ふだんの立ち方や歩き方を修正すれば、下山時の膝の痛みの悩みを解消できるかも!

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登山中の身体のトラブルで、最も多いのが「膝の痛み」。その原因は多岐にわたるが、多くは筋力と柔軟性の左右差・内外差に起因することが多い。その解消法をQ&Aで指南する。

 

2020年の1月に「山の歩き方、膝痛で悩んでいる方、質問があればお答えします!」と読者の皆さんに質問募集を行いました。「膝痛で悩んでいる方」と文章の中に入れたこともあると思いますが、集まった37件の質問のうち17件が膝痛に関する内容でした。

普段のガイドの際は、一緒に山を歩いたり、撮影した動画を見ながらフォームチェックを行って口頭でアドバイスを行っていますが、今回は文章でお答えするという形になるため、文章でアドバイスができるものを選び、回答します。

※頂いた質問文は簡潔に再編集しています。

 

質問:下山時に毎回、右膝の外側が痛む

毎回右膝の外側が痛くなり、外側の大腿四頭筋が硬くなります。登りは平気で、下山時に痛くなる事が多いです。ふだんは腸腰筋(上半身と下半身をつなぐ筋肉)を伸ばすストレッチや開脚のストレッチを行なっています。膝痛の度合いは、その時々で違います。膝に効くストレッチ、登り方を教えて頂きたいです。

(41歳・男性・登山歴5~10年)

 

回答:まずは歩き方、立ち方の修正を

毎回右膝の外側が痛くなるということですが、腸脛靭帯(下記イラスト参照)に当たる部分が痛んでいるようであれば腸脛靭帯炎です。外側の大腿四頭筋(外側広筋)が硬くなることと合わせて考えると、特に右足は足の外(小指)側に体重をかける癖があるようです。登山靴の左右の靴底を比べ、靴底外側のすり減り具合を比べてみてください。左足・右足で違いはないでしょうか?

大腿部の筋肉の様子(後ろ側から)。腸脛靭帯は膝の外側にある部分


おそらく原因は、右足は母指球(内側)に力が入らない(体重が乗らない)歩き方になりやすいのだと考えられます。まずは、それを解消できるよう日頃から自分自身の歩き方、立ち方を修正するように心がけてください。

次に、足の外側に負荷が集中する人の多くは、写真1のように片足立ちの際に脚が斜めなる傾向があります。写真のように片足立ちをご自身で試してみてください。右足で立つと写真1のように脚が斜めになり、左足で立つと写真2のように脚が直立しやすいのではないかと思います。

写真1:小指側に体重が乗っていると脚が斜めになりやすくなる

写真2:足裏全体に均等に体重が乗ると直立しやすくなる。


右足の外側に体重が乗っている状態だと、写真1のように脚が斜めになりやすく、またこの状態は片足立ちをする際に不安定になりやすくなります。この際にバランスを保つために、太もも外側の筋肉(外側広筋)で踏ん張ることが多いと、この部分の筋肉に疲労が溜まりやすくなります。もしそうであれば、右足だけでいいので、足の親指側に力をいれ、足裏全体に体重を乗せて脚が直立するように片足立ちをする練習を一日に10~20秒程度でいいので続けてみてください。

今は体重のかかり方、力の入り方が、内側と外側に偏りがある状態ですので、その偏りが改善されると足の外側ばかりに負担がかかる歩き方を解消することが出来ます。

膝に効くストレッチについては、膝に痛みが出る原因は膝以外にあることが多いので、下半身全体のストレッチをまずは心がけてみることをオススメします。すでに、腸腰筋や開脚のストレッチをされているということですので、それ以外としては、太もも前部(大腿四頭筋)や太もも後部(ハムストリングス)、ふくらはぎ(腓腹筋)、お尻(殿筋群)のストレッチを行ってみましょう。

その際に、それぞれ柔軟性に左右差はないでしょうか? 全体の柔軟性のバランスが整うことで、局所的な負荷が減ります。特に、左右差や内外差がある場所を重点的に、その差を解消できるようストレッチを行ってみてください。

 

身体の動きには必ず癖がある

昨年からの「理論がわかれば山の歩き方が変わる」の連載では、下半身の動きは主に、股関節・膝関節・足関節が担っていると解説してきました。そして、それらの関節を動かしている筋肉の状態は人それぞれ異なり、特に左右で筋力が異なったり、柔軟性が異なる部分が必ずあったりすることを説明してきました。

歩行時に負担が集中することが、痛みトラブルを引き起こす原因となるため、筋力と柔軟性の左右差・内外差はまず最初に解消すべき課題になります。

ただし、その左右差や内外差は、自分自身で行ったり、一回ストレッチを試したりしただけでは、なかなか気づきにくい部分があります。まずは毎日時間を決めて、継続的に行うことをおすすめします。継続して同じ動きを繰り返すと、自分自身の体の左右差や内外差に自然と気づくことが出来るでしょう。

特に膝関節にトラブルがある場合は、股関節と膝関節の周囲のストレッチに重点を置いて行うことをオススメします。出来る範囲で、短時間でもいいので続けることが大事です。

 

歩き方の極意をまとめて書籍化!

昨年から13回の連載で山の歩行技術について解説してきましたが、この内容を整理・加筆して7月16日に「膝を痛めない、疲れない Q&Aでわかる山の快適歩行術」として出版しました。

膝を痛めない、疲れない Q&Aでわかる山の快適歩行術

「膝が痛くならないように歩くためにはどうすればいい?」、「どうしたら山をうまく歩けるの?」
500人以上の登山者に向けて実践講習会を開催し、歩き方の悩みを解決してきた著者が編み出した極意。登山ガイドを続けていく中でその弱点を克服するために作り上げた「歩き方」を理論的に紹介。

著者: 野中 径隆
価格: 1,500円+税

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この本では、最初に12のチェック項目を設けています。この項目をチェックすると、自身の体のどこに問題となる歩行癖があるのかを確認でき、問題点を認識しながら読み進められるような構成となっています。

トラブルの原因がどんな歩行癖にあるのかを把握することで、本の中に書かれた情報をより的確に理解が出来るように、そして次の登山ですぐに試せる対処法を見つけやすくなっています。

書店や登山用品店で見かけましたら、是非手に取って頂ければと思います。次回も、既に頂いたご質問の中からお答えしていく予定です。

 

プロフィール

野中径隆(のなか みちたか)

Nature Guide LIS代表。大学3年の夏に「登山の授業」で山の魅力に取りつかれ、以来、登山ガイドの道へ進む。「初心者の方が安心して登山できる」環境づくりを目標に積極的にWeb上で情報を発信するほか、テレビ出演、雑誌、ラジオなど各種メディアでも活躍中。
日本山岳ガイド協会・認定登山ガイド、かながわ山岳ガイド協会所属。
⇒ Nature Guide LISホームページ

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

日頃、あまり客観視することのない「歩き方」。しかし山での身体のトラブルや疲労の多くは、歩き方の密接に結びついている。 あるき方を頭で理解して見つめ直せば、疲れにくい・トラブルを防ぐ歩行技術に近づいていく。本連載では、写真・動画と一緒に、歩き方を論理的に解説。

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