御嶽山噴火から10年。あの瞬間、山頂部ではなにが起きていたのか

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御嶽山/2014年9月27日11時54分32秒、二ノ池本館の支配人(当時)、小寺祐介氏が撮影した剣ヶ峰・地獄谷と継母岳方面から上がる噴煙
11時54分32秒、二ノ池本館の支配人(当時)、小寺祐介氏が撮影した剣ヶ峰・地獄谷と継母岳方面から上がる噴煙

63人が犠牲となった御嶽山噴火から10年。頂上付近で被災しながらも生還した著者が、その決死の脱出行と教訓を綴り、その後の安全登山活動、御嶽山の防災への取り組みなどを追加した『ヤマケイ文庫 御嶽山噴火 生還者の証言 増補版』から、噴火の瞬間の状況を抜粋して紹介しよう。

文=小川さゆり

11時52分、1回目の噴火

11時52分。私が、その男性とすれ違って10秒もしないときに背後から「ドドーン」というあまり大きくない低い音がした。私は瞬間的に「きっとすれ違った男性が写真を撮ろうとし、岩の上にでも乗って岩ごと転がり落ちたのかな」、そんなことを考え振り返ると、とんでもない光景が広がっていた。

剣ヶ峰の右奥に、見上げるほどに立ち昇った積乱雲のような噴煙と青空一面に放り出された黒い粒を見た。

押し込められた地下から、突然、噴き出し、自由を手に入れ命を宿したかのような噴煙は、縦にも横にも急激に広がっていく。それは誰にも止められない、自らの意思を持った生き物のようだった。

見た瞬間、「噴火した。嘘だろ」、そう思った。

すれ違った男性がすぐ下にいた。

「噴火した。逃げろ」

そう叫んだ。

私が振り返り噴煙を見たのは、数秒だった。立ち止まり噴煙を眺めていることも写真を撮ることもしていない。すぐ命を守る行動に移った。

11時52分。お鉢の外輪手前で噴煙を見た私は、一瞬、「あれ、噴火の対処法ってなんだっけ」と思った。雪崩や雷、落石など山で想定できる危険への対処法はそれとなく知っている。だが「噴火」の対処法は聞いたことも本などで読んだことも、まして考えたこともなかった。しかし、1秒のロスも許されない危険な状況だと判断した。急激に発達する噴煙は理屈抜きに危険が迫っていることを察するのに、十分過ぎるほどの存在感があった。

このとき、自身の山行や、救助隊で身につけた、「今できること」「できないこと」「すべきこと」「するべきではないこと」そして何より「死なないこと」が明確となり、生きるための思考回路に切り替わり、体が勝手に動いた。本能だったと思う。考えている暇などなかった。

空に放り出された岩はいずれ落ちてくる。とりあえず落石から身を守る対処法をした。

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この記事に登場する山

長野県 / 御嶽山とその周辺

御嶽山・剣ヶ峰 標高 3,067m

 ♪木曽のなあ、仲乗りさん、木曽の御嶽山はなんじゃらほい、夏でも寒い、よいよいよい♪  哀調を帯びた木曽節に歌い込まれた御嶽山(御岳山)は、富士山、白山とともに信仰の山として知られている。現在でも夏には白衣の御岳講の人たちが、「六根清浄」を唱えながら大勢登っており、『信濃奇勝録』にも「信州一の大山なり、嶽の形大抵浅間に類して、清高これに過ぐ、毎年六月諸人潔斎して登る、福島より十里、全く富士山に登るが如し」と書いてある。  御嶽山黒沢口の登山道沿いには、「何々覚明」と刻まれた石柱が、所狭しと林立しているのが見られるが、江戸末期から明治初めにかけて、毎年何十万人も登ったといわれる御岳講の賑わいぶりが想像される。  この御嶽山は何回もの爆発を繰り返したコニーデ型の複式火山で、1979年(昭和54年)には突然、地獄谷に新しい噴火口を現出させ、日本中をびっくりさせている。また、91年、07年にもごく小規模な噴火をしている。  最高峰は3067mの中央火口丘、剣ヶ峰で、その周りを継子岳(ままこだけ 2859m)、摩利支天山(まりしてんやま 2959m)、継母岳(ままははだけ 2867m)などのピークが外輪山となって取り囲んでいる。  また、これらの峰々の間にはエメラルド色をした、一ノ池から五ノ池まで数えられる山上湖が散在している。なかでも二ノ池は標高2905m、日本で一番高い湖として知られている。これらの池を結んでの池巡りコースも考えられる。  登山コースは信州側から3本、飛騨側から1本の計4本がある。7合目の田ノ原までバスが上がる王滝口は歩行距離も短く、日帰りも可能なので最も登山者が多い。田ノ原から荒々しい地獄谷爆烈火口を眺めながら3時間強で剣ヶ峰に立てる。  御岳山で最も古く、信仰登山のメインルートである黒沢口も6合目までバスが入る。また御岳ロープウェイ・スキー場からロープウェイを利用すれば7合目まで上がることもできる。6合目から4時間30分で剣ヶ峰。  信州側第3のコースである開田(かいだ)口は、標高差も大きく、行程も長いので、開田高原散策と合わせて下山に利用した方がよかろう。西野から登るとなると距離も標高差も大きく、6時間30分で剣ガ峰。  飛騨側唯一の登山道で、標高1900mに湧く濁河(にごりご)温泉がベースとなる飛騨口は、原生林の中の静かな山旅を楽しめる。濁河温泉から5時間30分で剣ガ峰へ。  山頂からの展望は広大で、3つのアルプスや中部、関東一円の山々を見渡すことができる。また遠く加賀の白山も望まれ、日が落ちると名古屋の街の灯が美しい。  2014年(平成26年)9月27日にも噴火し、大きな被害を出したのは記憶に新しい。噴火直後に気象庁は入山を規制する「噴火警戒レベル3」を発表した。2022年7月28日現在、「噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)」だが、引き続き火口から概ね500m程度の範囲で立ち入りが禁止されている。

プロフィール

小川さゆり(おがわ・さゆり)

南信州山岳ガイド協会所属の信州登山案内人、日本山岳ガイド協会認定ガイド。中央アルプス、南アルプスが映えるまち、長野県駒ヶ根市生まれ。スノーボードのトレーニングのため山に登り始める。景色もよく、達成感もあり、すぐに山を好きになる。バックカントリースキーに憧れはじめた25 歳のとき、友人が雪崩で命を落とす。山は楽しいだけではない、命と向き合うリスクを痛感する。「山で悲しい思いをしてほしくない」、そんな思いをもって、中央アルプスをメインにガイドしている。山以外では無類の猫好き。

Special Contents

特別インタビューやルポタージュなど、山と溪谷社からの特別コンテンツです。

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