屋久島デビューするならこのコース ~2泊3日の屋久島縦走記~

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読者レポーターより登山レポをお届けします。かずきさんは雨と晴れ、両方の天気で屋久島を歩きました。晴れて景色がよい日も、雨で緑がしっとりしている日も、どちらもすばらしいようです。 屋久島グルメ情報、最後にお役立ち情報もあり。

文・写真=かずき


ゴールデンウィークに屋久島・宮之浦岳(みやのうらだけ、1936m)に登った。初めての島の山に、ワクワクしながら向かったのだった。登山は淀川(よどごう)登山口から白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)へと、屋久島を南から北東へ抜けるコースをとった。登山は2泊3日だった。

前乗り

飛行機から見る屋久島は、想像したよりはるかに大きかった。この日は淀川登山口に近い安房(あんぼう)に宿泊した。夕食は予約していた焼肉屋「れんが屋」へ行き、ヤクシカや縄文牛を食べて登山に備えた。

ヤクシカのハツ
珍味、ヤクシカのハツ
明日登る山
安房川沿いから明日登る山を眺める

1日目・淀川登山口~宮之浦岳~鹿ノ沢小屋

この日は朝7時にタクシーに乗り、淀川登山口へ向かった。料金は7,500円程度。

淀川登山口には朝8時前に着いたが、登山口の駐車場は車であふれていた。

淀川登山口
淀川登山口

淀川登山口には水洗トイレがあった。準備をして登山開始。最初は静かな森歩きだ。40分程度歩くと淀川小屋に到着し、この先からいよいよ世界遺産指定エリアに入る。荒々しい森の中は、湿度は高いが全然嫌な感じではない、澄んだ空気だった。

しばらく歩くと、花之江河(はなのえご)という湿原についた。日本最南の高層湿原だ。これから登る山がドンと見えて気持ちが高まった。

花之江河
花之江河の様子

ここから宮之浦岳へ向かうが、途中寄り道して黒味岳(くろみだけ)に登った。宿泊先のオーナーやタクシーのおじさんがそろって「黒味岳の景色が一番いいぞ」と言っていたため、気になっていたからだ。

分かれ道に荷物をデポし、往復1時間程度の道を行く。道はロープをよじ登る箇所もあり結構険しかったが、空身なので楽しく登れた。

黒味岳の山容
黒味岳の山容

登るほどに巨大な奇岩が近づき、黒味岳の山頂に着いた。

黒味岳から見た景色
黒味岳からみた景色

大きな峰が3つ連なっているのはこれから登る宮之浦岳だ。見渡すと、山々の奥には水平線が見える。

宮之浦岳への道中は、緑の中の木道を抜ける気持ちのいい道だった。前も後ろも大きな山と奇岩に囲まれて、島の深部にいることを実感した。この辺りは日差しをさえぎるものがなく、4月というのに夏のようで、これからの時期は熱中症になりそうだ。

宮之浦岳へ至る木道
宮之浦岳へ至る木道

栗生岳(くりおだけ)を越えてさらに登ると、宮之浦岳山頂にたどり着いた。

宮之浦岳山頂からの景色
山頂からの景色

山頂からの景色は、これまで来た道がよく見える大展望だった。黒味岳からは見えなかった永田岳(ながただけ)がよく見えてかっこいい。一方で地図で見るより遠くて大きかったため、気圧された。

永田岳
山頂から見た永田岳の様子

海に浮かぶ大小の陸地は、種子島(たねがしま)や口永良部島(くちえらぶじま)といった大隅諸島だ。モクモクと噴煙を上げてているのは活火山を擁する硫黄島(いおうじま)だろう。遠くには富士山と見紛うばかりに端正な開聞岳(かいもんだけ)が浮かんでおり雄大さを感じた。

なお島中を見渡せるという意味では黒味岳に軍配が上がったので、宮之浦岳に登る際は黒味岳に寄り道してほしい。

しばらく休憩して永田岳へ向かう。ササが生い茂る登山道で、今まできた道より人が入っていない雰囲気を感じながら黙々と登ると、永田岳山頂に着いた。山頂からは宮之浦岳がよく見える。また、見下ろした先にキレイな浜が見えた。あれがウミガメの産卵地として有名な永田浜だなと思いつつ、ずいぶん高いところまで来たことにうれしくなった。

永田岳からの景色
永田岳からの景色

ここから永田岳を下り鹿之沢小屋(しかのさわごや)へ向かうが、この道が曲者だった。急な傾斜で歩き辛い。岩の下りが途中から藪道に変わり、ウネウネとした木々が空恐ろしい上に道を分かり辛くしていた。途中、ローソク岩が見えて気持ちよかった。

ローソク岩
ローソク岩

黙々と下ると、不意に森が開けて小屋が現われた。鹿之沢小屋に到着だ。先客は外国人のお兄さん1名。熟練のスルーハイカーという感じで、木の板の上に寝っ転がって分厚い本を読んでいるのがさまになっていた。

鹿之沢小屋
鹿之沢小屋

鹿之沢小屋は無人の避難小屋で、1階部分に6〜8人寝られるほか、ロフトでも休めそうだった。年季が入っているが、堅牢で安心感があった。また物を吊るせる紐やフックが沢山あり、吊るせば食料をネズミにかじられるリスクを大幅に下げられそうだった。

水場は小屋の裏の沢だったので、浄水器が役立った。トイレは小屋の奥の道を進んだ所にあった。携帯トイレ用かと思いきや、コンクリの床に穴が開いているだけのボットン便所だった。 この日はここで行動終了。

2日目・鹿之沢小屋~新高塚小屋

この日は朝から大雨だった。事前に見た天気予報では午後から回復傾向とあったため、雨が落ち着くまで鹿之沢小屋に停滞した。

13時前に、霧吹きで吹いたような雨になってきたので、新高塚小屋(しんたかつかごや)に向けて出発。永田岳への急な登りをよじ登って森林限界を越えると暴風にさらされて大変だったが、雨には降られず運がよかった。昨日歩いた道を戻り、宮之浦岳へ至る三叉路を左に進んで新高塚小屋(しんたかつかごや)・縄文杉方面に向かった。森の中に入ると風は大きく弱まり、霧深く幻想的な雰囲気になった。

新高塚小屋への道
屋久島らしさを感じられた、新高塚小屋への道

淀川登山口からの道、山頂付近、そして三叉路~縄文杉方面で山の表情が大きく異なり、一番屋久島らしさを感じられたのがこの道だった。雨の中、一組の登山者とすれ違ったので新高塚小屋の状況を聞いたところ、そんなに混んでないとのこと。平時は大混雑と聞いていたため、こればっかりは雨に感謝である。

しばらく進んで、新高塚小屋へ到着した。小屋入口には屋根と衣類を干せる紐、ベンチがあり濡れた衣類と荷物を整理するのに便利だった。

避難小屋内は1階部分の上にロフトがあり広かったが、せっかく担いできたテントを使いたいと思いテント泊をすることに。小屋の横にある広い木のデッキがテント場だ。

新高塚小屋のテント場の様子
新高塚小屋のテント場の様子

新高塚小屋にトイレは3つあり、うち2つはバイオトイレだった。水場はテント場の奥にある小川。念のため浄水器を使った。小屋を大きな杉が見守っているようで感慨深かった。 20時ごろに寝ようとしたら、ドヤドヤと老夫婦がテント場にやってきて騒ぎ始めたので辟易した。自分はこれからも早出早着の登山を心がけようと思った。

3日目・新高塚小屋、縄文杉~白谷雲水峡

この日は快晴で歩き出しと共に日の出となり、昨晩のモヤモヤとした気持ちが洗われた。 軽快に下ると高塚小屋に到着。ノッポの小屋ですてきな形だ。

高塚小屋
かわいらしい形の高塚小屋

そこからちょっと下ると、明らかに樹皮の雰囲気が異なる樹が現われた。縄文杉である。

縄文杉
縄文杉
縄文杉

樹から離れたテラスからじっと眺める。燃えるような樹皮が最も印象深かった。遠くから見ざるを得ないため、サイズは想像より小さく感じた一方、それ以上に縄文杉が積み重ねてきた年数の重みを感じた。

早朝で我々ともう1人しかいなかったので、ゆっくりと見ることができたのは幸運だった。 ここからは大樹の森に入る。屋久島の醍醐味はこの辺に詰まっていた。大王杉(だいおうすぎ)、ウィルソン株、翁杉(おきなすぎ)跡などが立て続けに現れて圧巻だった。大きくひび割れながらも在り続ける大王杉は印象深かった。

大王杉
大王杉

ウィルソン株からハートマークが見えるポイントは結構シビアだった。 また、樹木が絡み合い巨木を形成していたり、切り株や折れた杉から新たな巨大な杉が二本三本と生えている姿は命のサイクルを強く感じさせるものだった。 こんなところまで分け入らせてもらえることに感謝しながら歩いた。

古い切り株から生える新しい杉
古い切り株から生える新しい杉

大樹の森を抜けると、レールの敷かれたトロッコ道に入る。多くの登山者が休憩しており、急に現実に戻ってきた気持ちになった。 ここからは白谷雲水峡への分岐まで、トロッコ道を歩く。ここではとにかく多くのツアー客とすれ違った。

トロッコ道
トロッコ道

トロッコ道をしばらく歩くと、きれいなバイオトイレコーナーの奥に登りの登山道が現われた。ここを登るとゴールの白谷雲水峡だ。森の雰囲気が大変よく、楽しく登ることができた。また、公募で名付けられた屋久杉がいくつかあり穏やかな気持ちになった。特に「かみなりおんじ」が気に入った。

かみなりおやじ
かみなりおんじ

森を登りきると有名な展望スポット・太鼓岩(たいこいわ)への道が現われる。直前の休憩所に荷物を置いて登る。10分程度やや急な道を登ると、太鼓岩へ到着した。岩の上からは、今まで登ってきた山々を一望できた。たくさん歩いてきたことを強く実感できるのが、縦走のおもしろいところである。太鼓岩自体は、大台ヶ原(おおだいがはら)の大蛇嵓(だいじゃぐら)と大変よく似た雰囲気の場所で大変見晴らしがよかった。

大太鼓からの景色
大太鼓からの景色

以降は白谷雲水峡のハイキングコースを歩く。意外と道は険しく、すれ違いも多かったので慎重に歩いた。途中、徒渉点があったが問題なく歩けた。増水時は注意が必要である。

ゴールへの最短経路である、さつき吊り橋が長らく使用不可となっているようで、やや遠回りをして飛流橋(ひりゅうばし)を渡り、美しい流れの横の舗装路を歩いてゴールの白谷雲水峡入口へ到着した。

バスまでかなり時間があったため、タクシーを使い宮之浦港へ向かい全行程を終えた。 下山後は宮之浦港周辺を探索した。屋久島観光センター2階のレストランで食べたトビウオ唐揚げが、食べ応えがあり大変美味だった。

トビウオの唐揚げ
トビウオの唐揚げ

この屋久杉観光センターにはバックパックが充分入るサイズのコインロッカーがあり、下山後の観光時に役立った。

1カ月で35日雨が降るとも言われる屋久島で、2日も晴れた山を歩けたのは幸運だった。縄文杉、新高塚小屋までは雨の中でも充分楽しめると感じたが、森林限界を越えた先は過酷な登山になることが予想されるため、避難小屋も活用しながら晴れ間を狙って山頂をめざすのがよいと考えられる。今回歩いたコース以外にもたくさんの登山道があるため、またいつか違うルートにもチャレンジしたい。

かずきさんの屋久島メモ

★屋久島の山で泊まる際の必須アイテム4選

  1. 浄水器
    登山道中の水場は原則小川なので、あると安心。水はかなりおいしかったものの、直に飲むのに抵抗がある方は持参すべき。
  2. 携帯トイレ
    避難小屋は原則携帯トイレしか使えないので持参必須、とあった。ただ、いざ来てみるとそれだけではなかったので、泊数分あれば足りるのではないかと思った。
  3. トイレットペーパー、ティッシュ
    トイレはあれど紙はほぼ置いていないため必須だった。
  4. カラビナ
    屋久島の避難小屋では、ネズミに食い荒らされないように食料を吊り下げるのが望ましい。紐やフックがたくさんあったので、引っ掛けることができるようにカラビナを数個持っていくと役立つだろう。

★ガス缶(OD缶)事情

屋久島空港でもガス缶を販売していたが、売り切れの場合や大きいガス缶しかない場合があるため、主要2港付近で入手するのがベターだと思う。私が確認した販売場所は以下のとおり。
  1. 宮之浦港エリア
    スポーツ用品店「ナカガワスポーツ」やお土産物屋「屋久島観光センター」で販売していた。
  2. 安房港エリア
    登山用品店「山岳太郎」で販売していた。なおこのお店では屋久島限定モンベルTシャツも販売している。宮之浦港エリアには売っていなかったため、買い逃さないよう注意。
  3. その他
    鹿児島から船で移動する場合は、モンベル鹿児島店などで購入するのがよい。

(山行日程=2025年4月27日~29日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:2泊3日
コースタイム:【1日目】7時間35分 【2日目】5時間 【3日目】6時間30分
行程:【1日目】
淀川登山口・・・宮之浦岳・・・永田岳・・・鹿之沢避難小屋(泊)
【2日目】
鹿之沢避難小屋・・・新高塚小屋(泊)
【3日目】
新高塚小屋・・・縄文杉・・・白谷雲水峡
総歩行距離:約24,900m
累積標高差:上り 約2,142m 下り 約2,892m
コース定数:65
かずき(読者レポーター)

かずき(読者レポーター)

転勤先の栃木で登山に出会い、現在は中部圏を中心に登山やキャンプに明け暮れている。ソロ〜3人程度で登るのが好き。長野県を通過した際は長野通行税をソフトクリーム屋さんへ入金している。

この記事に登場する山

鹿児島県 / 大隈諸島 屋久島

黒味岳 標高 1,831m

 淀川・宮之浦岳登山道の花之江河の北に位置する。最高峰宮之浦岳の南約4kmで、全山花崗岩からなる。山頂は巨石が東西に露出し、西へ回り込めば容易にその上に立てる。  南の直下には、西日本では珍しい高層湿原花之江河があり、シャクナゲなどの配置から花之江河神宴とも呼ばれる。東の投石岳との鞍部は矮少化した屋久杉に巨石が点在する台地で、投石岩屋、投石湿原もある。  西面は屋久島最長河川小揚子川源流で、屋久杉の森をつくり、北西の季節風をまともに受ける山頂近くは屋久杉の枯存木が多く、南面には樹林が迫っている。  山頂からの展望は雄大で、北に主稜線上の投石岳、安房岳、翁岳、宮之浦岳、永田岳、南は高盤岳(こうばんだけ)、七五岳、高塚山と飽くことがない。登山道は、花之江河から黒味岳分岐に至り分岐から20分の距離。

鹿児島県 / 大隈諸島 屋久島

宮之浦岳 標高 1,936m

 屋久島のほぼ中央に位置し、九州の最高峰。山体は四万十層の基盤岩に貫入した花崗岩で、山容は女性的である。  屋久島は九州本土最南端の佐多岬から70kmの黒潮洗う中にある。南北25km、東西27km、周囲わずか105kmのハート型をしたこの島には、1500m以上の高峰が11座、1000mを超える山が30座以上もあり、洋上のアルプスである。  海岸線からは、宮之浦岳などの高峰は見ることができないので、奥岳とも呼ばれ、これらを囲む前衛の峰を前岳と呼ぶ。また、宮之浦岳、永田岳、黒味岳を三岳(みたけ)、または御岳と呼び、翁岳、安房岳(あんぼうだけ)、投石岳(なげしだけ)、筑紫岳(ちくしだけ)を含めて八重岳とも呼んでいる。  屋久島の骨格をなす山々の稜線は、宮之浦岳からほぼ四方に延びる。全山花崗岩からなり、山頂近くは風化、浸食された奇岩、怪石が多い。一帯は低いヤクザサに覆われ、矮小化したヤクシマシャクナゲが点在し、花期の6月上旬には登山者の目を楽しませてくれる。  豊富な雨量により渓谷も発達し、山肌を深く浸食しながら島の中央から無数の河川が海に注ぐ。宮之浦岳を源流とする宮之浦川、小揚子川、安房川などは日本有数の峻険な谷である。  山頂西側の花崗岩の割れ目には、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)を祭る宝珠大権現の社があり、宮之浦にある益枚(やく)神社の奥宮として、古くから島民の岳参り信仰の中心となった。春は日帰りで五穀豊穣、国家安穏、延命息災を祈願し、秋は大願成就のため2泊3日で参詣した。必ず各集落から参拝し、女人禁制で登られていた。  昭和40年代まで安房川中流域小杉谷を中心に、伐採が盛んに行われた。島の南東の安房集落から小杉谷まで軌道が敷かれ、トロッコによって屋久杉を運搬していた。現在では輸送手段がトラックに変わり、島の四周に林道が延び、これを利用した登山コースが多い。  花崗岩の山頂からの展望は抜群。島とは思えない雄大なスケールで、島の山岳はもとより、晴天時には遠く九州本土佐田岬や開聞岳、口永良部(くちのえらぶ)島、種子島も浮かんで見える。  島の中央宮之浦岳への登山道は四方に拓かれ、代表的なコースは、楠川―小杉谷―縄文杉を眺め、宮之浦岳まで約20km、12時間。永田―鹿之沢―永田岳―宮之浦岳は約14km、9時間。他に栗生―花山歩道―鹿之沢。湯泊―湯泊歩道―花之江河(はなのえごう)―宮之浦岳。尾之間―尾之間歩道―花之江河。屋久杉ランド―安房歩道―花之江河などがあるが、一般日帰りコースは、淀川登山口(よどごうとざんぐち)―花之江河―宮之浦岳、約8km、所要5時間などである。山小屋は淀川、石塚、鹿之沢、高塚にある。

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