望月将悟、静岡市境マウンテントレイル235kmを走破する

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日本海から太平洋まで、北アルプスと南アルプスを⼀気に縦⾛する⼭岳レース「トランスジャパンアルプスレース」を4連覇中。そして静岡市の消防隊員として⼭岳救助を生業とする望⽉将悟が、この夏に計画した壮大な⼭岳縦⾛「AROUND SHIZUOKA ZERO」・・・。この果てしない⼭旅を取材した。

文/下中順平(別冊山と溪谷『TRAIL RUN』編集長) 写真/永易量行

 

TJARを4連覇中の超人、この夏の壮大な山岳縦走計画

登山者の皆さんは「静岡市」と聞くと山をイメージしますか? それとも海をイメージしますか? 恥ずかしながら筆者はあまり「山」のイメージを持っていませんでした(山と溪谷社所属なのに!)。駿河湾のイメージが強く、あとは関係ありませんがサッカーを連想してしまいます。

そのイメージを大きく覆してくれたのが、静岡市の消防隊員として山岳救助に関わる望月将悟さんです。その名をご存じの方も多いと思いますが、望月将悟さんはNHKの番組でも特集された日本海から太平洋まで、北アルプスと南アルプスを一気に縦走する山岳レース「トランスジャパンアルプスレース(以下、TJAR)」を4連覇した超人です。

昨年開催の大会では、4日間23時間52分という驚異的な大会記録をたたき出し、4連覇を成し遂げました。総距離約415km、累積標高差約27,000mというコースを、5日間以内で縦走する、ちょっとスゴすぎてイメージできません。

TJARは2年に1回開催されるレースなので、今年・2017年は開催されませんでした。しかし望月さんは2017年の7月に、まるでTJARのような壮大な山岳縦走を計画し、見事に達成しました。

それが「AROUND SHIZUOKA ZERO(以下、ASZ)」、静岡市の市境のマウンテントレイル約235kmを一気に走破する旅です。

南アルプス・塩見岳西峰直下の森林限界に達した望月さん。ASZ挑戦3日目、
昨夜からの雨模様という厳しいコンディションにも関わらず、
まったく疲れた様子をみせないという鉄人ぶり

Google MAPなどの地図サービスで静岡市を調べてみると、その市境は、ほとんどが山岳地帯を走り、なおかつ南北に細長い形状をしていることがわかります。

AROUND SHIZUOKA ZEROのルート概要

AROUND SHIZUOKA ZEROの標高グラフ(概要)

 

◆DATA

スタート(用宗海岸) 2017年7月11日 00:00
ゴール(大浜海岸) 2017年7月15日 20:28
タイム 4日間20時間28分
距離 約235km
累積標高差 約2万3000m
3000m峰 聖岳、赤石岳、荒川前岳、塩見岳、間ノ岳、西農鳥岳
2000m峰 47ポイント

北は南アルプスの主峰、白峰三山の間ノ岳まで延びています。ASZのコースで、望月さんが通過したピークを順に追っていくと、南アルプス深南部の大無間山、南部の光岳聖岳赤石岳荒川前岳塩見岳間ノ岳西農鳥岳笊ヶ岳と、登山者なら誰もが知っている南アルプスの3000mクラスの名峰がズラリと並んでいます。

ゴールに近づくと、山伏八紘嶺、大谷嶺など「安倍奥」として知られる2000mクラスの秀峰のピークを踏むことがわかります。

望月さんは計画時に「この挑戦を実現することで、静岡市を囲む山をアピールしたいんですよ」と語ってくれました。そして「僕が山岳救助隊として担当するエリアをぐるりと回りたい」とも。そう、この壮大なマウンテントレイルが、山岳レスキューとして望月将悟さんが守る職場なのです。静岡市を囲む山々と、望月さんの職場のデカさに、圧倒されてしまいます。

塩見岳東峰から、西峰を通過する望月さんを撮影。南アルプスの南部と北部を分けるポイントでもあり、ここから北部の主峰であり、静岡市境の北端でもある間ノ岳まで、その日のうちに到達した

 

用宗海岸から始まる235km・5日間の旅の先に見えたもの

2017年7月11日のAM0:00に静岡市の用宗海岸(もちむねかいがん)を出発した望月さんは、7月15日、PM8:28に用宗海岸の西側、大浜海岸に帰ってきました。

大浜海岸はTJARのフィニッシュ地点としても知られる場所です。タイムは4日間と20時間28分。途中、南アルプスの山小屋で宿泊したり、ビバークをした時間も含んでいます。

「レースではないので」と望月さんは言っていましたが、それにしても驚異的なペースです。補給は、山小屋であったり、応援にかけつけた地元・静岡市のランナー仲間が差し入れしたりという体制をとりました。

山と溪谷社発行の古い南アルプス全図。なかなか手頃な全図が手に入らないため、古い地図を大事に使っている

大浜海岸で挑戦を終えた望月さんは、元気そのもの。最後は砂浜をダッシュして海に飛び込みました。改めて、その鉄人ぶりに驚嘆させられました。フィニッシュを祝福しようと駆けつけた地元のランナー仲間の皆さんに、一人ひとり、感謝の気持ちを伝える望⽉さん。少しだけお時間をもらい、静岡市境マウンテントレイル走破達成直後の思いを聞いてみました。

 

ASZはどんなトレイルでしたか?

「計画段階から、この距離、高低差、山域はヤバイなとわかっていましたが、実際に回ってみて、山は当然大きいのですが、毒虫、ダニ、熊、鹿、蛇、かぶれの木などなど、本当に冒険的要素がいっぱいでした」

どのあたりの山域が大変でしたか? やっぱり南アルプスの3000m峰でしょうか?

「南アルプスの主峰群はたしかに大きいですが、山小屋も多く、はっきりした登山道なので安心して歩くことができました。むしろスタートから深南部、そして安倍奥からゴールまでは、分岐も複雑で、安全に通過することに神経を使いました。山で怪我をするわけにはいかないですし、水不足による脱水症状など、絶対に不測の事態におちいるわけにはいかないと肝に銘じて足を進めました。無事、一度もロストせずにフィニッシュできてよかったです」

フィニッシュ後、⼤浜海岸の海に飛びこんだ望⽉さん。海から山へ、そしてまた海へ。この直後、まったく偶然ではあるが、望月さんの偉業達成を祝福するかのように、沼津側の海岸から花火が上がり、ドラマティックなフィニッシュをさらに盛り上げた。

目をキラキラさせながら、望月さんはそう教えてくれました。強靭なトレイルランナーとしての走力はもちろん、山岳救助隊としての高度な山の技術を持つ望月さんだからこそ成し得た挑戦だったのでしょう。最後に、ASZの挑戦中どんなことを考えていたのかを聞いてみました。

「僕の個人的な挑戦をサポートしてくれた皆さんへの感謝の気持ちです。あとは次はどんな挑戦をしようかと、ワクワクしながら考えていました」

こちらもワクワクします!! 望月将悟さんの次なる挑戦に期待しましょう。

 

望月将悟さんの「ASZ」挑戦の軌跡を撮影したグラフ企画は、2017年7月28日発売、別冊山と溪谷『マウンテンスポーツマガジン トレイルラン2017夏号』に収録されています。
また同誌の巻頭企画では、「山岳レスキューとしてトレイルランの安全を語る」という望月さんのインタビューも収録されています。登山者とトレイルランナーをつなぐキーパーソンとして、安全に山を楽しむために必要なことを語ってくれました。トレイルランナーにも登山者にも、ぜひ読んでほしい記事となっています。

望月さんの活動に興味を持っている方は、ぜひ、こちらの雑誌もチェックしてみてください! 下記リンク先で、雑誌の詳細やオンライン書店へのリンクを紹介しています。

 

プロフィール

マウンテンスポーツマガジン トレイルラン

山で行われるスポーツ、トレイルランニングにフォーカスして、登山者・ランナーをつなぐ情報誌。山での基礎知識からランニングのためのノウハウ、トレーニング論などを掲載。また注目のトレイルランナーの素顔にも迫ります。

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特別インタビューやルポタージュなど、山と溪谷社からの特別コンテンツです。

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