がある。植物性が強いが雑食性。

ヒグマ

体長は190㎝から230㎝ほどとツキノワグマよりも一回り大きい。雑食性で、木の実、果実、サケなどなんでも食べる。

 

クマの危険性

ヒグマにしてもツキノワグマにしても、基本的に性格は臆病で人間を恐れている。クマが先に人間の存在に気づけば、たいていクマのほうから逃げていく。ただし、至近距離でばったり出くわしたり、子グマを連れた親グマと遭遇したときは、クマは身の危険を感じ、わが身やわが子を守るために攻撃を仕掛けてくる。また、近年では人間を恐れず近づいてくる「新世代クマ」と呼ばれる個体も。クマによる人身被害のほとんどは、その鋭い爪と牙で攻撃を受けるもので、顔面や頭部の受傷が多く、場合によっては重篤な傷を負ったり死亡に至ることもある。

事例

自分より小さい個体でも注意が必要

2021年7月19日の午後2時半ごろ、軽井沢の石尊山から下山していた単独行の男性(36歳)が、標高1300mあたりの林道で体長1mほどのツキノワグマの子グマと遭遇した。クマは前方10mほどのヤブのなかから突然現われ、男性に突進してきて揉み合いとなった。男性は前蹴りなどで必死に抵抗したが、左手の指の骨を折るなどの重傷を負った。攻撃は20〜30秒で終了してクマは逃げていった。 男性は人里まで自力下山し、119番通報して救急車で病院へ搬送。クマと遭遇した際、クマよけスプレーはすぐ手にできるところに装着していたが、直後にクマが襲いかかってきたので、構える暇もなかった。クマ鈴はつけていなかった。あとになって知ったことだが、現場近くでは数日前にもクマの目撃情報があったという。

 

クマに出合わないための回避法

①クマの出没情報をチェックする

クマの出没情報については、自治体やビジターセンター、山小屋、キャンプ場管理者などが把握しているので、ホームページをチェックしたり直接問い合わせるなどして、事前に確認しておくといい。予定コース周辺でクマが出没している場合は、計画を変更・中止するのが賢明だ。

登山道周辺でクマが出没した際には最寄駅や登山口、コース上などに情報が掲示されることもある

②真新しい痕跡(糞、足跡、爪痕など)に注意

土や残雪の上に鮮明な足跡や新しい糞を発見したらまだ近くにクマがいるかもしれないので、早々にその場を離れよう。木の幹に刻まれた爪痕、クマ棚(樹上で木の実を食べたときの痕跡)などにも要注意。土や枯葉がかけられたシカの死骸の近くにもクマが潜んでいる可能性がある。

(左)クマに樹皮を剥がされた「クマ剥ぎ」の跡。原因については諸説あるが、樹皮の下のあま皮を舐めるためともいわれる/(右)地面に残されたクマの糞

③音を発しながら行動する

クマに自分たちの存在をいち早く気づかせるために有効なのが音を発すること。ザックにクマ鈴をつける、ラジオを流しながら歩くなど、自然界にはない音が効果的だといわれている。先が見通せない道や視界の悪い状況下では、手を打ち鳴らしたり、笛を吹いたりしながら行動するといい。

クマ鈴、ラジオ、ホイッスルなどの音を感知すれば、先にクマのほうからその場を離れていく。ただし常に音を発する必要はなく、多くの登山者が行き交う場所での使用は控えるなど状況を考え、効果的に活用しよう

 

クマに出合ったらこうして対処しよう

①静かに後退して距離をとる

数十距離でクマと遭遇したときは、立ち止まって静かに相手の様子を観察する。近づいてこなければ、ゆっくりあとずさりしてその場を離れよう。クマとの間に立ち木などがあれば、それを挟む位置に移動して徐々に距離をとる。慌てて逃げ出したり大声を出すのはNGだ。


②姿を大きく見せる

もしクマが近づいてきたら、大きく腕を振り、穏やかに声をかけて自分たちの存在に気づかせる。そばに岩や倒木があればその上に立ち、仲間が何人かいるならなるべく固まって手足を広げ、こちらの姿を大きく見せるといい。人間を認識すれば、たいていクマがその場から去っていく。


③クマよけスプレーを発射する

万が一、クマが突進してきたら、クマ撃退スプレーを使って対抗する。5mほどまでに迫ったときに、目と鼻、口を狙って一気にスプレーを噴射させよう。スプレーはすぐに取り出せるようにホルスターなどを使って装着し、素早く的確に使えるよう事前に練習しておくこと。


④防御姿勢をとる

スプレーを携行していなければ、地面にうつ伏せになり、両手を首の後ろで組む防御姿勢をとって攻撃をやり過ごすしかない。ザックを背負っていれば、背中はおのずとガードされる。自己防衛のための攻撃なら短時間で終わるはずなので、とにかくひたすら耐えて、クマが立ち去るのを待つことだ。ナタや棒などで応戦して撃退したケースもあるが、致命傷を負わされる確率も高いので奨励はできない。

首、顔面、腹、下腹部などの急所を守るための防御姿勢

山と溪谷2022年4月号より転載)

 

 

プロフィール

羽根田 治さん(山岳ライター)

はねだ・おさむ/1961年生まれ。長野県山岳遭難防止アドバイザー。山岳遭難や登山技術、沖縄、人物などをテーマに執筆活動を続ける。『野外毒本』(山と溪谷社)など著書多数。

登山力レベルアップ講座

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