噴火から10年。僧侶や山伏と、信仰の山・御嶽山に登ってみた

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動画撮影スタート

早速登山口で撮影が始まる。

「登山だったらこんな天気じゃ取りやめですが、登拝だと『お山に来られた』という」(小雪童さん)

登拝に備え、曽我部さんは麓の滝で精進潔斎(飲食を慎み身体を清める)をしてきたという。なんだか緊張する。怒られたらどうしよう。

行程は六合目の中の湯を出た後、八合目の女人堂を経て宿泊場所の九合目石室山荘に至る。余裕があればそのまま山頂を往復して翌日の山頂での法会に備える。

途中ロープウェーから登ってくる道との分岐で、先導する戸塚さんが「私はここまでですので、後はみなさんがんばってください」と言い出した。

そういう先輩山岳部にもいたよなあ。

御嶽山山頂の開山祭を終えて下山する日野製薬の社長さん夫婦
山頂の開山祭を終えて下山する日野製薬の社長さん夫婦と途中出会う。御嶽山の薬草を使った製薬の伝統を守る

「お山は快晴」は理にかなった修験道の方法論

道中、僧侶の小雪童さんが山伏の戸塚さんに「こんな天気の日でも『お山は快晴』って言うんでしょうか」と声を掛けた。

御嶽山法会/山伏の中村さんほかに修験道の解説を求める小雪童さん
度々山伏の中村さんほかに修験道の解説を求める小雪童さん

「懺悔懺悔、六根清浄」で始まる「掛け念仏」を唱えながら登る山伏の登拝を知っている人もいるだろう。心身の不浄を祓い清める祈りの一説に天候の安定を唱える部分もある。でもポツポツ降り始めている。

「お山は心の中にあるんです。心が清ければお山は快晴です」

戸塚さんが朗らかに答える。小雪堂さんが「それ、後で撮らせてください」と言って、休憩中に撮影が始まる。そして嵐の山に進軍。

御嶽山法会/「お山は快晴」の声でやってくる一行
「お山は快晴」の声でやってくる一行。石室山荘手前は風雨が強まる

この掛け念仏を唱えると歩行が早くなるという。ぼくも唱えてみたけど、フレーズとともに息をゆっくり吐きだすので、そのぶん酸素を吸うことになる。これはヒマラヤに行く際に高山病予防の側面からも習った呼吸法と共通する。

合図や、辻で邪気を払うためなど、さまざまな用途で山伏さんたちがほら貝を鳴らしていた。呼吸法としては同様の効果があるようにも思える。

大峯奥駈道の修行にも参加したという中村さんは、先輩山伏に化繊の衣類を着ていて怒られた。実際雨の日には化繊だとまとわりついて歩きにくく、麻の着衣の意味がわかったという。

修験の道具の一つひとつにそれぞれ宗教的な意味がある。それだけでなく山で修行する上での経験智が反映されているようだ。

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この記事に登場する山

長野県 / 御嶽山とその周辺

御嶽山・剣ヶ峰 標高 3,067m

 ♪木曽のなあ、仲乗りさん、木曽の御嶽山はなんじゃらほい、夏でも寒い、よいよいよい♪  哀調を帯びた木曽節に歌い込まれた御嶽山(御岳山)は、富士山、白山とともに信仰の山として知られている。現在でも夏には白衣の御岳講の人たちが、「六根清浄」を唱えながら大勢登っており、『信濃奇勝録』にも「信州一の大山なり、嶽の形大抵浅間に類して、清高これに過ぐ、毎年六月諸人潔斎して登る、福島より十里、全く富士山に登るが如し」と書いてある。  御嶽山黒沢口の登山道沿いには、「何々覚明」と刻まれた石柱が、所狭しと林立しているのが見られるが、江戸末期から明治初めにかけて、毎年何十万人も登ったといわれる御岳講の賑わいぶりが想像される。  この御嶽山は何回もの爆発を繰り返したコニーデ型の複式火山で、1979年(昭和54年)には突然、地獄谷に新しい噴火口を現出させ、日本中をびっくりさせている。また、91年、07年にもごく小規模な噴火をしている。  最高峰は3067mの中央火口丘、剣ヶ峰で、その周りを継子岳(ままこだけ 2859m)、摩利支天山(まりしてんやま 2959m)、継母岳(ままははだけ 2867m)などのピークが外輪山となって取り囲んでいる。  また、これらの峰々の間にはエメラルド色をした、一ノ池から五ノ池まで数えられる山上湖が散在している。なかでも二ノ池は標高2905m、日本で一番高い湖として知られている。これらの池を結んでの池巡りコースも考えられる。  登山コースは信州側から3本、飛騨側から1本の計4本がある。7合目の田ノ原までバスが上がる王滝口は歩行距離も短く、日帰りも可能なので最も登山者が多い。田ノ原から荒々しい地獄谷爆烈火口を眺めながら3時間強で剣ヶ峰に立てる。  御岳山で最も古く、信仰登山のメインルートである黒沢口も6合目までバスが入る。また御岳ロープウェイ・スキー場からロープウェイを利用すれば7合目まで上がることもできる。6合目から4時間30分で剣ヶ峰。  信州側第3のコースである開田(かいだ)口は、標高差も大きく、行程も長いので、開田高原散策と合わせて下山に利用した方がよかろう。西野から登るとなると距離も標高差も大きく、6時間30分で剣ガ峰。  飛騨側唯一の登山道で、標高1900mに湧く濁河(にごりご)温泉がベースとなる飛騨口は、原生林の中の静かな山旅を楽しめる。濁河温泉から5時間30分で剣ガ峰へ。  山頂からの展望は広大で、3つのアルプスや中部、関東一円の山々を見渡すことができる。また遠く加賀の白山も望まれ、日が落ちると名古屋の街の灯が美しい。  2014年(平成26年)9月27日にも噴火し、大きな被害を出したのは記憶に新しい。噴火直後に気象庁は入山を規制する「噴火警戒レベル3」を発表した。2022年7月28日現在、「噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)」だが、引き続き火口から概ね500m程度の範囲で立ち入りが禁止されている。

プロフィール

宗像 充(むなかた・みつる)

むなかた・みつる/ライター。1975年生まれ。高校、大学と山岳部で、沢登りから冬季クライミングまで国内各地の山を登る。登山雑誌で南アルプスを通るリニア中央新幹線の取材で訪問したのがきっかけで、縁あって長野県大鹿村に移住。田んぼをしながら執筆活動を続ける。近著に『ニホンカワウソは生きている』『絶滅してない! ぼくがまぼろしの動物を探す理由』(いずれも旬報社)、『共同親権』(社会評論社)などがある。

Special Contents

特別インタビューやルポタージュなど、山と溪谷社からの特別コンテンツです。

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