【書評】自然の営みの神秘とおもしろさに心を奪われる『天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた』

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評者=横尾絢子

「富士山に笠雲がかかると雨」「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ」「○○山に雲がかかると雨」……。

本書は全国各地に伝わる「天気のことわざ」を集め、サイエンスの視点で検証したものだ。著者は山岳気象予報士の猪熊隆之氏。氏は講習会なども多数開催。「あの雲はヤル気がありそうですね」と擬人化を使うなどしたユニークな解説で人気を集めている。

そんな氏の快活で楽しい人柄は本書にもよく表われている。過去の実体験などを交えながら、ことわざの裏に隠された天気の仕組みが、やさしくひもとかれていく。自然の営みと人の生活のつながりを知るのはとても楽しい体験で、ワクワクしながらページをめくることができる。昔のことわざには今の時代に当てはまらないものもあるが、現代に生きる猪熊氏自身が経験値に基づいて作ったという「著者オリジナルのことわざ」も紹介されていて興味深い。

日本人は昔から自然を観察し、生活に活かしてきた。桜の開花、セミの初鳴といった気象庁の「生物季節観測」も然り。約70年間継続されてきたこの観測は2020年、都市化などを理由にほとんどの種目が廃止となった。貴重なデータやことわざをはじめ、自然の営みを観察する心が次の世代にも引き継がれることを願う。

天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた

天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた

猪熊隆之
発行 ベレ出版
価格 1870円(税込)
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評者

横尾絢子(よこお・あやこ)

長野県佐久市在住のフリーライター。気象予報士。登山やスキーなど四季を通じて山に親しむ。

山と溪谷2023年10月号より転載)

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