下山で土砂崩れに遭遇。南アルプス・赤石山脈南部縦走

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読者レポーターより登山レポをお届けします。Jimny-Hikerさんは南アルプス・赤石岳(あかいしだけ、3121m)、聖岳(ひじりだけ、3013m)を周回。

文・写真=Jimny-Hiker

南アルプス南部の核心部赤石岳・聖岳を縦走すべく畑薙へ

南アルプス南部の登山口、畑薙(はだなぎ)・椹島(さわらじま)は東海フォレストが管理している山小屋に宿泊予約をすると、送迎バスが利用できます。

梅雨明け10日という気象状況で、午後には激しい雷雨でも、午前は晴れが期待できます。

1日目:椹島~赤石小屋

畑薙夏季駐車場経由の場合、バスの時間が決まっており朝は7時15分始発。椹島到着が8時25分のため、初日は午後の雷雨を考えると赤石小屋までがベストです。

椹島ロッジから小赤石尾根(東尾根・大倉尾根)へ

椹島ロッジから小赤石尾根(東尾根・大倉尾根)へ。

赤石小屋までの急登

赤石小屋までの急登。案内板が続きます。

赤石小屋

予想通りの雷雨になりましたが、降り出したのは予想より早い11時。近くに雷が落ちることも。雨に降られながらも樹林帯を登り上げ、赤石小屋に到着。受付を済ませ、雨に濡れたレインウェアをストーブで乾かしました。

雲間にそびえる聖岳

雨があがると雲間にそびえる聖岳。

夕陽に染まる雲と兎岳

夕陽に染まる雲と兎岳(うさぎだけ)。空がきれいに染まりました。

赤石岳と天の川

赤石岳と天の川。

2日目:赤石小屋~赤石岳~百間洞の家~兎岳~兎岳避難小屋

午後の雷雨を回避するため、2時30分起床。2日目の行程を兎岳避難小屋までとするか、聖平小屋までとするか、天気を見ながらの判断。昨日も昼前に降り出したので、無理のない行程で登ります。

赤石小屋の案内標識

まだ暗い3時に出発。日の出は4時45分ごろ。富士見平から先は桟道をトラバースするので、少し明るくなり始めるころに通過したいところです。

雲海に浮かぶ富士山

明るくなり遠くに雲海に浮かぶ富士山。

朝日に燃える赤石岳

朝日に燃える赤石岳。

雲海に浮かぶ富士山

この時間の山がいちばんすばらしい。

最高のモルゲンロート

最高のモルゲンロートでした。

シコタンソウ

標高を上げると高山植物のシコタンソウ。

赤石岳山頂直下から赤石山脈南部の主峰群

赤石岳山頂直下から赤石山脈南部の主峰群。

赤石岳山頂

久しぶりの赤石岳山頂。早朝の景色は本当にすばらしい。

赤石岳から百間洞方面へ続く縦走路

赤石岳から百間洞(ひゃっけんぼら)方面へ続く縦走路。どっしりと構える聖岳。ハイマツの緑がすてきな稜線です。

百間平から大沢岳

百間平から、これから登る大沢岳(おおさわだけ)。

赤石岳山頂3120mから2460mの百間洞まで660mも下り、2819mの大沢岳へ登り返す。登って下って登る体力勝負の山域です。

百間洞山の家

百間洞山の家で休憩。この先水場が乏しいので補給させていただきます。聖平まで行き着かなかった場合、兎岳避難小屋には水場がないからです。

大沢岳の急登

下りに慣れ切った体に堪える激急登。

大沢岳の山頂部

山頂部は岩に覆われています。

大沢岳山頂から聖岳

大沢岳山頂から聖岳。激しいアップダウンで体力消耗。この時点で雲も上がり始め、兎岳避難小屋でビバークを考えます。

大沢岳

鞍部まで下り振り返る大沢岳。

昨日同様、午後は雲が沸きだす。雷雨になる前に少し急がねばなりません。小兎岳~兎岳間にある水場は未確認。

兎岳

兎岳に着くころにはあたりは真っ白に。

山頂部には南アルプス固有種のタカネビランジが咲いていました。

兎岳避難小屋

雨が降る前に兎岳避難小屋に到着。SNSや小屋番さんには聞いていましたが、中は新しく板が引かれているものの、雨風を防ぐのがやっと、といった印象。

2日目はここでビバークとなりました。

3日目:兎岳避難小屋~聖岳~奥聖岳~聖平小屋~椹島

山行3日目。

兎岳から聖岳のコル間は急斜面でザレているので明るくなってから歩こうと、4時スタート。少し歩くと明るくなってきます。

兎岳のコル付近から赤色チャートの岩盤の聖岳

兎岳のコル付近から赤色チャートの岩盤の聖岳。

兎岳

振り返る兎岳

赤石岳と朝日

赤石岳と朝日。

影聖

影聖。

聖岳方面から来た登山者と小屋で聞いた天気の情報交換。電波の繋がらない山域では人と繋がりが重要です。

兎岳と中盛丸山、大沢岳の歩いてきた稜線

兎岳と中盛丸山、大沢岳の歩いてきた稜線。稜線というより、それぞれ一山の大きさがすごい。

聖岳山頂

3013m、聖岳山頂。

南アルプス

滅多に来ることができない山深い山域。奥聖岳まで行きましょう。

日陰に残る雹

昨夜降った雹が日陰に残っていました。

奥聖岳

奥聖岳。笊ヶ岳(ざるがたけ)と白峰南嶺(しらねなんれい)の連なる峰々、その奥に富士山。

聖岳南面

聖岳南面はザレた道が続く。振り返り仰ぐとものすごい岩塊です。

ライチョウの親子

岩壁にはライチョウの親子がいました。

聖平小屋

聖平小屋に到着し水を補給。奥聖岳への往復があり、この時点で9時を回る。この先上河内岳(かみこうちだけ)・茶臼岳(ちゃうすだけ)へ向かうと間違いなく雷雨に遭遇する。さえぎる物のない稜線では厳しいので、椹島へ予定変更します。

まさかこの判断が後に響いてくることになるとは……。

椹島

椹島へ下山するとバスが遅れている様子。椹島~畑薙間の林道で土砂崩れが発生し、どんどん崩れているとのことです。バスの行き来はできず、その日は椹島へ停滞することに。

雷雨承知で上河内岳を越え茶臼岳へ行けば、畑薙まで自力で下りることができたか……。1日休みに余裕があったので焦ることもなく、こんなこともあるのだと実感。SNSでのお知り合いや山友さんとバッタリ遭遇し、その日は小屋泊で疲れを取りました。

4日目:椹島~畑薙

早朝から情報が錯綜。林道閉鎖はまだ続いています。いろんな噂が広がっていました。ヘリが飛ぶ、まさかのオスプレイが飛ぶ、など。

待機していると、崩壊地までバスで移動、大井川の対岸へ徒渉し、崩壊地を回避、吊橋を渡って林道に戻り、畑薙へバスで移動、という案内がありました。

大井川を徒渉

崩壊地前まで移動し、案内に従い大井川を徒渉。川にロープが張られてました。水はひざ下程度、ゆっくり渡ります。

林道の崩壊地

対岸から林道の崩壊地地点。のり面が崩れガードレールが崩壊しています。道路工事関係者の方々が復旧に取り組まれておられました。

ニュースでもトップで報道されていたと後で知ります。復旧に取り組まれた方々、脱出に尽力された関係者のみなさまに感謝(※林道は8月1日に復旧し、現在は通行可能)。いろいろあった3泊4日の山行。このすばらしい山域へまた訪れたいと思います。

(山行日程=2025年7月23~26日)

立ち寄り情報
「接岨峡温泉会館」

接岨峡温泉会館

接岨峡(せっそきょう)温泉でひと汗流しました。近くを大井川鉄道が走っているので、撮影も。

https://www.sessokyoonsen.com/

MAP&DATA

高低図
日数:3泊4日
コースタイム: 【1日目】5時間
【2日目】8時間35分
【3日目】10時間10分
【4日目】不明
行程:【1日目】
椹島ロッヂ・・・樺段・・・赤石小屋
【2日目】
赤石小屋・・・富士見平・・・北沢源頭・・・赤石小屋分岐・・・赤石岳・・・百間平・・・百間洞山の家・・・大沢岳・・・分岐・・・中盛丸山・・・小兎岳・・・兎岳避難小屋
【3日目】
兎岳避難小屋・・・聖岳・・・奥聖岳・・・聖岳・・・小聖岳・・・薊畑分岐・・・聖平小屋・・・滝見台・・・聖沢吊橋・・・聖岳登山口・・・椹島ロッヂ
【4日目】
椹島ロッヂ・・・畑薙
総歩行距離:約33,895m
累積標高差:上り 約3,864m 下り 約3,863m
コース定数:94 
アドバイス:兎岳避難小屋ビバークとなったが、2日目に百間洞山の家、3日目に聖平小屋に泊まる3泊4日の行程にすると1日の行動時間に余裕ができる。
Jimny-Hiker(読者レポーター)

Jimny-Hiker(読者レポーター)

四季を問わず山と撮影を楽しむハイカー。

特集 日本アルプス

特集 日本アルプス

この記事に登場する山

長野県 静岡県 / 赤石山脈南部

赤石岳 標高 3,121m

 静岡県と山梨・長野両県の県境尾根には、名前のついている3000m級の山がちょうど10座ある。この10座すべてが静岡市との市境にもなっている。なかでも赤石山脈の盟主、赤石岳は一等三角点をもち、3121mの高さを誇る。まさに南アルプスの王者的な風格があり、山頂からの展望は360度を欲しいままにできる。名だたる南アルプスの山々はもちろんのこと、富士山、奥秩父連峰、八ヶ岳、遠くは北アルプスの槍ヶ岳や穂高連峰、中央アルプス、御岳山と、南アルプスきっての眺望といえる。  山頂には昔の信仰登山のなごりをとどめる石や鉄製の剣が残っており、この山の歴史を物語っている。明治12年と14年に測量登山が行われ、その後一等三角点が設けられた。そして明治時代には地質学者エドモンド・ナウマンやウエストン、河野齢蔵、小島烏水などの学者、登山家がそれぞれ登山している。  また、大正15年夏、この辺りの山林の持ち主であった大倉喜八郎(大倉財閥の創立者)が大勢のお伴を従えて特製の駕籠(かご)で登頂したというエピソードもある。彼の製材会社は東海パルプとして残り、椹島から赤石岳に突き上げている東尾根は別名、大倉尾根とも呼ばれている。  赤石岳を登るにはいくつものコースが考えられるが、代表的な椹島から東尾根を登って登頂、さらに足を延ばして荒川三山を回って椹島へ戻ってくる一周コースを説明する。途中には5つの山小屋があるので、日程も好きなように組める。椹島へは静岡駅からバスで畑薙第1ダムまで入り、ダムから林道を歩くのが一般的。東尾根は取付から急坂が続く。地図上の2027m地点手前で林道を横切る。樹林帯の中の道は踏み込まれていて歩きよく、4時間ほどで赤石小屋に着く。古い小屋のすぐ上には新装なった立派な小屋がある。小屋を過ぎて富士見平に達すると展望が開け、周囲の山が一望できる。しばらく進むと尾根から外れ、左手の赤石沢の支流、北沢の源頭を渡る。この辺りは高山植物が豊富に咲いている。  小屋から3時間ほどで待望の赤石岳山頂に立てる。充分展望を楽しんだならば、小赤石岳、大聖寺平を経て荒川小屋まで下る。次いで頭上にそびえる前岳を目指して登りだすと、ここも所狭しと高嶺の花々が咲いている。前岳に出て中岳の小屋を過ぎ、さらにひと汗かいて悪沢岳へ登り返す。千枚岳を経て1時間も下ると、樹林に囲まれた大きな千枚小屋が建っている。小屋から蕨段を経て椹島までは、長いが穏やかな下りばかりで、3時間もあれば出発地へ戻ることができる。

長野県 静岡県 / 赤石山脈南部

聖岳 標高 3,013m

 聖岳は南アルプスで一番南部に位置する3000m級の山である。安倍奥の山から眺めると、屋根の形をした特徴ある山で、すぐ目にとまる。左手の高い方が前聖岳、地図によっては西聖岳とも書いてあるが、3013mの標高がある。主脈から外れた右手の低い方は奥聖岳といい、2982mの高さを有する。三角点(2978m)は低い方にあり、三角点のない高い方を聖岳と呼ぶ。  山名は山が深い南アルプスの中でもとりわけ奥深く、世俗を脱した聖なる山、すなわち聖岳という説と、大井川からこの山に登る沢は悪場が多く、ヘズリ(沢の両岸の岩壁帯をトラバースすること)が多い沢という意味からヘズリ沢―ヒジリ沢―聖沢となり、この沢の源頭の山ゆえ、聖岳になったという説がある。  山頂から主脈を目で追っていくと、うねうねと続く雄大な稜線上にいくつもの名高い山々が浮かび出ている。足元の大きな谷の向こうには赤石岳が両翼を広げた格好で全容を見せる。左手には気持ちのよさそうな広々した平らがあるが、これが百間平である。赤石岳の右奥には均整のとれた悪沢岳が目を引く。さらにその奥には塩見岳の山頂が2つに分かれて見える。もっと奥には日本第2位の高峰、北岳や大きなカールを持つ仙丈ヶ岳と、すべてが3000mを超える山々である。  時間があれば足を延ばして、三等三角点のある奥聖岳を往復してみたい。低いハイマツの中に細い踏み跡がはっきりついている。  聖岳登山の代表的コースは聖沢から聖平経由のルート。しかし聖岳往復だけではちょっともったいない。聖平から山頂をピストンし、上河内岳経由で畑薙大吊橋へ出るコースは、帰路のバス停も近いので便利。  静岡駅からバスで畑薙第1ダムまで入り、ダム湖畔の林道を歩いて登山口を目指す。荷物の大きさやパーティの力にもよるが、3~4時間で登山口に着く。ここから草の中を約1時間、ジグザグ道の急登で汗を流す。やっと平らになるころ造林用の出合所小屋が左手に出てくる。聖沢を渡る吊橋まで巻き道が続き、橋からは尾根道に取り付いて標高をかせぐ。やがて聖岳がよく見える展望台に出ると、そこからは緩やかな道が聖平小屋へ導いてくれる。広々とした平坦地には平成3年に新築された聖平小屋と古い小屋の2棟がある。目的地である聖岳へは、空身で4時間もあれば往復できる。  往復したならば、聖平小屋を後にして上河内岳へ向かう。三角点は縦走路から少し外れているが、静かな山頂だ。茶臼岳の手前を左にとると、横窪沢、ウソッコ沢を経て畑薙大吊橋まで一気の下りである。

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