このエントリーをはてなブックマークに追加

カムチャツカ半島の高山植物から、日本の高山植物のルーツを探る――

高橋 修の「山に生きる花・植物たち」
たしなみ 2018年08月07日

植物写真家の高橋修氏は、現在、ロシア・カムチャッカ半島を訪れている。極寒のこの地は、標高の低い場所に、日本の高山帯の植物が生えている。それを見ると、日本の高山植物のルーツが見えてくるという。

 

イワブクロの背後にはコリャーク山(3456m)

 

ロシアの極東部カムチャツカ半島に来ている。なぜこの地に来ているかというと、カムチャツカ半島の高山植物は日本の高山植物のルーツを考えるときに、重要な場所だからだ。

カムチャツカ半島の高山植物は、日本では高山帯にしか見られない植物が、標高が低い場所にも生える。カムチャツカ半島は非常に寒く、標高の高い山には植物は生えておらず、標高500~800m付近で高山帯となり、日本の3000m級の高山的景観が広がる。

カムチャッカのアパチャ高原(標高800m)。標高の高い山には植物は生えていない

 

平地であれば背の高い木は生えているが、密生することはなく林床は明るい。丘陵部にはダケカンバがひょろっと生えている。同じような植生は日本の礼文島でも見られるが、カムチャツカ半島のほうがより高山的で、ハイマツ帯もある本格的なものである。日本の高山植物の多くは、氷河期に北極圏からやってきた寒さに強い植物であり、カムチャツカ半島の植生は、まさに日本の高山植物の本来の姿といえよう。

ダケカンバの林に生えるチシマキンバイ

 

カムチャツカ半島の高山植物の特徴は、日本特に北海道の高山植物に近いものが多いことである。カムチャツカ半島と北海道の高山植物が近いということは、カムチャツカ半島と日本の高山植物に強い関連性があるということになる。

私は日本の高山植物のルーツを訪ねる旅を続けている。日本から遠いイメージがあるカムチャツカ半島だが、北海道から見ると、点々と並ぶ千島列島の先にある。千島列島は氷河時代の海面が非常に低かった時代には、北海道と、ほぼ陸橋で繋がっていたと考えられている。この時に寒さに強い北極圏に生えていた植物が、カムチャツカ半島、千島列島を通り、北海道を南下し、本州にたどり着いたと考えられる。

同じようなルートとして、もうひとつ樺太(サハリン)ルートがある。日本の高山植物でカラフトゲンゲなどの名前があるのは、樺太が日本領だったころに樺太で発見されたことによる。同じように、チシマツガザクラ、チシマフウロ、チシマリンドウなどは千島列島が日本領だった頃に、千島列島で発見されて命名された。

「チシマ」の名がつくチシマヒナゲシ

 

ほかにも千島列島の島の名前が付いているものもある。ウルップソウが発見されたのは千島列島のウルップ島で、シュムシュノコギリソウのシュムシュ島も千島列島の島のひとつである。ちなみに、千島列島のシュムシュ島までは日本の領土になった事があるが、カムチャツカ半島は日本の領土になったことがないので、和名にカムチャツカが付いている植物はないのだろう。

国内では白馬岳や八ヶ岳でのみ見られるウルップソウは千島列島のウルップ島で発見されている

 

千島列島で発見されて命名された植物が多いのは、白馬岳や八ヶ岳に登るよりも、千島列島に日本の植物学者が調査することが容易であったことを示している。現在、千島列島はロシア領であり、簡単に千島列島に行けないことを考えると、隔絶の感がある。

ところで、カムチャツカ半島のウルップソウはおもしろい。ウルップソウは日本では礼文島、白馬岳、八ヶ岳だけに生えていて、北海道ではホソバウルップソウなどが生えている。それぞれ花色や葉の形が違うが、カムチャツカ半島のウルップソウは花色が薄いものや葉が細長いものなど、様々な形態のものがある。

雄しべが長いカムチャッカのウルップソウ

ユウバリソウタイプの白花のウルップソウ

 

この違いについて考察してみると――、

日本のウルップソウ群はカムチャツカ半島のウルップソウを母種として、氷河期に多くの形態を持つウルップソウが日本に広く生息した。そして温暖化の影響で、日本各地で高山や北の島に残された時に、たまたま葉が広く花色が濃いものが礼文島や白馬岳などに残り、葉の細いものが北海道の大雪山などに残り、花色の薄いものが夕張岳に残された――

そんなことではないだろうか。

 

ハイマツ、高山植物・・・、日本と共通点の多いカムチャッカの植生

日本の高山にはハイマツが普通に生えているが、ハイマツは世界でもユーラシア大陸の極東部にしか生えていない。日本では一般的なハイマツだが、実は分布の狭い珍しい植物なのだ。カムチャツカ半島の高山帯近くでもハイマツは一般的で、標高の高い場所では日本アルプスの高所のように低く地面を這うように伸び、それほど標高の高くない場所では、北海道のハイマツのように背が高くなる。

このように、カムチャツカ半島には日本と共通の植物が多く、日本人に馴染みのある高山植物が多い。しかし目立つ中でひとつあまり見慣れない高山植物がある。それがパリダ・カステリソウ(Castilleja pallida)だ。カナダやアメリカでインディアン・ペイント・ブラシと呼ばれる花である。

カナディアンロッキーでよく見かけるパリダ・カステリソウ、カムチャッカでも見ることができる

 

ハマウツボ科のこの植物は、カナディアン・ロッキーなどでは一般的な高山植物だ。花のように見えるのは葉が変化した苞という部分で、花はその内側に細い筒状になっている。この植物の分布の中心は北米大陸なので、カムチャツカ半島にこの高山植物があるのが最初は不思議だった。

しかし世界地図を広げてみると、カムチャツカ半島の先で、アリューシャン列島の島々によって、北米大陸とユーラシア大陸とは結ばれていることに気がついた。海水面が低下した氷河期には、陸橋ができていたに違いない。北半球の高山植物は南北の移動だけではなく、東西の移動もしていたのではないだろうか。

日本の高山植物の来た道とユーラシア大陸さらに北米大陸までの繋がりを考えながら、カムチャツカの首都ペトロパブロフスク・カムチャツキーとその近郊に、もう2週間近く滞在している。今年の夏は天気が悪く、晴れていたのは最初の2日だけで、後はずっと雨の日が続いている。道路となる雪渓が雪解け水の濁流に飲みこまれ、山に行くことができない。明日は天気になるだろうか。

キバナノアツモリソウ

タニマスミレ
自然観察 高山植物 海外
教えてくれた人

高橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒高橋修さんのブログ『フィンデルン』

同じテーマの記事
奄美大島の「へんな植物」たち、ユワンツチトリモチ・ヘツカリンドウ
九州のはるか南方海上に浮かぶ奄美大島は、国内では手付かずの大自然が残る場所として知られる。そこに生きる植物たちを確認すると、常識を超える「へんな」ものがたくさん見ることができる。
赤ではなく黄色に紅葉するヒトツバカエデ。心をつかんで離さない、ハート型の大型の葉
カエデの紅葉と聞けば、手のひらのように切れ込んだ形の葉が真っ赤に染まる姿を想像するはずだ。しかしカエデにもさまざまな種類がある。例えばヒトツバカエデの葉はハート型で、色は赤ではなく黄色に紅葉する。
仕方がないと言っていられない! 伊吹山の現在の姿から考える、シカの食害と鹿柵・駆除
イブキジャコウソウ、イブキトラノオなど「イブキ」を冠した植物がいくつもあるほど、高山植物の宝庫として知られている伊吹山。その伊吹山の植物たちが現在、危機的状況に見舞われているという。
晩夏から初秋の高山を黄色く彩るミヤマアキノキリンソウ、今年は真夏に満開になっていたが・・・
山に秋に差し掛かる頃に花を咲かせるミヤマアキノキロンソウ。秋に咲く花のはずが、今年は8月初旬には咲き始めていた。秋が深まってきて本来咲くべき時期となった今、どうなっているのだろうか?
記事一覧 ≫
最新の記事
記事一覧 ≫
こんにちは、ゲストさん
◆東京の天気予報[山域を変更]
明日

晴のち雨
明後日

曇一時雨
(日本気象協会提供:2018年12月9日 17時00分発表)
[ログイン]
ユーザ登録・ログインすることで、山頂天気予報を見たり、登山履歴を登録・整理・分析して、確認できます。
NEW 特集 スノーシューで雪山を楽しもう!
特集 スノーシューで雪山を楽しもう! 冬到来、雪の山をスノーシューで楽しんでみては? スノーシュー体験ルポや、エリアガイド、スノーシューツアーも紹介!
NEW 丹沢・大山方面の登山計画に! 【登山地図掲載】
丹沢・大山方面の登山計画に! 【登山地図掲載】 丹沢・大山方面への登山を安全にできるよう、コースマップ、アクセス情報&バス時刻表、山小屋一覧を掲載!
ひざの悩みにメディカルサポーター
ひざの悩みにメディカルサポーター 薄く、フィットして、ズレにくい。高機能な「フェイタス(R)メディカルサポーター」の秘密とは?
NEW 細部まで凝った作りのシュラフを、十勝岳で試す
細部まで凝った作りのシュラフを、十勝岳で試す 連載「高橋庄太郎の山MONO語り」。北海道・十勝岳で、凝った作りの寝袋、ニーモの「ラムジー15」をチェック!
NEW 年末年始は山小屋で過ごしませんか?
年末年始は山小屋で過ごしませんか? 冬季・年末年始の山小屋営業情報をピックアップ! 年末年始を年越しで過ごしたい登山者のみなさま、ぜひご活用ください!
NEW 2017年の年越しを山小屋で過ごしました
2017年の年越しを山小屋で過ごしました ライターの小野泰子さんが山小屋の年越しイベントを初体験! 年末年始の赤岳鉱泉と行者小屋の模様をレポートしました。
平成最後の紅葉シーズン、最終盤へ――
平成最後の紅葉シーズン、最終盤へ―― 紅葉シーズンは残り僅か。秋を堪能した人は、その美しい山の情景を紅葉写真コンテストにご応募ください!
JR青梅線の駅から行く奥多摩エリアの山
JR青梅線の駅から行く奥多摩エリアの山 都心と奥多摩を結ぶJR青梅線に乗って駅を降りれば、そこはもう登山口、駅から登って駅から帰れる、魅力たっぷりの山を紹介!
気軽に楽しめるけど、意外と手強い筑波山
気軽に楽しめるけど、意外と手強い筑波山 「東の筑波、西の富士」と称えられる茨城のシンボル、筑波山。春夏秋冬・東西南北、いつでも・どこからでも楽しめる山。
初詣では、安全登山を山で祈願しよう!
初詣では、安全登山を山で祈願しよう! 初登山と初詣を一緒にしてしまうゼ! 山の頂上や山腹にある有名な初詣スポットを教えます!
雪山の学び場、八ヶ岳へ
雪山の学び場、八ヶ岳へ バラエティに富んだコース、アルペンムード漂う山々、そして営業小屋。雪山を学ぶなら八ヶ岳がオススメだ。
冬だ! 富士山の見える山へ行こう!
冬だ! 富士山の見える山へ行こう! 日本一の山・富士山は、空気の澄んだ冬はとくに美しい。西は和歌山から北は福島まで――、富士山の見える山を目指してみては?