装備を知り、選択の目がシビアになり、工夫できるようになる! マウンテンマラソンが教える登山スキル

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近年、日本でもじわりと人気が高まっている山岳マラソン。本家の山岳マラソンは高い登山スキルと体力が求められるが、石井スポーツが開催する石井マウンテンマラソンは、初心者ウェルカムのレースとなっている。その狙いと魅力について、引き続きICI石井スポーツ登山学校の東秀訓さんに話を伺った。

写真=ICI石井スポーツ

 

登山を「より安全に」「より快適に」楽しんでいただくための「山力のスキルアップ」』をテーマに、毎年5月下旬に静岡県東伊豆町で開催される、石井マウンテンマラソン。そのコンセプト通り、十分な登山経験がなくてもサポートを受けながら山岳マラソン大会に出場できるのが特徴だ。

★第2回石井マウンテンマラソン 東伊豆2018

前回の記事では、『石井マウンテンマラソンに参加することで「読図」と「テント泊技術」が一気に学べる(東さんの言葉を借りれば、1回の大会出場で、5年分ぐらいのスキルが身につく!)』ことを説明した。続く今回は、そのほかに身につく“登山力”について、引き続き、ICI石井スポーツ登山学校の東秀訓さんに説明してもらった。

★前回記事:登山のスキルを一気に磨ける! マウンテンマラソンの魅力に迫る

 

足し算だけではなく、時には引き算も必要! 装備選択の目がシビアになる

「読図」「テント技術」のほかに身につくものの1つに「装備の工夫」ということがあります。

私達は都会で生活していると、通常は快適性を求めて暮らしていると思います。その感覚を山にも持ち込もうとするのは当然で、テントの中でも快適に過ごしたい・寝たい、ごはんだって美味しく食べたいと思うでしょう。

そう考えていくと、テント登山の場合は装備が必ず“足し算”になってしまうものです。すると、どんどん重量が増していき、大きさもかさばってしまうものです。実際、石井スポーツでは一般的な登山者の講習では、「危険だから」「もしものために」ということで、装備をプラスしていくことを伝えています。

快適性のため大きなテントを用意したい、寒さ対策のため防寒対策は万全にしたい――。こういう心がけは大切なのですが、用意したけれどまったく使わなかった装備も多くあると思います。

石井マウンテンマラソンは、大会期間中は用意した装備をすべて自らが背負って歩くことになるので、あまり快適性を求めるとザックが重くなり、行動中に苦しくなってしまう。荷物の軽量化は、大会で高得点を狙うには重要なスキルとなります。

ただ、軽量化のために安全性を軽視して何も持っていかないということにはならないように、必要最低限の荷物・装備については、レギュレーションで決まっています(※以下参照)。この装備にプラスして持っていくもの、または工夫して軽量化するなどが考えられます。

こうした工夫で、山行ごとに必要な装備を見極める技術は一気に高まります。装備は足し算ばかりでなく、時には引き算も必要ということを学べるのではないかと思います。

おそらく、引き算を推奨するような登山講習は、なかなかないのではないかと思います。石井マウンテンマラソンでは事前講習にも重きを置いているので、何が必要で、どんな工夫ができるのかを、講習も含めて学んでほしいと思います。トータルで山の能力が上がる絶好の機会だと思います。

■出場に必須となる装備

●個人装備

  • 水または飲み物(2L以上推奨。1日目のキャンプ地で補給できる)
  • コンパス(方位磁石)、地図(主催者が用意、スタート時に配布)
  • 透湿・防水性のあるジャケットとパンツ (シーム処理の施された完全防水製品に限る)
  • 予備の衣類、予備の防寒具
  • シューズ(クッションのある踏み抜きしにくいシューズ推奨)
  • 寝袋
  • エマージェンシーシート
  • リュックサック
  • 健康保険証(コピー可)
  • ファーストエイドキット(バンドエイド、消毒液、包帯、テーピングテープなど)
  • ライト&電池(12時間以上使用できること)
  • 行動食
  • 携帯電話

●共同装備

  • ボールペンなどの筆記用具
  • 食料、料理できるクッカー、燃料
  • テント(チームで1つのみ)
    ※四方を同時に壁として風を遮ることのできるテント、またはシェルター。床のないシェルター、ツェルトではかならず別途グラウンドシートを使用すること

 

他人の装備を見て自分の装備を知ることになるのが石井マウンテンマラソン!

また、他の登山者がどんな工夫をしているのかを確認できるのも、石井マウンテンマラソンの良い部分で、スキルアップの良い機会になると思います。

大会には100組以上の人が参加するわけですが、人によってザックの大きさが全然違うのがわかります。50Lくらいのザックで出ている人もいれば、20Lくらいのザックの人もいる。普通の縦走登山をしている人にとっては、“えっ?”と思うほど荷物が小さい人を見ることになると思います。

たぶん、これを見ることだけで装備の取捨選択や工夫の参考になるのではないかと考えています。2日間で、実際に多くの人とすれ違うことになると思います。またキャンプ場では、どんなテントを張って、どんな料理をしているのかも見ることになるでしょう。

それを見て、その気付きだけで、ずいぶん考えが変わってくると思います。今であれば、山道具についてはインターネット上で探せばクチコミなどを確認できると思います。しかし、実際に現地で工夫して使っているのを見るのとでは、クチコミとは大きく違っていることに気づくはずです。

例えばテントを見ると、上位を狙うトレイルランナーたちの「ツエルト泊」というのは一般の登山者には行き過ぎかもしれませんが、さまざまな軽量・コンパクトな種類のテントや、軽量化の工夫を見ることができるでしょう。

また、火器類についても、一般的には山ではガスストーブを利用すると思いますが、お湯を沸かすだけなら固形燃料も選択肢の1つになるでしょう。鍋類にしても、お湯を沸かすだけの用途なら小型化・軽量化は可能です。

そういった工夫をしているのを確認することで、で軽量化の方法は色々あることに気付き、自分の装備について考える良いキッカケになると思います。

ただし、軽量化を進めれば、当然、快適性は減りますので、このあたりは気をつけて欲しいと思います。軽量化・コンパクト化によって出た余裕を、「キャンプの楽しみ」に振り分けるのも登山の楽しみの一つということを知ってほしいと思います。

2日間たっぷり楽しむレースなので、ご褒美的な食料だったり、少しはアルコールを入れてみたり、贅沢に肉を焼いたりなどのテント泊の楽しみを持ち込むような工夫は、ぜひ行ってほしいことです。競技性とテント生活の楽しみのバランスを考えるのが、この大会の楽しみの一つであり、山のスキルアップの1つであることを大会を通じて感じてほしいと思います。

結果だけにこだわらずに、たくさんの食料を持ち込んでキャンプ生活を楽しんでいる人たちが、昨年はたくさんいましたよ。

 

ライバルがいて、仲間がいるから、山のスキルがアップする!

大会は2日間に渡って行われます。1日目の競技が終わると、中間結果が出るわけですが、そこにドラマがあるのも楽しいところです。予想より順位が良かった、ライバルとの差などで2日目の取り組み方に変化が出るのです。「もっと行けたのではないか」「彼らには負けたくない」などの感情は人それぞれですが、大きくテンションが変わるものです。

そこで翌日のプランについてバディ(パートナー)と話し合うことになると思いますが、相手の気持ちやコンディションを思いやりながら、プランを立てていくのも山のスキルの1つです。パートナーを通して、自分の弱みを見つけていく・・・、パーティでの登山で培われるものが、ここにはたくさんあります。

本家のOMMでは「厳しい環境」「自分を追い込む」という面が多くありますが、石井マウンテンマラソンは山岳マラソンの楽しさを抽出することを中心に考えています。晴天率の高い5月下旬、温暖な伊豆半島での開催ですので、厳しい条件にはなりにくい場所です。安全面でも、何かあったら電話してくれれば、スタッフが救援に向かう態勢が整っています。

登山の楽しさは、少しのスキルアップで大きく広がります。山岳マラソンの競技性の中で、さまざまな山のスキルを学べるフィールドを、ぜひ体験してほしいと思っています。

 

プロフィール

東 秀訓

高校の教員時代に国民体育大会山岳競技に出場。当時の踏査競技(オリエンテーリング形式に近い)で2回入賞の経験がある。
競技生活とともに生徒とヒマラヤへ遠征。その他ヒマラヤ6000mの数座登頂・アルパインスタイル初登攀や8000mの登頂、アルプスEDルートの登攀、モンブラン、マッターホルン、ドリューの秀峰に登る。
現在ICI登山学校事務局勤務と共に、長野県山岳総合センターアドバイザーを務める。
石井マウンテンマラソンには、サポートとして活躍しながらも、選手としても出場する。

石井山専新宿東口ビックロ店

首都圏最大級の山・アウトドアの大型専門店。「安全」をテーマに、ユーザーのライフスタイルに合わせたさまざまな商品を提案している。店内では、登山学校の講習やワークショップなども開催中。

住所: 東京都新宿区新宿3-29-1 ビックロ 新宿東口店内 8F
TEL: 03-5312-9550
営業時間: 11:00~20:00
アクセス: 新宿三丁目駅A5直結、新宿駅・西武新宿線西武新宿駅下車徒歩5分

 ⇒ホームページ

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