山で起きる法的トラブルを知る上で必読! 「登山者に必要な法律の知識」
山の楽しみ方が多様化する中で、山の中でもさまざまなトラブルが生じている。人どうしのトラブルの最終的な判断は法律に則って行われるが、みなさんは登山でどれぐらい法律を意識しているだろうか? 溝手康史弁護士は、昨今の登山界で起きている法的トラブルについて、さまざまな角度から論じている。
法治国家である我が国の場合、ふだんの生活で起きるさまざまな対立・トラブルは、基本的には法律に則って解決される。人々は法律に基づいて行動していて、誰か・何かを傷つけた・つけられた、といった場合、当事者間だけで解決できなければ、法律に則って解決の糸口を探していくことになる。それは登山中に起きたことでも同じだ。
しかし、登山中に考えられるトラブルに対して、どれだけの人が法律を意識しているだろうか? 落石で誰かを怪我させてしまった場合の責任、立ち入り禁止を知らずに入山していた場合の対処などを、どれだけの登山者が理解しているだろうか?
そんな山でのトラブルに対して、過去の事例を上げながら丁寧に解説している書籍「登山者のための法律入門」(溝手康史著、山と溪谷社)が、発売された。
著者の溝手氏は、これまで数多くの登山をしてきて、海外の7000m級の高所登山の経験もある登山者という一面も持つ弁護士だ。そんな溝手氏は、冒頭で日本の登山界の現状について、こう述べる。
先進国ではさまざまな紛争を法律に基づいて解決することが当たり前ですが、日本では従来、どちらかといえば、法律とは無関係に紛争をあいまいに処理(ないし、放置)する傾向がありました。紛争のあいまいな処理は、紛争をより深刻化させます。
(中略)
今後、グローバル化の波は登山にも押し寄せるので、法的なルールのあいまいさは、多くの紛争やトラブルをもたらします。
と説明する。
山の楽しみ方は、登山のみならず、トレイルランニング、クライミング、バックカントリーなど多様化しているうえに、近年の外国人訪問者の急増で、登山においても法律の知識が必要な場面が増えてきている。これまで曖昧にされてきたことも、しっかり法律に基づいた判断が必要になってきているという。
こんな場面での法的責任は? 知っておけばリスクを回避できることも
では、どんなケースが考えられるのか? 本書で解説している内容の、一例を紹介しよう。
例えば、友人を登山に誘い、その友人が怪我をした場合、法的に責任は生じるのだろうか? 本書では以下のように解説する。
たとえば、友人と一緒に山歩きをしている時に、友人が登山道から転落する事故が起きても、パーティを組んでいた友人に法的な責任は生じません。途中で一人が先に歩き、遅れた友人が道迷いをして遭難したケースでも、友人間で一緒に歩くべき法的な注意義務はありません。
(中略)
熟練者が初心者の友人を誘って、初めてのアイゼン歩行で転倒して滑落した場合には熟練者に法的責任が生じる可能性がありますが、よほど常識はずれの無謀なことをしない限り、友人間では法的責任は生じないと考えておけば足ります。
予期せずトラブルに巻き込まれてしまったとき、法律を知っておくことで、リスクを回避できたり、もしものことが起きた時の賢明な行動の一助となるはずだ。
本書では、その他にも
- 整備が十分でなかった登山道での事故の責任はどこに?
- 学校登山・ツアー登山・ガイド登山などの引率者の法的責任は?
- 登山道以外の場所に立ち入った場合の法的な責任は?
- 幕営が禁止されている場所でテント登山した場合、処罰される?
など、山で考えられる数々の事例を解説、リスク回避方法を指南している。
溝手氏は、登山者として弁護士として、読者にこうアドバイスする。
自分が法的トラブルに巻き込まれることはないと考えて安心、慢心するのではなく、法律を理解し、法的トラブルを回避する知恵を持つほうがよほど賢明です。
すべての登山者、また登山に関わる仕事をしている人に、リスクマネージメントの一助としてほしい一冊だ。
山で起きる法的トラブルを回避するためのノウハウと、登山のリスクマネジメントについてレクチャーした一冊。パーティ登山やツアー登山時の事故と責任、昨今の登山規制問題、加害者にならないためのポイントをはじめ、興味深いテーマを満載。
登る前にも後にも読みたい「山の本」
山に関する新刊の書評を中心に、山好きに聞いたとっておきもご紹介。