うつろう時代を見つめて。小屋番82歳、三伏峠小屋を下りる
「日本一高い峠」の山小屋
南北に延びる南アルプスの中間地点に小屋はある。「日本一高い峠」(2615m)の三伏峠は、塩見岳(しおみだけ)や小河内岳(こごうちだけ)への登山基地になっている。稜線部まで覆う針葉樹の森林を経て、登山者が長野県側の鳥倉登山口から次々と上がってくる。小屋前の広場でザックを下ろすと売店に顔を見せる。
最大時には100人を収容するこの付近では比較的規模の大きい山小屋だ。シーズン中の週末はテント場があふれるくらいにぎわう。近くにはお花畑が広がり、日帰りの登山者も含め南アルプス中間部のオアシスとなっている。
人手不足も一因だけど、山小屋の経営環境は以前に増して厳しいと言われ、どこも宿泊費の値上げが続いている。周辺の小屋が行政に移管したり、企業のグループ経営になったりしていく中、三伏峠小屋は個人経営の山小屋としてオーナーは3代目だ。
ただ現場の差配一切は小笠原さんに任せられている。本人も「おれだったから続けられた」という。起きている間は休む間もなく動き続けている。
厨房で多い時には100人ほどになるプレートを前に、小笠原さんは次々とフライを揚げて並べていく。何日も煮込んでこしらえる「三伏カレー」は登山者の間でも評判だ。それを目当てに小屋に来る人もいる。スタッフはギリギリだ。小笠原さんがまかないも作る。
天ぷらも出る料理人出身の小笠原さんの作る食事には毎回感嘆の声が挙がる。その光景は営業最終日でも繰り返された。
プロフィール
宗像 充(むなかた・みつる)
むなかた・みつる/ライター。1975年生まれ。高校、大学と山岳部で、沢登りから冬季クライミングまで国内各地の山を登る。登山雑誌で南アルプスを通るリニア中央新幹線の取材で訪問したのがきっかけで、縁あって長野県大鹿村に移住。田んぼをしながら執筆活動を続ける。近著に『ニホンカワウソは生きている』『絶滅してない! ぼくがまぼろしの動物を探す理由』(いずれも旬報社)、『共同親権』(社会評論社)などがある。
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