【書評】登山者にも親しまれる鉄道を深掘り『地図と鉄道省文書で読む私鉄の歩み』
評者=石丸哲也
「乗り鉄」「撮り鉄」などの言葉を日常、目にするように、鉄道ファンは多く、楽しみ方もさまざまだ。本書は地図、地形図の第一人者でもある今尾恵介氏が十数年来にわたって執筆するシリーズの6冊目。日本民営鉄道協会に加盟する私鉄は大手16社、地方56社。既刊の5冊は関東、関西の大手を解説しており、本書が初めての地方鉄道編となる。
富山地方鉄道は北アルプス立山、箱根登山鉄道は名前のとおり箱根へのアクセスで登山者に親しい。本書は、それぞれの鉄道の計画、設立から現状に至る歩みを「鉄道省文書」や同時代の地形図、新聞、観光案内などを駆使してまとめた労作だ。
たとえば箱根登山鉄道は前身の小田原電気鉄道の電車が走り始めたのは1900年だが、さらに前身の小田原馬車鉄道が設立された1888年から解説。丹念に資料が引用され、鉄道の実現に尽力した人々や時代が生き生きと蘇る。
豊富に引用された地形図も興味深い。鉄道だけでなく、沿線の市街地化などの変化も読み取れ、それが山へのアクセス路なので、なおさらだ。
山の行き帰りに何げなく乗っていたが、本書を読むことで、鉄道や沿線の歴史を知り、風景もより深く楽しめそう。鉄道ファンの分類に「深掘り鉄」というジャンルを付け加えたい。
地図と鉄道省文書で読む私鉄の歩み
富山地方鉄道・北陸鉄道・箱根登山鉄道
著 | 今尾恵介 |
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発行 | 白水社 |
価格 | 3300円(税込) |
評者
石丸哲也(いしまる・てつや)
山岳ライター。オールラウンドに登山を行なう。登山やツアーの講師などとしても活動している。
(山と溪谷2023年9月号より転載)
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