「雨雲(乱層雲)」〜空を暗く覆い、しとしとと長い時間雨を降らせる|雲から知る山の天気(3)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。山の天気の変化を知る手掛かりとなるのが「雲」。『雲から知る山の天気』では、その種類と、天気との関係を山岳気象の専門家が解説します。第3回は、しとしと雨を降らす「雨雲」です。

文・写真=窪田 純、猪熊隆之
イラスト=平のゆきこ

ヤマテン本社より南アルプス方面に広がる雨雲


空を暗く覆い、しとしとと長い時間雨を降らせる「雨雲」。山の上では霧に包まれてしまうことが多く、雨雲への天候変化は天気図の変化や天気予報が頼りとなる。今回は雨雲の山を楽しむアイデアも紹介したい。

 

雨雲の特徴

しとしと優しい雨を降らせる雲

天気を崩す雲の代表格といえる雨雲。雪雲とも呼ばれ、その名のとおり雨や雪を降らせる。別名を「乱層雲」といい、全天を覆う暗い灰色の雲だ。短時間に激しい雨が降り、雷やひょうをもたらすこともある積乱雲とは違い、しとしとと長い時間、雨や雪を降らせる。上層雲より低いところに現われる中層雲の一つで、雲の底は地上からの高さが2kmほどだが、発達した雨雲になると雲の天頂は6~7kmに達する。雲に厚みがあり、太陽の光を通さない。雨の日は展望が利かないが、雨だからこそ出合える美しい景色もある。

 

雨雲が発生しやすい場所

温暖前線や低気圧の北側→東側に出現

雨雲は温暖前線や低気圧の北側、東側に現われる。おぼろ雲が出現したあとに現われることが多いが、高い山では霧に包まれてしまい、おぼろ雲から雨雲への変化がわかりにくい。

 

降水の前兆、様子がわかる雲

①尾流雲

雲の底から垂れ下がっているレースのような雲をいう。雲から落ちてくる雨や雪が地上に達する前に蒸発してできたものだ。尾流雲が見られると、この後は雨になることが多い。


②降水雲

雨や雪が落ちてくる途中で蒸発する尾流雲に対して、雨や雪が地上に達するものを降水雲と呼ぶ。降水雲が濃く見えるほど降水が強いため、近くで見えたら注意が必要だ。

 

雨の日でも山に行ってみては?
〈雨の日登山のススメ〉

ヤマテン専門天気図を利用しよう

ヤマテンが提供している「山の天気予報」の専門天気図では、地上の等圧線が描かれた天気図に降水の予想を重ねた「気圧配置・降水」(下図)を最長10日先まで確認することができる。登山前は数日前から目的の山周辺の雨の範囲や強弱を見て、イメージしておこう。


雨から学ぶ登山

雨雲は雷雲と違い落雷やひょうなどは伴わないため、後述する冬季の南岸低気圧による大雪などを除き、気象リスクは小さい。だからこそ、雨の日の山を学ぶにはいい機会となる。晴れの日にばかり登山をしていると、雨具を持たずに山に入るくせがついてしまったり、雨具のメンテナンスが不十分でいざというときに、防水や撥水機能が落ちていたりすることも。また、せっかく雨具を持っていても、着方が不十分ということもある。雨天時の行動は雨天時に確認しておこう。


注意が必要な雨雲

雨雲で気をつけたいのは、まず冬季の南岸低気圧の通過による大雪や、それに伴う雪崩である。また、低気圧の周辺で等圧線の間隔が狭くなっていると、雨自体はそれほど強くなくても風が強まるため、風雨となり、登山には厳しい気象条件となる。森林限界を越える場所を歩く場合には、低体温症のリスクが高まるため、樹林帯の中を歩くなど、計画を変更したい。特に下図のように低気圧の中心気圧(赤丸内)が24時間で10hPa以上下がるときは、山では荒天となるため登山中止を検討しよう。


雨の日でも行きたい山

屋久島や北八ヶ岳など原生林が生い茂る山をおすすめしたい。雨により森全体がしっとりとし、木々や花々が生き生きと見える。また足元には緑がいっそう際立った美しいコケたちが広がる。雨が上がり、霧が晴れていく瞬間も幻想的な風景に包まれる。ぜひ雨の日でも楽しめる山を見つけ、晴れの日とはまた違った姿を見せてくれる森を歩いてみてはどうだろうか。

左:南アルプスの夜叉神峠から
鳳凰三山をめざす道中/
右:八ヶ岳の白駒の池周辺

豆雲知識

なぜ山と平地の天気は違うのか

気象庁が発表する週間予報を見て、週末の山行を判断している方は多いのではないだろうか。もちろん参考にはなるが、週間予報は先の予報ほど精度が低く、特に夏場の3日以上先の予報を当てるのは難しい。さらに平地の予報であるため、山ではまったく異なる天気になる場合もある。山は平地と違って、風が山の斜面に沿って上ることで簡単に上昇気流が起きてしまい、水蒸気を多く含んだ空気が上昇すると雲が発生する。このため、平地では晴れ予報だったのに山では霧に包まれたり、逆に山頂では雲の上に出て晴れていたりと、山と平地で天気に違いが出ることがあるのだ。

山と溪谷2022年6月号より転載)

 

 

プロフィール

窪田 純さん(山岳気象予報士)

くぼた・じゅん/1981年、山梨県北杜市生まれ。気象予報士。空や雲を見るのが好きで気象予報士をめざす。某民間気象会社勤務を経て、ヤマテンへ。学生時代は山岳部で活動し、今は家族や友人と手軽な山を楽しむ。

登山力レベルアップ講座

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