レポート・徳本峠道。古道復興への取り組みに密着

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釜トンネルが開通するまで、島々宿から上高地に入る人たちは徒歩で徳本(とくごう)峠を越えていた。古道・徳本峠道は2018年以来通行止めが続いているが、復興をめざす有志グループが整備作業を続けている。今回、ライフワークとして穂高連峰を撮影し続ける写真家が登山道整備に同行。復興に向けた取り組みをレポートする。

文・写真=渡辺幸雄

かつてトロッコ道が敷設されていたという徳本峠道
かつてトロッコ道が敷設されていたという徳本峠道

古道・徳本峠道は「日本の近代登山の父」と称されるウォルター・ウェストンや芥川龍之介、高村光太郎など文人も歩いたことがあり、かつては信州と飛騨を結ぶ街道として利用されていた歴史をもつ山道である。2014年には日本山岳遺産に認定され、「古道徳本峠道を守る人々」の活動により、橋や崩壊地の整備、草刈りなどが行なわれてきた。通行止め以前は毎年6月に上高地で開かれるウェストン祭の記念山行で、地元小中学生をはじめ大勢のハイカーが往年の古道を越えていた。この古道復旧を望む人は多い。7月7日、「古道徳本峠道を守る人々」のメンバーを中心に、環境省、松本市の担当者など関係者14人が参加し、2018年以来通行止めが続いている徳本峠道の登山道整備が行なわれた。今回機を得て登山道整備に参加することができたので、その模様をレポートする。

朝6時に松本市島々(しましま)の安曇支所に集まり、二俣から岩魚留小屋まで往復し整備する班と上高地・明神から徳本峠に登り、二俣・島々に下りながら整備する班に分かれて行動した。筆者は岩魚留小屋往復の班で行動することになり、林道を通行する許可車両で二俣付近まで入り歩きだす。当地では過去に釣り人がクマに襲われた事案もあり、熊鈴はもちろん熊よけホーンや撃退スプレーなどを準備して向かった。

かつては二俣まで林道が通じていたが、近年度重なる大雨による土砂崩れで林道が土砂で覆われてしまい、100mほど手前で寸断されてしまっている。上部斜面からの崩落が続いており、徒歩で崩落箇所を横切るように進む。

定期的にベアホーンを鳴らしながら進む
定期的にベアホーンを鳴らしながら進む
二俣手前から林道は通行止
二俣手前から林道は通行止

道はこの何年も使われていないが、ときおり復旧整備が行なわれているようで、思ったほど草木に覆われていない印象だ。「行き橋」で本流を渡り左岸へ。2018年の大雨の際、橋が流されてしまったと聞いていた。それはさすがに本流に掛かる堅牢な橋ではなく、支流を横切るための橋だったが、長期間の通行止めになってしまった原因のひとつでもある。しかしこの箇所はすでに長野県による作業が行なわれ、高巻きする形で修復されていて、一般的な登山者であれば通行が可能なことが確認できた。

7月上旬の梅雨時であり、支流からの流水は多め。今回僕は長靴を履いていたので問題なかったが、参加メンバーの中には登山靴のため数メートルの徒渉でも足場を慎重に選ぶ必要があった。しかし渇水期ならさほど問題はなさそうではある。もっとも、沢ルート全体に言えるが、大雨などの増水時は通行が困難な状況になることがあるので、注意しておきたい。

崩落した橋の箇所は高巻き
崩落した橋の箇所は高巻き
寸断されていた支流の橋
寸断されていた支流の橋

階段の板が傷んでいる所や桟道の上板が欠損している箇所、大きな落石が鎮座する場所も部分的にはあったが、通行困難な状態ではなく安心した。久しぶりの岩魚留小屋は変わらず森の中に静かにたたずみ、脇にはウェストンも木陰で休憩したであろう、カツラの大木が仰ぎ見るほどだ。ここで昼食を摂り下山した。

明神から徳本峠を経て島々谷を下った班は、チェーンソーで倒木5〜6本処理をしながら歩く。上部は登山道がササに覆われており、草刈り機で処理する必要があるそうだ。

現在は通行止めが続いているが、コース全体を見てみると、もう少し整備すれば、開通への期待が持てそうである。来シーズンは久しぶりに古道徳本峠道を歩いて、上高地に向かいたいものだ。

抜け落ちた桟橋
抜け落ちた桟橋
岩魚留小屋
岩魚留小屋
岩魚留小屋とカツラの大木
岩魚留小屋とカツラの大木

この記事に登場する山

長野県 / 島々 徳沢 上高地

徳本峠 標高 2,135m

上高地の東方にある峠で、まだ上高地までの車道が開通されなかった頃に、島々 (しましま) から上高地に至る道にある峠として知られていた場所だった。 峠からの穂高連峰の眺望が素晴らしく、また近代登山を日本に伝えたウォルター・ウェストはじめ、高村光太郎や芥川龍之介などが上高地に行く際に通った場所として「クラシックルート」として広く紹介されていることもあり、現在でも利用する登山者は多い。 峠には徳本峠小屋があり賑わいをみせている。

プロフィール

渡辺幸雄(わたなべ・ゆきお)

1965年埼玉県越谷市生まれ。1987年東京綜合写真専門学校卒。北穂高小屋勤務を経て、フリーカメラマンに。近年はネパールのフォト・トレッキング・ツアー(アルパインツアーサービス主催)などの写真セミナーも開催。山岳雑誌やカメラ雑誌、カレンダー制作等で活躍中。日本山岳写真集団最終代表、(社)日本写真家協会会員。

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