花盛りの鳥海山へ

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読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは、山形県の名峰、「鳥海山」へ。ニッコウキスゲ、チングルマ、チョウカイフスマなどたくさんの花に出会うことができたようです。

文・写真=こう


鳥海山には何度も訪れているが、夏の花が盛りの時期には訪れたことがなかった。夏本番を迎えると多種多様な花が咲き乱れ、稜線や草原が花々で埋まるとの評判を耳にしていた。

また、景色が抜群であり、その花々とともに鳥海山の荒々しい姿や青く染まる日本海の眺めも同時に楽しめることから、非常に高い人気を誇る山である。

夏の鳥海を象徴するニッコウキスゲが見頃と聞き、鉾立登山口(ほこだてとざんぐち)をめざした。

朝6時時点で鉾立登山口の駐車場は満車だった。2kmほど山形側に下ったところにある駐車場へ移動し、大平(おおだいら)登山口から登り始めた。やや急な登りが続くが、途中から九十九折りとなるため、足への負担は軽減される。みはらし台まで登ると、景色が広がり風通しもよくなるので心地よい。ここからは森林限界を越えるため、直射日光を遮るものはなくなる。ところどころにあるチングルマの群生に足を止めながら、のんびりと進んだ。

鳥海山 みはらし台から日本海方面
みはらし台から日本海方面は雲海になっていた
鳥海山 チングルマの群生
チングルマの群生がたくさん見られた

鉾立コースとの合流地点にある雪渓を難なく通過し、分岐を笙ヶ岳(しょうがたけ)方面へと進む。こちらにもたくさんのチングルマが咲いていたが、お目当ては夏の鳥海山を象徴するニッコウキスゲだ。いよいよ新山(しんざん)が見えるというところまで来ると、黄色のじゅうたんが広がっていた。御浜小屋(おはまごや)へと向かう道はとても華やかで、ここでも花を観賞。ガスがわいていたため鳥海山の全容は捉えられなかったが、白いベールを纏った鳥海山は神秘的で美しかった。

鳥海山 鉾立コースとの合流地点
鉾立コースとの合流地点には大量の雪があった
ニッコウキスゲとベールに包まれた鳥海山
ニッコウキスゲとベールに包まれた鳥海山
鳥海山 ニッコウキスゲが咲き乱れる登山道
ニッコウキスゲが咲き乱れる登山道

御浜小屋にて軽食をとりつつ休憩をした上で、山頂をめざした。

御田ヶ原(おだがはら)では、ミヤマシオガマの群生に迎えられ、鞍部にはチングルマ、ハクサンイチゲの群落があり、対峙する斜面には大量のニッコウキスゲが咲いていた。その量にも驚きだが、それらの花々が一堂に会しているのが新鮮で目を奪われた。七五三掛(しめかけ)に向かって進んでいくと、今まで登場した花々に加えて、黒々としたチョウカイアザミや小さい花がかわいらしいチョウカイフスマなど、鳥海山でしか見られない花々も楽しむことができた。

鳥海山 色とりどりの花
色とりどりの花たちが咲き誇る
鳥海山 御田ヶ原直下
御田ヶ原直下は花の宝庫だ

七五三掛は、千蛇谷(せんじゃだに)コース、外輪山コースの分岐となっており、今回は千蛇谷から登り、外輪山から下ることにした。千蛇谷に向かうために、まずは急斜面にジグザグに切られた道を下っていく。砂がとても滑りやすく歩きづらい上に、道幅が狭く、すれ違うのが難しいため、前方の様子に注意を傾けながら進みたい。

千蛇谷コースの夏道は出ていたが、ひんやりと涼しい雪渓歩きを楽しむことにした。雪の上には無数の岩が転がっており、外輪山の絶壁には近づかないように、なるべく夏道の近くを歩くように心がけた。

千蛇谷と鳥海山
千蛇谷と鳥海山

途中から夏道に合流して登ることにした。千蛇谷では、訪れるたびにその蒸し暑さに苦しめられるが、この日は風があったおかげで比較的苦しまずに進むことができた。「⑥頂上へ」と記された道標を過ぎると、美しい草原に岩が点在しているカルストのような景色に出会える。

鳥海山 青空と草原と点在する岩
青空と草原と点在する岩が素敵な景色を創り出していた

徐々に近づき大きく見えてきた新山に高揚しつつ歩いていると、まずは山頂直下の大物忌神社(おおものいみじんじゃ)に着いた。

岩が積み重なってできた山頂は狭く、休む場所がないため、神社の近くで昼食をとってから山頂へと向かう。

終始手を使って登ることになるので、手袋があるとよさそうだ。一度登り切ってからは、岩に挟まれた道を下り、そこから新山に向かって再び岩登りとなる。道がわかりづらいので、岩に矢印が書いてある。

鳥海山 神社から新山へと向かう
神社から新山へと向かう

いつもは大混雑の山頂だが、到着が昼過ぎだったこともあり、1組しかおらずすいていた。狭い山頂ではあるが、そこから見渡す景色はとても雄大だ。鳥海山を越えられない雲たちが周りを取り囲み、まるで天空にいるかのような心地だった。

鳥海山 新山の山頂
鳥海山の最高峰である新山の山頂

時間も迫っていることから、あまり長居せずに下山を開始した。慎重に岩を下り、山頂の真下にある胎内くぐりを通過した。外輪山へと向かうルートに向けて下っていると雪渓が現われた。雪渓の端は絶壁になっているので、この場所での滑落は避けたい。夏道を忠実に歩くと雪壁を下ることになるため、雪のない岩の上を進み、夏道に合流した。

外輪山に至るルートにも雪渓があったが、そこにはロープが設置されていたため、安心して通過することができた。外輪山への急登はザレており不安定な岩もあるため、落石を起こさないように気を張りながら登った。

鳥海山 外輪山に至るルートの雪渓
外輪山に至るための雪渓にはロープが設置されていた
鳥海山 新山を背に外輪山をめざす
新山を背に外輪山をめざす

時間の都合上、外輪山最高峰の七高山(しちこうさん)には寄らずに下山を開始した。外輪山は歩きやすく、それまでの岩場や雪渓と比べて緊張感は少なく、快適な天空散歩を楽しむことができた。外輪山コースにもたくさんの花が咲いていた。

鳥海山 外輪山コース
天空散歩が楽しめる外輪山コース

御田ヶ原手前の分岐からは御浜小屋には向かわず、鳥海湖へと下る。朝に御浜小屋の小屋番さんから「下山が遅くなりそうだったら、大平登山口に戻るには鳥海湖を通るルートを使うといい」と教えていただいていた。

コースタイム的にはさほど変わらないが、御田ヶ原への急登を避けられるのはとてもありがたかった。

鳥海山 正面に見える御田ヶ原を巻いて進む
正面に見える御田ヶ原を巻いて、左へと進む

チングルマやハクサンイチゲの群落、鳥海湖の脇を通過して、ニッコウキスゲのお花畑まで戻ってきた。朝は雲海の下に隠れていた日本海と飛島(とびしま)もその姿を見せてくれて、登りとは違う景色を見ることができた。

登山口から山頂、そして下山に至るまで、さまざまな景色で登山者を楽しませてくれる鳥海山を、あらためて好きになった山行だった。

鳥海山 笙ヶ岳
3つの頭が仲よく並ぶのは笙ヶ岳
鳥海山 ニッコウキスゲのお花畑
ニッコウキスゲのお花畑
太陽に照らされた日本海と飛島
太陽に照らされた日本海と飛島

(山行日程=2025年7月12日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 約9時間30分
行程:鉾立・・・六合目賽ノ河原・・・御浜・・・御田ヶ原分岐・・・七五三掛・・・頂上参篭所(御室小屋)・・・新山・・・頂上参篭所(御室小屋)・・・伏拝岳・・・七五三掛・・・御田ヶ原分岐・・・御田ヶ原方面分岐・・・御浜・・・六合目賽ノ河原・・・鉾立
総歩行距離:約15,600m
累積標高差:上り 約1,461m 下り 約1,461m
コース定数:37
アドバイス:鉾立登山口の駐車場は300台駐車可能。夏山シーズンは埋まりやすいため、満車の場合には大平登山口を使用するとよい。
こう(読者レポーター)

こう(読者レポーター)

山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。

この記事に登場する山

山形県 / 出羽山地

鳥海山・新山 標高 2,236m

 山形県と秋田県境にそびえる成層火山で、東北を代表とする高山である。秀麗な山容から出羽富士、秋田富士の名で親しまれている。  山は中央火口丘の新山(最高峰)を中心に、行者岳、伏拝岳、七高山の比較的新しい東鳥海火山と、火口湖だった鳥ノ海(鳥海湖)、中央火口丘の鍋森を中心とする、笙ヶ岳、月山森、扇子森の西鳥海火山、および山腹に付随する寄生火山からなる複式火山である。  有史以来度重なる噴火活動が人々の畏怖の的となり、山そのものが火を吹く荒ぶる神としてあがめられ、山岳宗教が発達した。山頂には、大物忌神を祭る「大物忌(おおものいみ)神社」がある。ところが、修験道の発達とともに山上の奉仕権と嶺境の争いへと進み、江戸幕府裁定で決着を見るという、人間臭い一面を今に残す山である。  日本海から山頂部まで、わずか約15kmの独立峰で、冬の季節風をまともに受けるため、山の方位によっては積雪や風に大きな違いが見られる。そのためチョウカイフスマ、チョウカイアザミ、チョウカイチングルマなどの鳥海山特有の植物をはぐくみ、植生を規制してきた。  1673年から数回、幕府の命によって、採薬登山が行われている。また、イギリスの登山家、ジョン・ミルンが1879年に登山し、わが国で初めて氷河問題の口火を切った山でもある。純粋な意味での登山は、朝日連峰、飯豊連峰に遅れをとり、大正末から昭和初期に始まった。  そして、昭和22年(1947)には、県立自然公園の指定を受け、国民体育大会開催(1952年)、国定公園指定(1963年)、さらには山岳観光道路「鳥海ブルーライン」開通などにより、山岳観光地として全国的に脚光を浴びるようになった。なかでも、スキー登山の地として人気が高く、ゴールデンウィークなどは全国から集まる愛好家で賑わっている。  かつて熊が爪跡を残し、ヤマヒルが巣くったという百宅口のブナも乱伐が進み、痛々しい変容ぶりである。昭和49年(1974年)には、153年ぶりに火山活動も見られた。しかし、宗教登山からスポーツ登山へと変わっても、日の出の力強い陽光を浴びた鳥海山が日本海上に写し出される「影鳥海」や冬の外輪山の内側の岩肌を飾る「岩氷」などは、単なる美しさを通り越して、今でも充分に神々しい。  鳥海山は、山岳信仰の息吹を残しつつ、東北の山特有の落ち着いた雰囲気と温もりのある山である。  登山道は、かつての登拝路を中心に山形・秋田両県から数多く整備されており、山頂まで約5時間。

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