「アプローチしやすい」という落とし穴。スキー場隣接のバックカントリーエリアで遭難相次ぐ

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2月最初の週末に長野県で相次いだバックカントリースキーの遭難。いずれもスキー場隣接エリアでの道迷いだった。たとえアクセスが簡単な山でも、雪崩やルートミスといったバックカントリーのリスクは山深いエリアと変わらない。

文=山と溪谷オンライン、イメージ写真=PIXTA

2023〜24年は全国的な暖冬の影響で積雪が少ない状況が続いているが、1月後半から少しずつ積雪が増え始めた。各地のスキー場がにぎわい始めた2月最初の週末、長野県内でバックカントリースキー・スノーボードでの遭難が相次いだ。いずれもスキー場からアプローチしやすいエリアでの遭難で、共通点の多い事例だった。

野沢温泉・毛無山で遭難が続発

2月2日(金)、野沢温泉スキー場の最上部に位置する長野県野沢温泉村の毛無山(1,650m)でバックカントリースキーの遭難が相次いだ。17時ごろ、道に迷った大阪府の男性(60代)が救助要請し、同日22時半すぎに救助された。

さらに同日は、バックカントリースキーやスノーボードをしていた同県内の親子(男女、50代・20代)と、オーストラリア国籍の男性(50代)の3人が道に迷い、16時ごろ、電話で警察に救助を要請。警察は雪洞を掘って寒さを防ぐよう指示し、警察や地元の遭難対策協議会が3日(土)朝から捜索したところ、翌3日8時すぎに3人を発見。3人にケガはなく、徒歩で下山した。親子と男性とは道に迷ったところでたまたま出会い、一緒に行動していたという。

飯縄山・瑪瑙山で遭難

長野市・上水内郡信濃町・飯綱町にまたがる飯縄(いいづな)山(1,917m)のピークのひとつ、瑪瑙(めのう)山(1,748m)で3日(土)、山頂付近でスキーをしていた東京都の50代の男性が行方不明となった。仲間と3人で戸隠スキー場からリフトで山頂に上がり、コース外でバックカントリースキーをしていた男性が仲間とはぐれたため、下山した仲間が21時ごろ警察に通報した。警察や遭対協などが4日(日)朝から捜索し、正午ごろに山頂から400mほど下った沢沿いで、疲労で動けなくなっていた男性を発見。脱水と凍傷を負っていたものの、命に別状はなかったという。

一連の遭難の共通点とは

2日から3日かけて毛無山と瑪瑙山で起きた事故3件(うち1件は遭難者らが偶然出会って行動を共にしていただけであり、4件といってもよい)には共通点が多い。

1.簡単に入山できるエリア

毛無山も瑪瑙山も、スキー場のゲレンデトップにあたるピークであり、ハイクアップする必要のない、バックカントリーエリアへの手軽な入り口となっている点だ。毛無山は野沢温泉スキー場の最上部に位置し、瑪瑙山は戸隠スキー場のリフトを下りた地点にある。いずれも人気のバックカントリーエリアで入山者も多いが、アプローチは容易でも、雪山のリスクが低いわけではない。ゲレンデ以外の斜面はもちろんスキー場の管理区域外で、現地には警告看板などが設置されているが、雪山登山やバックカントリースキーヤーの入山を禁じるものではなく、充分な準備と判断が呼びかけられている状況だ。

2.道迷い

今回の4件はいずれも道迷い遭難だった。発生状況の詳細や遭難者のナビゲーションスキルは不明だが、一般的にバックカントリーでの滑走は徒歩での雪山登山よりもナビゲーションが難しい要因がいくつかある。「道迷い」に分類されるものの、雪山には登山道はなく、標識も雪に埋没していて参考にできないのは雪山登山の常識だ。さらに、スキーやスノーボードでの滑走は、無雪期の登山道を離れて、斜面を広く使って移動するため、尾根と沢の位置関係を把握していないとたちまち自分の位置がわからなくなってしまう。樹林帯、悪天候など、見通しが利かない要因が重なると、現在地を見失う可能性はさらに高まる。滑走時は徒歩よりも移動が速く、ルートミスに気づいたときに登り返す労力が大きくなってしまうという特徴もある。スキー場に近いエリアであっても、万一現在地がわからなくなってしまった場合、読図のスキルや、スマホの地図アプリ、ハンディGPSといったデバイスを使いこなす能力がなければ、自力下山は難しいだろう。

3.無事救助

今回のいずれの事故も遭難者が無事に救助された点も共通している。雪崩や滑落といった生死に直結する事故でなかった上、山がさほど深くなく、携帯電話による速やかな救助要請ができたこと(携帯電話の位置情報は捜索範囲の絞り込みにもつながる)、雪洞を掘るなどのアドバイスを電話で受けられたことなどが幸いした形だが、標高が比較的低く、気象条件が高山ほど厳しくなかったことも大きいとみられる。

スキー場を起点としたバックカントリーエリアは、雪山の登高に不慣れな人でも楽しめる反面、スキルや装備、準備の不足に起因する遭難が多発する傾向にある。地元でも入山者に対する注意喚起を行っているものの、相次ぐ遭難への対応に苦慮しているスキー場も多く、管理区域外への立ち入りが禁止されるケースもある。現在利用できるエリアが閉鎖されることのないよう、入山者には充分な安全対策が求められる。

山岳遭難ファイル

多発傾向が続く山岳遭難。全国の山で起きる事故をモニターし、さまざまな事例から予防・リスク回避について考えます。

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