大雪山の白雲岳避難小屋に親仔のヒグマが出没! その母熊の正体とは?
文・写真=昆野安彦
2023年7月上旬、私は大雪山の自然観察のために白雲岳避難小屋(以下、白雲小屋)を訪れていたが、同地に滞在中、連日のように小屋の周囲に親仔グマが姿を現わした。内訳は母熊と仔熊2頭の計3頭である。白雲小屋では2022年の夏にも一頭のヒグマが頻繁に出没しているが、以下、なぜ今回の親仔グマが白雲小屋に現われたのか、現地での観察を通して考察してみたい。
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私が白雲小屋でこの親仔グマを観察したのは、7月3日、4日、8日、9日の4日間で、いずれの日も最初は小屋の西側の白雲岳東側斜面に現われ、テント場付近の草地で採食しながら雪渓を右から左に移動した後、ハイマツの中に姿を消していた。この移動パターンはほぼ決まっており、この親仔グマの母熊にとって、テント場付近の草地は仔育ての重要な採食場になっていると思われた。
この母熊は私が観察した4日間、テント場や小屋付近に人がいても、まったく恐れる様子もなく採食していたが、この点で思い出すのは昨年、白雲小屋の周辺に頻繁に現れた単独の個体(成獣)である。この単独の個体の出没パターンについては、この『山と溪谷オンライン』での私の連載記事「北海道・大雪山の山小屋にヒグマ現わる」に詳しく紹介しているが、この人を恐れずに採食をするという性質は今年の親仔グマの母熊と非常によく似ていることに気づいた。
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そこで私は今年の母熊(写真3)と昨年の単独の個体(写真4)の写真を比べてみたわけだが、頭部と肩の一部が金色の特徴がほぼ同じで、全体の体型も非常によく似ていた。私の考えでは今年白雲小屋に現われたのは、おそらく昨年頻繁に現われた単独の個体で、この個体(メス)が今年出産したばかりの仔グマを引き連れて白雲小屋に現われている可能性が非常に高いと結論した。
もしこの推測が正しいなら、母熊は白雲小屋周囲の採食場を去年から熟知しているわけで、その熟知した採食場を仔育ての場所に選んだことはごく自然なことと言える。もしそうなら、登山者にとってはとても厄介なことだが、少なくとも今年の秋まではこの親仔グマは白雲小屋に居座ることが予想される。
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白雲小屋を管轄する上川町では、登山者の安全を第一に考え、7月9日~7月15日までの7日間、白雲小屋の利用制限を決定した。その内容は、テントサイトの利用禁止、避難小屋については通常利用を停止(緊急避難利用のみ可)である。
この利用制限は親仔グマの今後の出没状況によってはさらに延びる可能性があり、これから夏山最盛期を迎える大雪山の登山を考えている方々には、この親仔グマの出没状況を十分把握した上で登山計画を立ててもらいたいと思う。たとえば白雲岳避難小屋のホームページには親仔グマの出没状況等が随時紹介されている。
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以上、白雲小屋に出没している親仔グマについて、私が知り得る状況を紹介した。白雲小屋周辺の登山道では、今後もこの親仔グマに遭遇する確率が非常に高いので、できれば今年はこの付近の登山は自粛した方が賢明なのではと思うが、もしこの付近を歩く場合は少なくともクマ撃退スプレーを携帯することが必要と思われる。
プロフィール
昆野安彦(こんの・やすひこ)
フリーナチュラリスト。日本の山と里山の自然観察と写真撮影を行なっている。著書に『大雪山自然観察ガイド』『大雪山・知床・阿寒の山』(ともに山と溪谷社)などがある
山のいきものたち
フリーナチュラリストの昆野安彦さんが山で見つけた「旬な生きものたち」を発信するコラム。