秋来たる飯豊連峰【紅葉レポート】

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読者レポーターより登山レポをお届けします。かぐや姫さんは2泊3日で東北・飯豊(いいで)連峰へ。飯豊本山(いいでほんざん、2105m)と大日岳(だいにちだけ、2128m)の紅葉を満喫しました。

文・写真=かぐや姫

1日目:大日杉登山口~切合小屋

5時ごろ、大日杉(だいにちすぎ)登山口へ到着。土曜日で、天気も翌日まではよさそうなので、駐車場はそこそこ埋まっていた。登山口にはお手洗いも広場もあり、準備するには好適だ。早朝の東北の山ということで、熊鈴も着けて登山開始。

かつては、このあたりに大日堂や不動堂があり、大日堂のすぐ近くに樹齢千年もの杉の巨木があったようだ。この大日杉からの登山道も、元は修験の道らしく、今もところどころに祠や石碑があって、なごりを感じる(稜線でも錆びた寛永通宝を見つけた)。

しばらく行くと、ザンゲ坂につきあたる。鎖も設けられているほどの急坂だ。とはいえ、こんな登り始め早々に懺悔するとは、名づけた人はよほど罪深いんだろう、なんてことを考えながら、登りきる。

その後もきつい登りは続く。トラバースも多く、崖側は要注意だ。木の根、ササの根も至るところに張り出ていて、階段みたいに有用なのもあるが、多くは、つまずいたり滑ったりしないか、慎重になる。

9月も末というのに、歩いていると暑いし、汗の量も半端ない。秋はまだなのかと思ってしまう。オオカメノキの赤い葉っぱとか、アキノキリンソウの花、色や形、大小さまざまなキノコなど、小さい秋を見つけながら歩いていった。

時々、ドラミングのような振動音が、地面や空気を伝わって聞こえてくることがあった。不可思議な音で少々気味わるかったが、ヤマドリが鳴らす羽音だと知って安心した。姿は全然見えなかった。

地蔵岳(じぞうだけ)まで来ると、やっと涼しくなってきて、秋の彩りがそこかしこに見られるようになる。なにより、本日泊まる切合(きりあわせ)小屋や翌日登る飯豊山が見えてくると、登る意欲がいよいよ高まる。

飯豊山、ぼくなんかが偉そうに言うのもおこがましいが、非常に風格のある、いい山だなぁと感じてしまう。修験の山として、昔から信仰されたのも頷ける。そして、紅葉もだいぶ進んでいそうな雰囲気。登るのがますます楽しみになってきた。

地蔵岳を過ぎた稜線から飯豊山を望む
地蔵岳を過ぎると、いよいよ飯豊山が見えてくる

地蔵岳から切合小屋まで、いくつものアップダウンはあるものの、気持ちいい稜線歩きだった。ダケカンバの木々も美しかった。

登り始めてから7時間ほどで切合小屋に到着。寝床を確保したら、種蒔山(たねまきやま)まで散歩した。会津盆地が見渡せ、喜多方(きたかた)や若松(わかまつ)の街並みも見える。磐梯山(ばんだいさん)も見えた。こうして遠くから見ると、会津富士の名の通り、端正な独立峰の姿をしている。

切合小屋
2泊お世話になった切合小屋
種蒔から会津盆地を望む
種蒔から会津盆地を望む

紅葉の色づきも非常によく、錦秋と言っても差し支えないくらいの鮮やかさである。最近は、秋の訪れが遅くなったとか、紅葉の色づきがよくないとか言われるが、今年は今年の秋を楽しみたい。

種蒔から錦秋の飯豊山
種蒔から錦秋の飯豊山

雲の多い一日だったが、夕方から快晴となり、夜中も雲一つなく、満天の星だった。何万年も前の星のきらめきを見ていると、自分の存在のちっぽけさを自覚する。そして、自分の悩みとか仕事のストレスとか家庭でのいさかいとか、どうでもよくなる。足下の花崗岩の砂粒くらい、些細なことに思えてしまう。やがて、漠然と感謝の念が浮かぶ。宇宙は、ぼくを謙虚にしてくれる。

切合小屋から見た星空
消灯後の静かな山小屋の上空で、星がざわめく

2日目:切合小屋~飯豊山~大日岳~飯豊山~切合小屋

翌朝、食事を済ませて6時に出発。さっそく、急な登りがあって草履塚(ぞうりづか)に至る。きっと、草鞋を履いた登山者が、このあたりで履き替えて、古い草履を捨てたんだろう。

名もなきピークも越えて鞍部に至ると、姥権現(うばごんげん)だ。女人禁制をおかして登ってきた女性が石化したという言い伝えがある。その先に御秘所(おひそ)という、稜線唯一の岩稜帯があるので、注意して進む。さらに御前坂の急坂を登りきれば、本山小屋に着く。

姥権現から飯豊山を望む
姥権現から飯豊山を望む

一息入れて、いよいよ飯豊山登頂。これで、百名山55座目。山頂からは飯豊の山並みが一望できる。「東北アルプス」とも呼ばれるこの飯豊連峰は、広範な山塊に幾筋もの稜線が見え、どれも歩いてみたくなる。北方に見える半円形の山が朳差岳(えぶりさしだけ)か。いつかは足を運んでみたい。今回は飯豊連峰最高峰の大日岳へ縦走を続ける。

山頂を後にしようとした時、岩の隙間からオコジョが飛び出してきた。すぐさま岩の間に姿を隠し、再び出たり入ったり。慌ててカメラを撮り出し、撮影を試みる。まだ小柄な若いオコジョは、岩陰から出たり入ったりするのを繰り返す。写真を撮りたいぼくは、完全にもてあそばれてしまった。これが本当のイタチごっこか。写真はかろうじて撮れた。オコジョを見るのは2回目。撮影できたのは初めてだった。

オコジョ
山頂で出くわしたオコジョ

気分をよくして縦走を続ける。まだ登山の行程は半ばだが、最高の山行になるのが確定的。前日から飯豊山までのきつい登りを忘れるほど、心地よい稜線歩き。草もみじの黄金色が美しい。ナナカマドやチングルマ、ウラシマツツジの赤、ダケカンバやカエデの黄色、ササやハイマツの緑、空の青も相まって、とても色とりどりだ。春の芽吹きも夏のお花畑もいいが、秋の山が一番色彩に富んでいる。

飯豊山方面の稜線
時々飯豊山方面を振り返ると、絶景が

御西(おにし)小屋(御西岳避難小屋)で一息入れ、いよいよ大日岳にアタック。小屋を過ぎると、大日岳の威容が眼前に迫る。どこか神々しささえも感じる。確かに、飯豊連峰を曼荼羅になぞらえたら、この大日岳が中心になりそうな、そんな迫力ある存在感である。

これから進む大日岳の裾のササ原を眺めていたら、登山道が人の横顔を形作っているように見えた。雨飾山(あまかざりやま)にビーナスがいるなら、この大日岳にいてもおかしくない。

>御西小屋から大日岳を望む
御西小屋からの大日岳。左に見えるのは飯豊のビーナス!?
文平ノ池と大日岳
文平(もんぺい)ノ池と大日岳

大日岳山頂も三六〇度の眺望がすばらしかった。そして、まだまだ稜線が続いている。もう6時間も歩いているのに、次に立ちはだかる西大日岳まで足を延ばしたくなるような、そんな魅力的な稜線である。名残り惜しいが踵を返した。

大日岳から西大日岳へ続く稜線
大日岳から西大日岳へ続く稜線

いつの間にか青空はなくなって、雲が一面覆ってしまった。天気はわるくなる予報だったから、無理もない。前日から2日間、好天がもってくれただけで幸運である。釣瓶落としの秋は、垂れこめた雲のおかげでいっそう暮れるのが早い。翌日が平日で、しかも天気がわるいから、登山者はわずかだった。追い越しもすれ違いもほとんどない。さすがに、秋のさびしさを感じてしまう。

切合小屋を出発してから11時間余り、暗くなる前に戻ってくることができた。すぐ、夕食のカレーだった。2日続けてのカレーだが、うまい。19時の消灯前には寝てしまった。

3日目:切合小屋~大日杉登山口

夜中から嵐だった。激しい風雨の音に目を覚ました。このまま小屋に停滞か、なんてことまで頭を過った。

朝食の卵かけご飯を食べ終えたころには、いくぶんか雨も弱まり、下山開始。強い西からの風はあったが、すぐに樹林帯なので、しのげた。

あとは淡々と下っていく。濡れた木々や葉っぱも美しいが、カメラは出さずに、目で見るだけにとどめる。濡れた根っこ道がいやらしく、滑らないように歩いていく。

ザンゲ坂まで戻ってきた。ざんげざんげざんげ…なるほど、懺悔を繰り返せば下山に至るということか。妙に納得しながら、鎖場を下り、ほどなくすると登山口に着いた。沢の水で靴の汚れを落とし、ふもとの白川荘(日帰り入浴450円)で汗も流して、帰途に就いた。

(山行日程=2025年9月27~29日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:2泊3日
コースタイム:【1日目】6時間
【2日目】11時間30分
【3日目】5時間
行程:【1日目】
大日杉・・・御田・・・地蔵岳・・・目先清水・・・御坪・・・切合小屋
【2日目】
切合小屋・・・本山小屋・・・飯豊本山・・・御西小屋・・・文平ノ池・・・大日岳・・・文平ノ池・・・御西小屋・・・飯豊本山・・・本山小屋・・・切合小屋
【3日目】
切合小屋・・・御坪・・・目先清水・・・地蔵岳・・・御田・・・大日杉
総歩行距離:約31,800m
累積標高差:上り 約2,958m 下り 約2,957m
コース定数:81
かぐや姫(読者レポーター)

かぐや姫(読者レポーター)

13年前、友人に誘われて日帰りで槍ヶ岳に登ったのが、登山にのめり込んだきっかけです。奥穂・西穂縦走や奥秩父主脈縦走を踏破。厳冬期の西穂や爺、残雪期の槍にも登頂しました。ハードな登山も好きですし、写真を撮りながらの登山も好きです。

この記事に登場する山

福島県 山形県 新潟県 / 飯豊山地

飯豊山・飯豊本山 標高 2,105m

 飯豊連峰南部に位置する、この連峰の主峰であり、飯豊山または飯豊本山と呼ぶ。福島県耶麻郡山都町(現在は喜多方市山都町)が山形・新潟県境に細長く割り込んだ飛地。実際には、山形県西置賜郡小国町と新潟県東蒲原郡鹿瀬町(現在は東蒲原郡阿賀町)との境に位置する。  山頂は花崗岩の露岩に覆われ、一等三角点が置かれる。その東500mには飯豊山神社が祭られ、飯豊山頂小屋が建つ。連峰の最高峰は大日岳に譲るものの、その風格と歴史において、やはりこの山が盟主である。  山頂に祭られる飯豊山神社は、一説に役ノ小角の開山といわれるが、江戸時代から信仰登山の対象として開かれた。当時の登山は「飯豊詣」と呼ばれ、8月の1カ月間に限って14歳前後の若者を伴って3日3晩の間、先達の指導で山に篭る。白装束に身を固めて水ごりをとり、山頂神社でお札を授かり、奥ノ院である大日岳まで遥拝したといわれる。いわば成人の儀式であった。  それ以外の期間は、修験者にのみ許された山であった。現在でも残る地名(草履塚や御秘所など)や古銭が道端で発見されるのは、古くから行われていた信仰登山を物語っている。当然、女人禁制の山であった。飯豊山神社の神は女神であるため、女性が近づくとやきもちをやいて、その女性を石にしてしまう、という言い伝えがある。  夏でも方々に広がる豊富な残雪や多くの高山植物は、飯豊連峰の大きな魅力となっている。特に御前坂付近から本山にかけての高山帯には、さまざまな高山植物が咲き競う。そして本山からの主稜線は急坂から一転してのびやかな高原状の散歩道に変わる。本山はその境界の山でもある。  メイン登山コースは4コースある。いずれのコースも健脚であれば1日で本山に到達することも可能であるが、通常は途中の切合(きりあわせ)小屋などで1泊する。山都口は、古くからの登山コースで、途中、三国小屋、切合小屋、それに本山小屋の3軒が整備されている。川入登山口より切合小屋経由で飯豊本山まで所要9時間。バリエーションとして弥平四郎コースがあり、三国岳で川入コースと合流する。本山までの所要時間は10時間。  飯豊本山へのダイレクトコースとしてダイグラ尾根コースがある。中級向であるが、一気に標高差1500mを登るのは、苦しいものの豪快な登山を楽しめる。飯豊温泉(長者原)より11時間を要する。大日杉コースは、登山口にも山小屋が整備され、比較的取り付きやすいが、所要時間は切合小屋経由で9時間を要する。

新潟県 / 飯豊山地

大日岳 標高 2,128m

 飯豊連峰の最高峰で、盛夏でも残雪をきらめかせてそびえる巨体は、登山者を魅了する。飯豊山神社の古文書に「大日岳祭神大己貴命、本地大日如来」とある。  福島県の川入や弥平四郎から三国岳に登り、切合小屋から本山小屋1泊でダイグラ尾根を下ったり、北股岳まで縦走して石転ビ沢の雪渓を温身(ぬくみ)平へ下山するコースが好まれるが、御西岳からの大日岳登頂は、行動計画から除くことができない。  頂上直下には、断層地形の草原に清冽な水をたたえた文平ノ池がある。水面に大日岳を投影し、お花畑に囲まれたすばらしい静寂境である。山頂からは、飯豊連峰主脈の雄大な景色を眺めることができる。  磐越西線の日出谷駅から実川渓谷を遡り、御幣松尾根、牛首山とたどる大日岳直登の道は、国立公園指定後の伐開で、前川の湯ノ島小屋か月心清水で泊まり、ゆったりとしたペースで高嶺の花々をめで、越後の山々を指呼できる静寂なコースである。日出谷から8時間強で大日岳山頂へ。  また、縦走路の御西岳からは2時間ほどで大日岳山頂を往復できる。

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