オオカミライター、中学生オオカミ博士に挑戦!絶滅種の剥製をめぐる冒険
6月16日まで国立科学博物館で開催中の特別展「大哺乳類展3」で公開されているニホンオオカミの剥製は、人知れず収蔵庫にひっそりと眠っていたものだった。絶滅動物を追うライターが、剥製標本を「再発見」した中学生のオオカミ博士に挑戦する。
写真・文=宗像 充
自由研究が論文へ
日菜子さんは抱いた疑問を科学博物館の担当者にぶつけた。「あなたが調べてください」と言われ、翌2021年に「ヤマイヌ~私が解明したい謎のニホンオオカミ~」という夏休みの自由研究にまとめた。この作品は「図書館を使った調べる学習コンクール」(図書館振興財団主催)で文部科学大臣賞を受賞。
ぼくはこのレポートを長野県の自宅から東京まで見に行って、すぐに取材を申し込んだ。日菜子さんはその研究を発展させて、論文作成に取り掛かっていた。その結果を待っていたら、すでに日菜子さんはテレビニュースで取り上げられて時の人になっていた。
「ニホンオオカミが見つかったぞとメディアが取り上げた。想像が現実になった」
日菜子さんも協力したお父さんも驚かない。
きっかけはユーチューブ
日菜子さんのニホンオオカミへの造詣の深さにムクムクと対抗心がわき出て、いつごろから興味を持ったのか聞いてみると「2、3歳のころから」という。生え抜きだった。
ユーチューブで見た絶滅動物の紹介動画を見て、興味を持った。『絶滅動物調査ファイル』(実業之日本社)という図鑑を手に科学博物館に向かう。当時は地下2階に絶滅動物の骨格標本があって、そこにたびたび通った。「ステラーカイギュウ」(絶滅した海牛)や「新生代のウマの先祖」とかに夢中になったという。すでについて行けない。
そんなわけで「自分の中のニホンオオカミ像ができていた。一番近いのはライデンのもの。国内の3体とは違う」。
科学博物館には、国内に3体しかないニホンオオカミの本剥製(生きているときの姿形をした剥製)のうちの1体が現在も常設展示してある。それ以外に和歌山県立自然博物館(和歌山大学所有)と東京大学農学部にそれぞれ1体ずつあって、見に行った。それは詳しいわけだ。
ニホンカワウソも探した!
日菜子さんは、ニホンオオカミよりも前にカワウソのことも自由研究にしてまとめている。1979年に新荘川(高知県)で多くの人の目に触れたカワウソが、ニホンカワウソの最後の個体とされている。絶滅とするには、環境省のレッドリストでは最後の個体から50年という判断基準がある。
「隅田川で江戸時代に記録があるから探しに行ってみた。見つからなかったけど生きてるかもしれない。カワウソも暮らせる環境を作りたい」(日菜子さん)
調査で得た楽しさは論文作成にもつながった。
プロフィール
宗像 充(むなかた・みつる)
むなかた・みつる/ライター。1975年生まれ。高校、大学と山岳部で、沢登りから冬季クライミングまで国内各地の山を登る。登山雑誌で南アルプスを通るリニア中央新幹線の取材で訪問したのがきっかけで、縁あって長野県大鹿村に移住。田んぼをしながら執筆活動を続ける。近著に『ニホンカワウソは生きている』『絶滅してない! ぼくがまぼろしの動物を探す理由』(いずれも旬報社)、『共同親権』(社会評論社)などがある。
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