“登る僧侶”小雪童さんに聞く、登山と山岳信仰のクロスロード

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霊山・御嶽山に、噴火10年の節目に僧侶と山伏、神職や強力、漫画家といった多彩なメンバーでの登拝を試みた「山と仏」小雪童(しょうせつどう)さん。自宅が格式あるお寺とはいえ、もともとは山岳部で登山を始めた「僧職系」登山家だ。「見ている世界が違う」(小雪童さん)という登山と登拝、二つの世界の交差点を嵐の御嶽山・石室山荘で聞いてみた。

文・写真=宗像 充


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インターネットで「山と仏」を発信

――一昨年御嶽山で出会ってから、小雪童さんが「山と仏」をタイトルに、YouTubeやXなどで発信しているのを知りました。始めたきっかけは。

登山で近くの八ヶ岳の赤岳に冬登った時、山頂にボロボロの不動明王がありました。それまでは八ヶ岳に仏様があるなんて思ってもみなかった。赤岳を開山したのは、本沢温泉の原田源吉(本沢温泉初代の叔父)です。赤岳の不動明王像には明治12年(1879年)の銘があります。風雪に耐えて140年余りであのたたずまいになった。僧として「ここにこんな仏様があるのを伝えたい」とネットで発信したのが転機でした。

僧衣で山に登る小雪童さん。槍ヶ岳を背景に(写真=酒井基樹)
僧衣で山に登る小雪童さん。槍ヶ岳を背景に(写真=酒井基樹)

――「山と仏」なんてあるの?と最初聞いたとき思いました。でも動画を見ると日本の山の歴史は信仰登山の歴史でもあるから、背景知識がわかって楽しめる。いっしょに歩いても、先導する戸塚智尚さんは今日も「まじめに楽しく」という。ストイックで厳しいイメージのある修験への見方がだいぶ変わりました。

SNSはきっかけ作りですよね。まずつながらなければ伝えられない。一昨年御嶽山にいっしょに登った天狗堂通信さん(曽我部泰純さん、今回の御嶽山も参加)とのお坊さんならではの内輪トークが動画では受けたりしました。摩利支天にしろ役行者にしろ、山でしか出会えない仏様もいる。「あれってなに?」って思ったところから「仏心(ごとけごころ)」も芽生える。知ってもらって癒されてそれだけでもいい。そんなとき「山登る坊さんいたな」と思ってもらえたら。

小雪童さんと「天狗堂通信」こと山伏の曽我部泰純さん
2022年に女人堂前ではじめて小雪童さん一行に出会う。左は「天狗堂通信」こと山伏の曽我部泰純さん

山岳部から「山と仏」へ

――小雪童さんは真言宗の現役住職ですが、片や「小雪童」で発信しています。

いままでの一般への仏教の伝え方を根底から見直して、インターネットを使った新しい仏教の発信をめざしています。ユーチューバーには実名を用いない場合も多いので、伝統に則った形でこの部分を構成できないかと考えました。特に雪山が好きなので、雪山童子の説話にちなみ「小雪童」と名乗っています。

御嶽山 女人堂前で動画撮影を試みる小雪童さん一行
女人堂前で撮影を試みる

――生家はお寺なので僧侶をめざした?

実のところ大学は仏教系ではないですし、大学で山岳部に入り始めたのは山です。学生時代の旅行でチベットのラサでポタラ宮を見学していたら「お前は日本人で仏教徒だから中に入っていけ」と僧侶に声をかけられました。真言宗は密教で、チベットと日本に伝来しています。法要の最前列に座らせてもらって仏教を見直す機会になりました。

――それから修行を始めた?

就職しました。1978年生まれで就職氷河期と重なり、中国で仕事をして1年目に祖母に呼び戻されました。結局、父の勧めで、高野山で修行を始めた。そしたら「仏心」が芽生えてそのまま10年続けました。

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この記事に登場する山

長野県 / 御嶽山とその周辺

御嶽山・剣ヶ峰 標高 3,067m

 ♪木曽のなあ、仲乗りさん、木曽の御嶽山はなんじゃらほい、夏でも寒い、よいよいよい♪  哀調を帯びた木曽節に歌い込まれた御嶽山(御岳山)は、富士山、白山とともに信仰の山として知られている。現在でも夏には白衣の御岳講の人たちが、「六根清浄」を唱えながら大勢登っており、『信濃奇勝録』にも「信州一の大山なり、嶽の形大抵浅間に類して、清高これに過ぐ、毎年六月諸人潔斎して登る、福島より十里、全く富士山に登るが如し」と書いてある。  御嶽山黒沢口の登山道沿いには、「何々覚明」と刻まれた石柱が、所狭しと林立しているのが見られるが、江戸末期から明治初めにかけて、毎年何十万人も登ったといわれる御岳講の賑わいぶりが想像される。  この御嶽山は何回もの爆発を繰り返したコニーデ型の複式火山で、1979年(昭和54年)には突然、地獄谷に新しい噴火口を現出させ、日本中をびっくりさせている。また、91年、07年にもごく小規模な噴火をしている。  最高峰は3067mの中央火口丘、剣ヶ峰で、その周りを継子岳(ままこだけ 2859m)、摩利支天山(まりしてんやま 2959m)、継母岳(ままははだけ 2867m)などのピークが外輪山となって取り囲んでいる。  また、これらの峰々の間にはエメラルド色をした、一ノ池から五ノ池まで数えられる山上湖が散在している。なかでも二ノ池は標高2905m、日本で一番高い湖として知られている。これらの池を結んでの池巡りコースも考えられる。  登山コースは信州側から3本、飛騨側から1本の計4本がある。7合目の田ノ原までバスが上がる王滝口は歩行距離も短く、日帰りも可能なので最も登山者が多い。田ノ原から荒々しい地獄谷爆烈火口を眺めながら3時間強で剣ヶ峰に立てる。  御岳山で最も古く、信仰登山のメインルートである黒沢口も6合目までバスが入る。また御岳ロープウェイ・スキー場からロープウェイを利用すれば7合目まで上がることもできる。6合目から4時間30分で剣ヶ峰。  信州側第3のコースである開田(かいだ)口は、標高差も大きく、行程も長いので、開田高原散策と合わせて下山に利用した方がよかろう。西野から登るとなると距離も標高差も大きく、6時間30分で剣ガ峰。  飛騨側唯一の登山道で、標高1900mに湧く濁河(にごりご)温泉がベースとなる飛騨口は、原生林の中の静かな山旅を楽しめる。濁河温泉から5時間30分で剣ガ峰へ。  山頂からの展望は広大で、3つのアルプスや中部、関東一円の山々を見渡すことができる。また遠く加賀の白山も望まれ、日が落ちると名古屋の街の灯が美しい。  2014年(平成26年)9月27日にも噴火し、大きな被害を出したのは記憶に新しい。噴火直後に気象庁は入山を規制する「噴火警戒レベル3」を発表した。2022年7月28日現在、「噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)」だが、引き続き火口から概ね500m程度の範囲で立ち入りが禁止されている。

プロフィール

宗像 充(むなかた・みつる)

むなかた・みつる/ライター。1975年生まれ。高校、大学と山岳部で、沢登りから冬季クライミングまで国内各地の山を登る。登山雑誌で南アルプスを通るリニア中央新幹線の取材で訪問したのがきっかけで、縁あって長野県大鹿村に移住。田んぼをしながら執筆活動を続ける。近著に『ニホンカワウソは生きている』『絶滅してない! ぼくがまぼろしの動物を探す理由』(いずれも旬報社)、『共同親権』(社会評論社)などがある。

Special Contents

特別インタビューやルポタージュなど、山と溪谷社からの特別コンテンツです。

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