自然にも人にもやさしい、持続可能な活動に取り組む。竜ヶ岳登山道整備の会

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は鈴鹿山脈の竜ヶ岳で登山道整備に取り組んでいる「竜ヶ岳登山道整備の会」を紹介。

取材・文=一ノ瀬 伸、写真提供=竜ヶ岳登山道整備の会

■日本山岳遺産候補地を募集中!

竜ヶ岳登山道整備の会(2021年度認定)

Area:竜ヶ岳
Main activity:登山道整備
Group profile:
2011年から竜ヶ岳の安全登山をめざす登山道整備活動をボランティアメンバーで開始。2017年に会を発足。2021年には、活動を監査する竜ヶ岳自然環境保全推進委員会も立ち上げた。

鈴鹿山脈の中央部に位置し、三重・滋賀の両県境にまたがる竜ヶ岳。標高1099mながら900mほどで森林限界となる。山頂付近はササの草原が広がり、初夏に白い花をつけるシロヤシオが点在する独特の風景が登山者を惹きつける。

ササ原が広がる竜ヶ岳
ササ原が広がる竜ヶ岳

「めったにない地形、景観なんですね。琵琶湖のほうから湿った重たい風が吹いてきて、ときに爆風にもなる。低い山なのに北アルプスの標高3000mの稜線のような厳しい自然環境。そんな稀有な山を後世に残し伝えたいと思ったんです」

「竜ヶ岳登山道整備の会」の藤村雄二代表は、その山の魅力に取り憑かれたひとり。かねてより登山好きだった藤村さんは転勤で三重に移住後、2011年に竜ヶ岳へ登った。その下山時の観光案内所の管理人との出会いをきっかけに、竜ヶ岳や周辺の山で登山道整備やガイドを行なうようになった。当時、竜ヶ岳は遭難が相次いでいて、登山道整備の重要性の高さを感じていたという。

「僕自身が若い頃に厳冬期の八ヶ岳で滑落事故を経験したので、安全登山に対する意識が強くありました」

以降、山で知り合ったメンバーと作業を続け、2017年に会を設立。藤村さんは会社を早期退職し、地元森林組合の一員なって整備に専念した。

竜ヶ岳の登山道にステップを作るメンバー
竜ヶ岳の登山道にステップを作るメンバー

活動は、積雪期を除いてほぼ毎週、ボランティア会員を募って実施。尾根道へのステップの設置や遊歩道の橋の架け替え、ササやシロヤシオの植生保護などその内容は多岐にわたるが、一貫して自然への負担を抑える手法を採用している。

当初、3人だけだった会員は現在では100人を超え、2022年は延べ465人が活動に参加した。 会員は整備のみならず、登山やクライミングなどで各地の山に一緒に出かけている。「みなさんに出会えたことがすばらしい」と藤村さん。活動への〝恩返し〟として多彩なアクティビティを企画して会員を引き連れる。整備手法とともに会の運営にも持続可能性が垣間見える。

整備活動は多いときで約20人が参加。関東方面から夜行バスで訪れる会員も
整備活動は多いときで約20人が参加。関東方面から夜行バスで訪れる会員も

★日本山岳遺産認定地 詳細:竜ヶ岳 [ 三重県 ]竜ヶ岳自然環境保全推進委員会、竜ヶ岳登山道整備の会(2021年)

日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

山と溪谷2023年7月号より転載)

この記事に登場する山

山梨県 /

竜ヶ岳 標高 1,485m

本栖湖の南に位置する山で、山梨百名山にも選定されている。竜ヶ岳の命名は湖に棲む竜の伝説からで、「村人に富士山の噴火を告げ山へと登った」という伝説や「富士山の噴火で熔岩が湖に流れこみ、熱さでこの山に逃げた」などの伝説がある。その山容は美しく、かつては小富士とも呼ばれていた。 近年、竜ヶ岳を有名にするのは、ダイヤモンド富士の初日の出で、毎年1月1日~1月2日はたくさんの登山客で賑わう。 山頂へは本栖湖キャンプ場から約2時間程度。

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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