【いつもの装備に“+300g”だけでOK】アメリカ発の新提案「ハンモック」を背負ってハイキングに出かけてみよう

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登山中の野営と言えば、テントを張って寝袋にくるまって過ごすのがスタンダードだが、アメリカではハンモックハイキングスタイルが静かに広がっているという。そのスタイルの魅力とノウハウに迫る。

文=二宮勇太郎、撮影=根本絵梨子、イラスト=東海林巨樹

「ハンモックのすばらしさは、ハイカーにこそ知られるべきではないか」

ハンモックに包まれて山で夜を明かした一人の若者が、こんな想いをぼんやりと抱き始めました。それから約10年の時を経て、人気アウトドアショップ「ハイカーズデポ」の店長となった彼は、この秋、自身が体験してきたさまざまなノウハウを一冊の本『ハンモックハイキング』(二宮勇太郎著)にまとめました。

「ハンモックはハイキングの在り方を変えるのではないか」という発想を柱に、いかにハンモックがハイキングに有用なのか、どのような道具を選ぶべきなのか、設営適地の見つけ方から守るべきルール&マナーまで、ハンモックハイキングを始めるために必要なあらゆる知識が詰まった一冊です。

本書から抜粋し、ハンモックハイキングの魅力の一部を<前後編>に渡ってご紹介します。

 

なぜ「ハンモックハイキング」なのか

ハンモックを背負ってハイキングをするいちばんの魅力は、普段とは異なる視点が得られることによる価値観の変化です。

「ここにもハンモックが張れそうだ!」

普段、何気なく歩いていたトレイルの周りにも、実は無数の休憩スペースがあり、一晩安心して眠れる就寝スペースが隠れています。ハンモックを取り入れると、これまでまったく使う機会のなかった「ハイカーの居場所」とでも呼ぶべき空間が見えるようになり、活用できるようになります。この新たな視点の獲得によって、あなたのハイキングはもっと自由で楽しくなるはずです。


それは日帰りであろうと、野営を伴う複数日のハイキングであろうと、あらゆる場面で恩恵をもたらしてくれます。たとえば日帰りのハイキングであれば、「見晴らしのいい山頂もいいけど、静かな森でゆっくり過ごすのもいいな」といったように、これまで価値を見いだせていなかった場所に目が向くようになるかもしれません。

ロングディスタンスハイキングにおいても、「ハンモックがあれば寝床探しに苦労せずにすむから、今日も歩けるだけ歩こう」と、野営地の心配をすることなく、よりのびのびと歩けるようになるはずです。ハンモックと新たな視点を携えて、さっそく野山に出かけてみましょう。

 

地面から解放される安心感と睡眠の質

私がハイキングにハンモックを使う理由は、「いつでもどこでも安定した寝床を確保できるから」です。

ハンモックを導入するまでは、私も、当然ながらテントを使って旅をしていました。しかし、テントに十分満足をしていたわけではありませんでした。

なかでもいちばんの不満は、野営地の状態によって睡眠の質が大きく変わることでした。状態のよくない野営地(傾斜がある、水はけが悪い、地面に凹凸がある)では、安心して眠ることができず、一晩に何度も目が覚めてしまい、ストレスを感じることが多々ありました。テントはいい野営地があって、はじめて安心して眠ることのできる道具です。どれだけ機能性や快適性の高いテントであろうとも、整った野営地が見つからなければ性能は十分に発揮されず、安眠はできません。


一方でハンモックは、支点さえ確保できれば、どこでも自分好みの寝床を作り出せるアドバンテージがあります。ハンモックを導入してからというもの、テントで旅をしていたときのように「今日はまともな寝床が見つかるだろうか」といった不安は、ほとんどなくなりました。


また、「睡眠の質を高める」こともハンモックを取り入れる理由のひとつです。

人間の体は平面ではありません。平らな場所で横になると、頭部、肩、背中、肘、お尻、踵などの出っ張っている部分に圧力が集中します。普段の生活ではその圧力を分散させるために布団を敷きますが、それでも圧力を全身に分散させることは困難です。就寝中は圧力の集中する部分の血液の循環が悪くなり、その圧力を分散しようとして人は無意識のうちに寝返りを打ちます。自らの動作によって体圧を分散させようとするのです。

ハンモックに横たわると、体が生地に触れている部分全体に体重が分散され、地面で横になったときのように特定の部位に圧力が集中することがありません。つまり、ハンモックは過剰な寝返りを防ぎ、眠りの質を向上させてくれます。疲労の回復に直結する睡眠の質を高めることは、ハイキングの質を高めることにもつながります。

 

まずは気軽にデイハイクから

ハンモックをハイキングに取り入れるなら、まずは日帰りから始めてみましょう。休憩や昼寝に使うだけなら、泊まりがけで出かけるよりも少ない装備で気軽に始められます(日帰りならオーバーナイトに必要なタープ、寝袋などを省けるため)。


日帰りのハンモックハイキングは、それほど多くの装備を必要としない「手軽さ」が魅力といえます。必要な装備はいたってシンプルで、普段のデイハイク装備にハンモック本体とサスペンションを加えるだけ。軽量なハンモックとサスペンションの組み合わせなら、いつもの装備にプラス300gほどで済みます。天気がよければ、タープを張る必要もありません。


もちろん、必要に応じて道具を加えていけば、ハンモックで過ごす時間をさらに充実させることもできます。食材と調理器具を持っていっておいしい食事を満喫するもよし、じっくり読書するのもいいでしょう。ただし、あれもこれもと欲張り、荷物が重くなりすぎないように注意してください。はじめのうちは、日帰りならではの軽快な装備からスタートしてみましょう。

※本記事は『ハンモックハイキング』(山と溪谷社)を一部掲載したものです。

 

≫後編:【え、こんなに小さいの?】驚くほど軽量コンパクト。「ハイキング向き」なハンモックの選び方

 

ハンモックハイキング

 

本邦初、登山・ハイキングで使用するハンモックのハウツーブック。アメリカのロングトレイルで進化を遂げたハンモックハイキングスタイルを、日本の山岳環境に合わせた形でハウツーをわかりやすく、実践的に解説。

著:⼆宮 勇太郎 
発行:山と溪谷社 
価格:1,980円(税込)

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