噴火から10年。僧侶や山伏と、信仰の山・御嶽山に登ってみた
「おつとめ」を繰り返す
雲海は見えたものの見晴らしは徐々に閉ざされ、登山の楽しみもほぼない。
「この間、この格好で御嶽山の山小屋に泊まったら、登山者に『今もそんなことしている人いるんだ』と言われた」
戸塚さんと中村さんが言い合っている。
一行は、登山道の周囲に散在する祠やお堂、今回のメンバーの宗派の真言宗開祖「お大師様」(空海)の前で、都度都度、般若心経を唱える「おつとめ」を繰り返す。
下から荷物が移動してくる。強力の塚原さんも、単に荷物を上げる歩荷ではなく登拝の手助けをする。
今年、残雪の三ノ池の画像がSNSで流れ「ドラゴンアイ」として脚光を浴びた。しかし三ノ池はご神水を持ち帰る人もいる聖地で、信者さんたちは手を付けるのもはばかる場所だという。
塚原さんは、御嶽信仰の側面から注意喚起する動画も作った。小雪童さんたちは古くからの信仰登山と、現代の登山者の橋渡しの役割を果たしている。
「仏様にほっとする」
それにしても、御嶽山の登山道周辺には信仰にまつわる石碑や上人像が多い。御嶽山の信仰では霊魂が死後山に帰るので、麓や登山道周辺に霊神碑が林立している。
雨がぱらつく中、先に登って小さな石仏の横でカメラを構えて待ち構えていたら、「こんなところに仏様があるとホッとします」と一行から声が漏れた。
山頂の風雨は増していた。一昨年小雪堂さんたちと同行した神職さんや強力さんが出迎えてくれた。
山は祈りに来るところ
雨は夜半に強まり、石室山荘の外は嵐だった。山頂での法会はあきらめ、石室山荘の拝殿をお借りして理趣三昧法会(りしゅざんまいほうえ)を行なうことになった。
前日の夕方、愛知県の講の行者、大鐘和久さんたち2人も石室さんに宿泊し、法会に加わった。
「10年前、噴火は秋の行楽の時期で亡くなったのはみんな登山者」(大鐘さん)
「山は生きている」という大鐘さんの言葉が腑に落ちる。
小さな一室に真剣な読経の声が響く。大鐘さんが呼びかけ、山頂にある多くの信仰対象のうち、大日如来像だけが御嶽信者の寄付だけで昨年再建された。宗派を超えてその前で行う法会は「一つのマイルストーン」(戸塚さん)のはずだった。
供養が終わると、「神様が喜んでくださるなら、63人の山で亡くなった人とその関係者の心に響いてくださるように」と戸塚さんが口にした。「山は登るだけでなくお祈りにくるところ」という言葉がたしかに響いた。
神職さんが山頂で読むために用意した祝詞は唱えられないまま残され、「また来ないとね」と小雪童さんが口にした。
現代の登山者にとっても、山は「帰るところ」と言えないだろうか。
この記事に登場する山
プロフィール
宗像 充(むなかた・みつる)
むなかた・みつる/ライター。1975年生まれ。高校、大学と山岳部で、沢登りから冬季クライミングまで国内各地の山を登る。登山雑誌で南アルプスを通るリニア中央新幹線の取材で訪問したのがきっかけで、縁あって長野県大鹿村に移住。田んぼをしながら執筆活動を続ける。近著に『ニホンカワウソは生きている』『絶滅してない! ぼくがまぼろしの動物を探す理由』(いずれも旬報社)、『共同親権』(社会評論社)などがある。
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他