警察・自衛隊へりによる救助との整合性は? 登山者のモラルの問題? 埼玉県の防災ヘリ一部有料化に関するアンケートVol.3

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2018年1月より施行されている「埼玉県防災航空隊の緊急運航業務に関する条例」の趣旨について、ヤマケイオンライン内で実施したアンケート調査。最終回(第3回)の今回は、有料化に関する率直な意見をいくつかピックアップして紹介する。

 

「ヘリ救助有料化に関するアンケート」の結果の第3回は、有料化に関する率直な意見を中心に紹介したい。

★前回記事:全国的・網羅的な救助ヘリ有料化には賛成が多数。

最初に紹介するのは、「救助費用の整合性についての意見」だ。質問項目は「埼玉県防災航空隊のヘリコプターは有料化されましたが自衛隊や警察のヘリコプターは無料のままとなっています。救助費用の整合性について、意見があればご記入ください」と、少々長い設問となっている。

いただいたコメントを紹介する前に、もう一度、山岳遭難におけるヘリコプターによる救助の状況について整理しておきたい。

救助要請を行いヘリが出動する状況になった場合、一般的には消防の防災ヘリか警察ヘリが救助に向かうことになる。ただし、ほかの事故対応などで防災ヘリ・警察ヘリが出動中となっている場合、民間のヘリ会社にも出動が要請される場合もある。なお、民間ヘリが出動した場合は、救助要請者が費用を支払うことになる。さらに、防災ヘリも警察ヘリも民間ヘリも手配できない場合には、ごく稀に自衛隊の出動が要請されることもある。

もう少し具体的な話は、「jROのホームページ(ヘリコプターレスキュー)」の解説が詳しいので確認してほしい。

このような前提がある上での意見だが、多くは「警察も自衛隊も一律有料にすべき」という内容に集約される。「きっちり山岳保険へ入っていれば保険で支払われる」「自己責任」「受益者負担」という意見とともに、大多数がすべてのヘリ救助を有料化することを望んでいる。

一方で「整合性」という部分での意見も少ないながら目立った。そのいくつかを抜粋して以下に紹介しよう。

  • 防災ヘリコプターの出動と、警察の出動と、どの様な時にどちらの出動になるのか境界が曖昧と思います。山に登る時は防災? ならば平坦な場所での道迷いは警察? 行方不明者の捜索は税金。山登りだけが自己責任? 境界がわかりません。
    有料化は致し方ないと考えますが、自己責任の範囲が曖昧と感じます。

  • 地方自治体レベルでしかこの論議がされていないこと自体がなんだかなぁ、って思う。国レベルでの議論が活発になれば、自衛隊・警察が出動した際の費用負担についても当然考えられるだろうから。「山の日」の制定に名を連ねた国会議員(各党、結構大物議員がいる)たちはもっとこの論議を国会で促すべき。

  • 端的にいって整合性はない。単なる政治家の思いつきと人気取りで多方面の人々に悪しき影響が出ているのではないかと危惧している。海難救助であれ、山岳救助であれ、その他の救難救助であれ、なぜ有料化ということが議論されているのか。思いつきもはなはだしい。
    なんでも会社経営的思考(というほどのものではないが)で一元的に考えるというのが、そもそも幼稚である。埼玉県議会にお聞きしたいが、材木切り出しの山林伐採の営業行為も山林整備の業務上での救難行為も有料化するのか。もししないというなら、国民の健康・安全保護義務の放棄であり、特定の営利好意にのみ加担する行為であり、当然憲法違反まで視野に批判が可能であると考えている。こんな幼稚な判断に追随する浅はかな自治体は続かないと確信している。

  • 私も含めて多くの一般登山者には、ヘリによる救助費用の仕組みそのものが、依然として分かりにくいままである。これは保険についても同じことが言える。そもそも有料・無料以前の、救助費用の仕組みのアナウンスが何もないに等しいのが実感。
    救助にあたる自治体、警察・消防だけに依存すべきことではなく、すべての登山業界が総がかりで、しつこいくらいにPRしていかなければ裾野まで情報は届かない。山岳救助要請をした場合の現実的な負担金がいくらになるのかとか、安全登山へ意識とスキルアップの啓発を、あらゆる方法、手段を使って繰り返しアナウンスし続ける努力がいると思う。
    これを放置し続ける限り、自分の実力にあわない山へ安易に入り、安易に救助要請する登山者は、有料化されても確実に増えていく。つまり自治体の有料化が問われているのではなく、登山業界全体が(登山用品を売る店も含めて)一人ひとりの登山者に向けて、真剣にアナウンスしてこなかった責任も問われているのでは。

  • 県は県の判断。自衛隊や警察はそれぞれの判断。その整合性を問うのはナンセンスでは。自衛隊や警察は山岳救助のために存在するものではないので、山岳救助の費用のみを請求することはできないことは自明。一方、埼玉県防災航空隊も同様だが、安易な救助要請などにより、本来の機能が人々の良識と判断力の低下により発揮されない場合は、ディスインセンティブを与えざるを得ない。そうしなければ、山岳救助が防災という本来の目的の障害になりかねない。それぞれの組織の存在意義に照らして、費用について議論されるべきで、それらの横並びの整合性の議論はナンセンス。この設問に対して強い違和感を感じる。

  • 海の救助は基本的に無料だと聞いております。山は自己責任だから・・・、というのもどうかとは思います。有料化しても無謀な登山が減少するとは思えません。それは100万円という高額な罰金を科しても飲酒運転がなくなっていないことと同じだと思います。
    登山というものを学ぶ機会が少ない・どこで学べば良いのかわからない、そういうところから考えていかないといけないと思います。

 

最後に、今回の有料化についての意見をフリーコメントでいただいているので、いくつか紹介する。アンケートの結果どおり、多くの人が有料化を支持しているので、ここでは「消極的な賛成」と「反対」の意見を中心に紹介したい。

なお、有料化の賛成・反対も含めて、コメント一覧は以下のページでも公開しているので、興味のある方はぜひ、確認してほしい。

★「みんなの登山白書」、防災ヘリ有料化に関するアンケート調査:コメント一覧

 

●消極的な賛成意見

  • 有料化になっても無謀な登山が減るかというとそれは別問題だと思う。なぜなら無謀な登山をする人ほど自分は遭難しないと思っているから。だた、一度遭難してしっかりと料金を取られれば次は気を付けるかもしれない(生きていればであるが)。また、安易な救助要請は少なくなるかもしれないが、要請しそうな人ほどそういう情報を知らないと思う。各登山口に看板を立てたり、山の番組等で知らせる必要があると思う。

  • 消極的な支持です。20年ほど前にスキー場でパトロールやっていましたが、出動要請がきて救助した際に、半分以上は何ともなかった。とはいえ、何ともないと思いながら救助したら、重大な怪我だったこともあった。どこまでが「安易な救助要請」かが素人では(プロでも)判断できない。となると、やっぱり要請来たら救助するしか無いんですよね。スキー場は、リフト券からパトロールの給料が支払われているので受益者負担が働きますが、登山はそういう集金システムができるのでしょうかねぇ・・・。

  • 有料化の流れは公共サービス維持のためにはやむを得ない面もある。また、安易な救助要請が無くなることも副次的効果として生じるだろう。しかし、「無謀な登山」の減少には繋がらない。「無謀」というのは遭難事故を知った第三者から見てそうだというだけであって、最初から自分が遭難すると考える登山者は多くない。ごく一部の事例を元に「道楽登山遭難者に対するペナルティを」といった感情論に基づく議論には賛同できない。滑落・転倒、体調不良といった遭難は準備の有無、装備の多寡に関わらず、いつでも起き得るものだからである。このような不慮の遭難事故も十把一絡げに「遭難は自己責任だから金を払え」という短絡的な議論がなされないよう望む。

●反対の意見

  • すべてお金で解決、何でも有料化、金払ったら良いサービスは、時代の趨勢なのでしょうね。保険金すら払えないやつは、なるべく外に出るな、ということなのかな。嫌な時代です。

  • 有料化は登山が日本では文化と認められていない事の現れだと思う。山岳での救助は自然災害時にも役立つもので、スイスのレガのようなシステムを育てなければならないと思う。有料化は、人間の命を金ではかっている証拠だと思う。命の尊厳も無いのが今の日本なのかと、情けなく思う。

  • 有料化の最大の狙いは、「無謀な登山の減少」と言われていますが、登山者は事故に遭いたくて登山をする人は一人もいないと考えます。無謀な登山をやめさせるには、安全登山をもっと啓発することで、お金をとって「それ見たことか」は行政のやることではありません。また、登山道の整備や標識の整備こそ安全な登山に寄与するものと確信しています。「救助は命懸けだ」から「安易なヘリ要請は自粛すべき」では、事故が起こってもヘリ要請ができない状況を作ってしまいます。私たち登山者の最後の綱を断ち切らないでほしい。

  • 山岳遭難に対する社会の対応が異常だと思う。サッカーや野球の試合でも事故は起きる。登山者はレジャー客ととらえている世相(特に一部マスコミ)が最大の問題と思う。

  • この例をきっかけに日常の(平地)救急搬送にも将来適用されることが心配です。外国はどのような制度になっているか?  ほとんど緊急が必要としているので有料化はすべきでない。

  • 有料化に至った経緯として安易な登山者にも問題はあるが、一律で行政系のヘリが有料化されることに疑問を感じる。救助後の検証で過失が認められれば有償にするなら話は判るが、安易な登山者と一律に考えてほしくない。免除規定からして、レジャー的な登山者を対象にしているようだが、同じレジャーの海水浴客の水難事故についてはどういう見解になるのだろうか?

  • 無謀な登山が数万円程度の支払いリスクで抑制できるとは思わない。交通事故で亡くなる方が減少する中、高齢者の事故は増えている構図と同じと考える。つまり、自分の認知能力、身体能力を客観視できない過信が事故の原因である。よって、救助費用の自己負担程度では解決しないと考える。対人事故を自動車などで起こした場合と同じく、最大で億単位の損害賠償を負うリスクがあれば、家族が必死に登山を止めるケースは出てくると思っている。ただし、自動車免許証の自主返納が進まないのと同様に、自身の基礎的な能力の衰えを認めるハードルは高く、一部に留まりインパクトは生まない。受益者負担の観点では当然の対応だが、埼玉県の他の公共サービスでかつ本件より安易に利用されているサービスが、ないとは思えないため、この点では効率の面でも、整合性の面でも説明がつかない。

 

多くの人が述べているように、遭難するつもりで登山をしている人はいないだろう。しかし遭難するリスクは常にあることを考えて、それに対処した装備や心技体の研鑽、そして保険への加入などを準備しておきたい。

 

ヤマケイオンライン みんなの登山白書

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