これからの登山道具は“機能”だけではない。環境問題へ向き合うアウトドア業界

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世界的に危機感が高まる環境問題を背景に、サスティナブル(持続可能)なモノづくりをするアウトドアメーカーを紹介していく新連載です。初回では、私たちを取り巻く環境問題について、登山の視点で紹介します。

文=吉澤英晃

最近アウトドア業界で環境へ配慮する取り組みが目立つようになってきました。そこには世界規模で取り組む環境問題への危機感が潜んでいるようです。そしてその問題は他人事ではなく、私たちの身の回りにも異常気象として現れています。いま、そして今後、私たち登山者にはどのような行動が求められているのでしょうか。

アウトドア業界で環境に配慮した動きが活発に

アウトドア業界で働きながら、最近ある変化を感じるようになりました。リサイクル素材を積極的に利用するなど、環境に配慮した新商品の開発や取り組みが目立つようになってきたのです。それは昨年の冬に開催された、2020年の秋冬にリリースする新作を発表するメーカーの展示会で実感しました。

パタゴニア」は以前から環境問題に取り組むメーカーとして有名ですが、「グレゴリー」も100%リサイクル生地を使用した新作バックパックを発表し、「ドイター」も使用済みペットボトルから作られる生地を使った新商品を出展していたのです。そこでは「スタティック」という、環境への配慮をコンセプトにした新しい国内ブランドにも出会うことがありました。

じつは環境に配慮する取り組みはいまに始まったことではありません。そのひとつが「ブルーサイン」です。青色の四角いタグを見たことがある人も多いでしょう。これは、環境保全、労働環境、消費者の安全を厳しい基準で管理し、持続可能なサプライチェーンを満たした製品に与えられる認証で、「ホグロフス」や、「コロンビア」「パタゴニア」「ドイター」などが参画しています。

大型台風や雪不足など、立て続けに起こった異常気象

2019年10月12日、大型で強い台風19号が伊豆半島に上陸しました。死者・行方不明者100名、住家の全半壊等27,684棟、住家浸水59,716棟と、その被害がいかに甚大であったかが分かります。山域では南アルプスが大きな被害を受けました。広河原から北沢峠間の林道で大規模な土砂崩れが発生し、今年度の市営バスは運休が決定。復旧の見込みはまだ立っていません。

冬になると今度は観測史上に残る暖冬と少雪に見舞われました。気象庁の発表では12〜2月の平均気温の平年差が、東日本で+2.2℃、西日本では+2.0℃と、統計開始から最高の記録を更新。反対に積雪量は最少となり、北日本の日本海側で平年比44%、東日本では7%とされています。GW期間中に多くの山スキー客で賑わう北アルプスの白馬岳蓮華温泉ロッジは、雪不足により周辺の沢が埋まらず、過去70年間ではじめて当期間の営業中止を決めました。

自然のなかで遊ぶ私たち登山者にとって、自然災害や環境の変化は由々しき事態です。しかし近い将来、大雨や大型台風によって通行できない林道や登山道が増え、雪が降らない暖冬が当たり前になるかもしれません。

台風の被害は高尾山にも。高尾山一号路・薬王院付近の崩落現場(バリサイ さんの登山記録

海に漂うマイクロプラスティックが及ぼす影響

近頃はマイクロプラスティックという言葉も、よく耳にするようになりました。マイクロプラスティックとは、自然界に排出されたプラスティック製品が雨などによって海に流れ着き、紫外線や波の影響で粉砕されて5㎜未満になったプラスティックのことです。フリースなどの化学繊維のウェアを洗濯したときにも発生することが分かっており、大気中にも浮遊していることが報告されています。

マイクロプラスティックは有害物質を含んでいる可能性があり、さらに漂流中に有害物質を吸着させる性質を持っていることから、ふたつの懸念が指摘されています。ひとつは海洋汚染について。もうひとつは、それが貝や魚、人間の大便からも見つかっているということです。食物連鎖によって蓄積、濃縮された有害物質が生物や人体にどのような影響を及ぼすのか、いままさに研究が進められています。

またマイクロプラスティックのもとになるプラスティック製品は、製造と焼却の過程で二酸化炭素などの温室効果ガスを排出します。さらにゴミとなって地表や海面に残ると、紫外線で劣化する際にも同様のガスを発生させていることが近年の研究で判明しました。

ここ数年で身近に感じるようになった異常気象は、この温室効果ガスの増加による地球温暖化が影響しているとも言われています。

浜辺を埋め尽くす大量のプラスティックごみ。分解されず地球上に残り続ける。

事態を重く受け止めて動き出した世界

2015年に開催された国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が全会一致で採択されました。この中には2030年までに達成する17の国際目標が掲げられています。それが最近、テレビでもよく見かけるようになった「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」です。 “持続的な開発目標”を意味するこのSDGsが掲げる目標のひとつに、「13.気候変動に具体的な対策を」という目標が含まれています。

同じく2015年に開かれた国連会議では、「パリ協定」が全加盟国の合意の下で採択されました。これは地球温暖化対策に関する国際的な枠組みで、2020年以降の共通目標として、世界の平均気温の上昇が産業革命以前と比べて2℃を十分下回るように抑えること、1.5℃までに制限する努力をすること、という具体的な数字を掲げています。

パリ協定の成立後、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)がまとめた特別報告書によると、すでに地球の平均気温は産業革命以前よりも1℃上昇しており、温暖化がこのまま進めば、2030年には1.5℃に達するといわれています。地球の平均気温が上昇すれば、身の回りの環境により深刻な影響を及ぼすことはいうまでもありません。

私たちのフィールドを守り、大好きな登山を続けるために

前述のSDGsには、「12.持続可能な消費と生産のパターンを確保する」という目標も掲げられています。これは私たち消費者も取り組むことができる項目です。具体的な行動として、ゴミの削減やリサイクル、再利用により自然界に排出する廃棄物を削減し、環境への悪影響を最小限に留めること、そして多くの人々が持続可能なライフスタイルに関する情報と意識を持つことを求めています。

世界とアウトドア業界は大切な地球環境を守るために動き出しました。間近に迫る10年後の未来でも大好きな登山を続けられるように、消費者である私たち登山者も環境に対して関心を持ち、意識を変える転換期に立たされているのです。次回からは、環境へ配慮したモノづくりを実践するアウトドアメーカーや取り組みを紹介していきます。

●次回は5月上旬に更新予定です。

吉澤英晃
大学の探検サークルで登山を始め、社会人になってからは山岳会に所属。無積雪期は沢登り、積雪期はアイスクライミング、雪山登山をメインに四季を問わず毎週のように山で遊んでいる。山道具を扱う会社で約7年の営業職を経て、現在は登山・山岳ライターとして活動中。

未来でも登山を続けるために。

アウトドアメーカーのサスティナブル(持続可能)なモノづくりや、環境のための取り組みを紹介していきます。未来のために登山者として何ができるかを一緒に考え、行動しましょう。

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