箱根の旧街道を歩き、江戸時代の旅を辿る

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箱根旧街道で、石畳や杉並木を歩き、老舗の茶屋で一息つく。歴史に思いをはせるショートトリップ。

 

箱根。駅伝、温泉、某アニメの聖地。新宿からロマンスカーに乗れば約80分で首都圏から気軽に行ける人気の観光地だ。

箱根には、江戸時代に幕府によって整備された江戸と各地を繋ぐ主要道路の「五街道」の一つ、「東海道」が通る関所があった。東海道の小田原から三島までを「旧箱根街道」や「箱根八里」ともいう。山岳地帯の急峻な地形のため、「天下の難所」と呼ばれた。

現在では、その旧街道の一部は、歴史を感じるハイキングコースとして歩かれている。今回は、ロシア出身のアリョーナさんとともにその道を歩いた。案内は、地元ガイドの金子森さんだ。

 

コース:須雲川~甘酒茶屋~箱根関所~箱根町

 

コースタイム:約2時間40分

⇒周辺のコースタイム付き登山地図

 

江戸時代の文化と歴史を感じるハイキング

バス停を降りると、須雲川沿いの自然探勝路を歩く。訪れた時期は、新緑がみずみずしく爽やかな空気を感じた。「紅葉の時期もいいですよ」と金子さん。途中で苔むした石に腰を下ろし、川の流れをぼんやり眺める。

 

 

さて、これからいよいよ峠越えの登り…と言いたいところだが、今回はいいとこどりをしたいので、いきなりショートカット。バスに乗り込み、甘酒茶屋へ。

「甘酒茶屋」は、その店名どおり、甘酒が人気の茶屋だ。江戸時代から峠を越える旅人たちにひと時の休息を提供し続けてきた。

甘酒は、アルコールや砂糖が入っておらず、昔ながらの製法で作られたやさしい味わい。「おいしい!」とアリョーナさん。うぐいすと黒ゴマの餅も一緒に食べて、一息つく。実はまだそんなに歩いていないのだが。

 

 

店は開放的なつくりで、最低限の灯りしかないため薄暗い。これは、「家づくりは夏をむねにせよ」という考えと、谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』で述べたように、日本の美意識は闇に本質があるという考えによるものだと、13代目店主の山本さんが教えてくれた。

「このちょっとした不便さで、交流が生まれることもあるんですよ」と山本さん。

 

石畳の道を歩き、箱根関所へ

 

「道中安全」と書かれた御札をもらい、甘酒茶屋を後に先に進む。しばらく山道を歩いて車道を渡ると、石畳の道に出る。この石畳は、ぬかるみと急な傾斜で歩きにくく旅人を悩ませていた道を、1680年頃に江戸幕府が整備をしたものだそうだ。やるなぁ幕府。

「石の上は滑りますね」と困ったようにアリョーナさんが笑う。

100年以上、旅人たちに歩かれてきた石畳は削られ磨かれて、濡れているとツルツル滑った。

「当時は草鞋だったので、滑らなかったそうです」と、金子さん。草鞋のグリップ力の方が最新ハイキングシューズよりも優れているというのか…。

進む道は木々に囲まれ薄暗く、隙間から差す光がちらちらと石畳を照らす。これも日本の美なのかもしれない。

 

 

峠を下り芦ノ湖に立ち寄ったあと、杉並木を通って、箱根関所へと向かう。この巨大な杉並木は1660年頃に、旅人の日よけ、風よけとして、植えられたものだそうだ。迫力ある巨木がずらりと並ぶ姿に、植えられた当初の若木を想像してみたりする。

 

 

復元された関所に着き、江戸時代に思いをはせたこの旅は終わるが、旧東海道はこの先、京都まで延びている。

 

写真=加戸昭太郎 文=高橋 楓(編集部)

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