春をもたらす「春一番」。山ではその前後に、さまざまな危険が生じてくる

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2月に入り、中旬を過ぎる頃には春の話題が少しずつ増えてくる。その象徴的なものが「春一番」だ。街にいれば春一番は「暖かく強い南風」だが、雪山で吹く春一番は登山者に大きな危険をもたらす。春一番の際の登山の注意点について説明する。

 

2月4日の立春を過ぎると、暦の上では春となります。春と聞いて思い浮かぶものの1つが、春一番です。春一番とは、立春から春分の日の間に、日本海で低気圧が発達し、南側の高気圧から南寄りの強い風(風速8m以上)が吹いて気温が上昇する現象を指します。

語源としては、1859年3月17日に長崎県壱岐で起きた漁師53人の遭難以来、この強い南風を「春一番」と呼ぶようになったという記録が残っています。ちなみに郷ノ浦港には慰霊碑と「春一番の塔」が建てられていて、海難事故との結びつきから漁師から恐れられているそうです。

関東地方で春一番が吹いた時期を確認すると、平成になってから最も早く吹いたのは1993年2月6日で、最も遅かったのは2014年3月18日となっています(気象庁ホームページより)。「発生なし」と記録されている年があるのは、強い南風が吹いても、風速や時期が定義に該当しなかたためです。

2018年の春一番は、すでに九州北部や中国・北陸地方で観測されています。上記のデータから考えても、関東・甲信越地方での春一番は、いつ吹いてもおかしくないと考えたほうが良いでしょう。

なお、各気象台が発表しているのは、「〇〇地方における春一番」であり、その判断基準は各気象台により異なることにも注意が必要です。

 

登山者にとっても「恐怖/危険」な春一番

漁師に恐れられている春一番は、我々登山者にとっても恐ろしいものとなります。春一番で考えられる山岳遭難事故としては、「強風による転倒や滑落」「テントの倒壊」「急激な気温の上昇による融雪」「雪崩などの危険」などが挙げられます。

また、用心しなければならないのは春一番の直後です。春一番をもたらした低気圧の通過後は冬型の気圧配置に戻って、気象遭難に結び付く可能性が考えられるためです。

この時期、日本海で低気圧が発達するような時は、大陸の寒気と南の暖気の温度差が大きくなるので特に注意が必要となります。低気圧の通過前後は気温差が非常に大きくなり、その変化への対応を間違えると山では命取りになりかねないのです。

春とはいえ、山はまだ冬です。気象情報や天気図などを確認し、春一番が吹くような気象条件となる場合は、入山を見合わせるのが賢明でしょう。もし入山する場合は、寒暖の差が大きくなることを考慮した服装や装備を選択する必要があることを、肝に銘じておくべきでしょう。

 

プロフィール

長野県山岳総合センター

長野県大町市にある長野県立の施設。「安全で楽しい登山」の普及啓発を主目的に、「安全登山講座」と動植物・地形地質をはじめ山の自然を総合的に学べる「野外活動講座」を、年間約60講習開催。講習参加者のうち、長野県外の方が約6割を占める。

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