これで春山登山も楽しめる!山岳医が教える花粉症対策

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暖かな日が増え、あちこちで花が咲き始める春は絶好のハイキングシーズン。しかし、春のスギやヒノキの花粉が飛ぶ時期でもあり、花粉症持ちの人には憂鬱な季節でもある。2024年は前年よりは飛散量が少なくなる見通しだが、それでも要注意レベルの飛散状況となっている。国際山岳医でアレルギーを専門とする粕谷志郎さんに、おすすめの対策を聞いた。

監修=粕谷志郎、構成=山と溪谷オンライン

登山中、そして下山後にやっておくべきこと

いよいよ登山当日。なるべく飛散量の少ないエリアを選んで登山計画を立てたとしても、暖かい日が数日続けば花粉の量が一気に増えることも珍しくない。当日もしっかり準備をして出かけよう。

目や鼻の「粘膜」を守ろう

花粉症の症状を防ぐためには、目や鼻の粘膜に直接花粉が触れないようにすることが大切。予防グッズの定番、めがねやマスクは登山でも必携だという。

「めがねやサングラスは有効です。特に、側面からの光も遮るスポーツサングラスなどは、花粉も入り込みにくいので効果が高いでしょう。マスクは効果がありますが、行動中はどうしても息苦しくなります。その場合は着けない方がかえって楽かもしれません」

マスク、めがねは花粉症対策の基本

マスク以外に、鼻から入ってくる花粉を防ぐ方法はあるのだろうか。

「おすすめなのは、ワセリンです。ドラッグストアなどで販売されているワセリンを綿棒にとり、鼻の中にまんべんなく塗ると、粘膜に直に花粉が着くのを防げます。登山前にやっておけば、けっこう効果がありますよ」

鼻の中にワセリンを塗るだけ。簡単だが、効果がある

行動中に激しい症状が出た場合はどうすればよいのだろうか。

「目を洗ったり、鼻うがいをしたりというのは、粘膜についた花粉を洗い流す効果はありますが、症状を緩和したり、新たな花粉を防ぐことはできません。やはり抗ヒスタミン剤の服用や点眼薬、点鼻薬を使うのがよいでしょう」

「点鼻薬を使ったあとに喉が渇く感じがしたら、副作用の可能性があります。これは脱水のサインではないので特に多めに水分をとる必要はなく、汗のかき方などに合わせて、普段の登山の通りに水を飲めば大丈夫です」

帰宅後は花粉を家に持ち込まない

ウェアについては花粉が落としやすいツルツル、サラサラした素材が推奨されることも多いが、登山についてはさほど気にしなくてよいという。

「確かにそういった生地のウェアなら花粉を落としやすいという点はありますが、それは行動中の効果よりも、家に花粉を持ち帰らないという点で有効かもしれません」

ナイロンなどのさらっとした素材は、花粉が付着しにくい
フリースのような起毛素材は、花粉がつきやすく落ちにくい

下山後は、山で体に付着した花粉を家の中に持ち込まないようにすることが大切だ。

「帰宅したらすぐに着替えて、衣類に付いた花粉を家の中に広げないようにしましょう。ザックは掃除機で吸うなどして、表面の花粉を取り除いておくのが大切です。家の中でブラシをかけたりすると、逆に花粉が散るので注意したいですね」

「花粉がついたウェアのケアは通常の洗濯で大丈夫です。繊維に入り込んだりした花粉をすべて落とすことができなくても、花粉の総量を大幅に減らせるので、アレルギーの心配はないでしょう。ただし、外干しは避けて乾燥機や室内干ししましょう」

減感作療法はシーズン後に始める

花粉の抽出成分をすこしずつ体内に入れてアレルギー症状を緩和させる「減感作療法」という免疫治療がある。医師として、また患者としてもこれを経験したことがあるという粕谷さんは「減感作療法は『花粉症が治るのではないか』といった大きな期待をもってとらえられがちですが、効果が持続するのは数ヶ月程度で、アレルギーを根治するものではありません」と話す。

「減感作療法には舌の下に薬を入れる舌下免疫療法と、注射による皮下投与法があります。どちらも数ヶ月かけて少しずつ量を増やしながら原因物質を投与するものです。注射の場合は毎週1回から月1回、舌下の場合は毎日行なう必要があり、短くても効果が現われるまでに3カ月はかかります。花粉症シーズン前や真っ只中には開始できないので、花粉の時期が終わったオフシーズンから始めることになります」

減感作療法は新しい治療法として注目され、これを希望する患者も多いが、継続できない例も少なくない。

「効果が高い治療法ではありますが、強いアレルギー反応が出てしまうケースもあります。また、舌下の場合は自宅でできるのですが、薬を口に入れた後はしばらく安静にしておく必要があり、アナフィラキシーショックに備えて、そばで見ていてくれる家族がいないとできません。減感作療法をやってみたい場合はアレルギー専門の医師のいる病院や耳鼻科などで相談してみてください」

花粉症の対策はいろいろあるので、おっくうがらずに一つずつ実践してみて、自分なりの組み合わせや最適解を見つけよう。つらい症状を抑制できれば、登山はもちろん、春という季節をもっと楽しく過ごせるようになるのだから。

たわわに雄花をつけたスギ

参考資料

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プロフィール

粕谷志郎(かすや・しろう)

日本登山医学会所属、国際山岳医。専門は寄生虫・アレルギー学。1973年岐阜大学医学部卒。岐阜大学医学部助教授、岐阜大学地域科学部教授、華陽診療所長を歴任、現在しずさと診療所内科勤務。日本アレルギー学会評議員、日本衛生動物学会大会長を務めた。1991年、気管支ぜんそくの学童を伴いモンブラン登山を行った。鈴鹿、揖斐、美濃、北アルプス、中央アルプスの山々を週1日ペースで登っている。

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