ホシガラスに会いに、雁峠から甲武信ヶ岳へ。初秋の奥秩父稜線を歩く

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読者レポーターより登山レポをお届けします。ケロケロさんは雁(がん)峠から甲武信ヶ岳(こぶしがたけ、2475m)を縦走。

文・写真=ケロケロさん


今回の旅の目的は「埼玉県内でホシガラスを探せ!」。ホシガラスはハイマツ帯など標高の高い山地にいるカラスの仲間で、黒い体に白い斑点模様が星のようについています。埼玉県内でホシガラスが見られそうな奥秩父の県境の稜線を狙って2泊3日で歩いてきました。

結果から言うと、ホシガラスはいました。しかし、使い慣れないカメラをぶら下げて歩いたものの、残念ながら証拠写真は一枚も撮れずじまい。埼玉のホシガラスは心のアルバムに、秋の気配漂う奥秩父の景色とともに残そうと思います。

ホシガラス
別の場所で撮ったホシガラス

1日目:道の駅みとみ~雁峠〜雁坂小屋

雁坂トンネルを抜けて道の駅みとみで車を下りると、もう雨具を着込むほどに雨が降っていました。翌日の晴れを期待して歩き始めます。20分ほど車道を歩いて新地平(しんちだいら)バス停の少し手前から林道へ。沢沿いの林道はトチの実がたくさん落ちていたり、ススキや野菊が咲いていたりと、すっかり初秋の景色です。近くの対岸からピィピィというシカの大きな声が聞こえました。

ヤマトリカブト
ヤマトリカブトは青紫~白と花色が豊富
ナガエノツルケマン
ナガエノツルケマン
ハナイカリ
ハナイカリ

雨のせいもあってか沢の水量は多く、徒渉地点でもローカットの靴なら浸水必至という深さ。ピンクテープを目印に徒渉を繰り返し、緩やかに登って行きました。ここまで行きあったハイカーは1人だけ。静かな山行です。

雁峠に向かう途中の徒渉地点
林道終点から先は何度か徒渉する

雁峠(がんとうげ)のあたりで風雨がやや強くなりました。風を避けて、峠の手前の木陰で小休止。手早くおにぎりを食べました。

雁峠
気持ちいい草原のはずの雁峠は真っ白

雁峠からは燕山(つばくらやま)、古礼山(これいさん)、水晶山(すいしょうやま)の3つの小ピークを越えます。ササは広く刈ってあって歩きやすく、山梨側の笹原と埼玉側の苔むす原生林が交互に現われて飽きません。でも風雨に気力体力を削られて、雁坂(かりさか)小屋に到着した時にはホッとしました。小屋番さんはずぶ濡れの私に温かいコーヒーを入れてくれ、濡れたものを干すハンガーもたくさん持ってきてくれました。

雁坂小屋の三段ベッド
雁坂小屋の三段ベッド。充分に広くて快適
雁坂小屋で自炊
雁坂小屋は自炊小屋。アルファ米とコーンスープ、昼の残りの煮卵で夕食

濡れた服を着替え、お湯を沸かして夕食を済ませたら、すぐに眠気が訪れました。

2日目:雁坂小屋~雁坂峠〜雁坂嶺~破風山~三宝山~甲武信ヶ岳~甲武信小屋

雁坂小屋から雲取山方面
雁坂小屋を後にする。雲取山方面が朝日に染まっている

翌朝、雨はすっかり上がっていました。パンとコーヒーの朝食をとり、カメラを首にかけて出発。

雁坂峠
日本三大峠の一つ、雁坂峠

雁坂峠は昔、秩父から繭を背負って甲府へ運ぶ道だったそうです。標高2000mの峠道を越えた昔の人々に思いを馳せると、今は日本一長い国道トンネルが下を貫く峠の景色は感慨深いものがあります。

雁坂嶺へ向かう途中の道
雁坂嶺へ向かう。ササとシラビソの立ち枯れの道

雁坂嶺(かりさかれい、2289m)へ登る途中、埼玉側の森の中からホシガラスのやや甲高いガァガァという声が聞こえました。しばらく待ちましたが姿は見えず、残念。

雁坂嶺へ向かう途中の道
秩父側は苔むす原生林

雁坂嶺、破風山(はふさん、2318m)ともに山頂では展望がありませんが、立ち枯れの木立の隙間から富士山が見えていました。破風山のあたりは石灰岩の露岩帯で、濡れて滑りやすく苦労しました。

登山道の大きな岩
大きな岩を乗り越える
西破風山を過ぎたところで展望が開けた
西破風山を過ぎたところで展望が開けた
木賊山への登り返し
木賊山への登り返し。鞍部に破風山避難小屋が見える

破風山の山頂標識を過ぎると展望が開けました。目の前にどんと大きな木賊山(とくさやま、2469m)、その右奥に甲武信ヶ岳(こぶしがたけ、2475m)。見るとずいぶん遠くに感じますが、歩き出せば確実に近づいてくるのが縦走のおもしろさです。標高差240mを一気に下って約300mの登り返し、景色を楽しみながら歩きました。

甲武信小屋付近に咲くヤマハハコ
甲武信小屋付近に咲くヤマハハコ

木賊山の巻き道を進んで甲武信小屋に到着。小屋前のテラスやベンチではたくさんの人が休憩していました。ここで昼食のパンを食べ、三宝山(さんぽうやま、2483m)と甲武信ヶ岳へ向かいました。

埼玉県最高峰である三宝山は、ぽっかりあいた広場に山頂標識と一等三角点があるだけですが、のんびりくつろげる雰囲気があって好きな山頂のひとつです。コケやきのこに癒やされつつ来た道を戻って甲武信ヶ岳山頂へ登ると、大展望が待っていました。

三宝山
三宝山。展望はないが広場になっていて休憩適地
甲武信ヶ岳山頂
甲武信ヶ岳山頂
甲武信ヶ岳山頂から甲武信小屋方面へ少し進むと正面に富士山
山頂から甲武信小屋方面へ少し進むと正面に富士山

甲武信ヶ岳から国師ヶ岳(こくしがたけ)、その先の金峰山(きんぷさん)へと続く奥秩父主脈縦走路を眺めていると、ホシガラスが続けて2羽、足元の樹林から三宝山の方へ飛んでいきました。速すぎてカメラは間に合わず……。

この日は甲武信小屋に宿泊。小屋から見えた夜景は熊谷方面と秩父盆地の灯りが二重線になってきれいでした。

3日目:甲武信小屋~木賊山〜徳ちゃん新道~西沢渓谷~道の駅みとみ

最終日の朝、再び甲武信ヶ岳へ登りましたがガスで真っ白。霧が立ち込める徳ちゃん新道を下山しました。聞きしに勝る急坂、しかも長くて、久しぶりに膝が笑いました。木賊山山頂付近でホシガラスが飛びましたが、やはりカメラは間に合わず。

岩ゴロゴロの急坂
岩ゴロゴロの急坂
背丈をこえるシャクナゲのトンネル
背丈を超えるシャクナゲのトンネル
西沢渓谷
西沢渓谷

ホシガラスの写真はダメでしたが雁坂嶺、甲武信ヶ岳、木賊山の3カ所で確認することができました。埼玉県にもホシガラスはいました!

また今回初めて山梨側から登り、雁坂峠から甲武信ヶ岳へと続く絶景の縦走路を歩くことができ、大満足の3日間でした。

(山行日程=2025年9月13~15日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:2泊3日
コースタイム:【1日目】6時間30分
【2日目】5時間15分
【3日目】5時間15分
行程:【1日目】
雁坂峠入口バス停・・・雁峠・・・雁坂峠・・・雁坂小屋
【2日目】
雁坂小屋・・・雁坂峠・・・雁坂嶺・・・西破風山・・・笹平(破風山)避難小屋・・・巻き道分岐・・・甲武信小屋
【3日目】
甲武信小屋・・・甲武信ヶ岳・・・三宝山・・・甲武信ヶ岳・・・甲武信小屋・・・木賊山・・・合流点・・・徳ちゃん新道入口・・・近丸新道入口・・・西沢渓谷入口・・・雁坂峠入口バス停
総歩行距離:約29,500m
累積標高差:上り 約2,554m 下り 約2,554m
コース定数:68
ケロケロさん(読者レポーター)

ケロケロさん(読者レポーター)

散歩をするように山を歩いて、木々や草花の折々の姿や、生き物との偶然の出会いを楽しみたい。双眼鏡をぶらさげて、関東近郊の山をのんびり歩いています。

この記事に登場する山

埼玉県 山梨県 長野 / 関東山地

甲武信ヶ岳 標高 2,475m

 松平定能篇輯の『甲斐国志』はこの山のことを奥仙丈山と記載している。拳岳と表記する文献もあるようだ。奥秩父連峰を代表する山で、金峰山とともに人気が高い。  甲武信ヶ岳へ登るには千曲川の源流をたどるのが一番楽である。毛木平からは奥秩父らしい登山道をたどることができる。  下山路としては北へ延びる山稜をたどって十文字峠から栃本へ下って行くか、南へ戸渡尾根を下って広瀬へ出る方法がある。あるいは山稜を西へ歩き、大弛小屋に泊まり、国師ヶ岳、金峰山を踏んでから金山平へ下るのも試みたいが、ロングコースとなる。  甲武信ヶ岳からの富士山の展望は定評のある風景として知られている。  コースタイムは信濃川上駅から梓山、毛木平を経て甲武信小屋に泊まり、戸渡尾根、広瀬まで約11時間。

埼玉県 長野県 / 関東山地

三宝山 標高 2,483m

甲武信ヶ岳の南側の尾根にある山。埼玉県の最高峰だが、山頂からの眺望はなく、三宝山目当ての登山者は少ない。山頂近くの三宝岩からは展望がある。 甲武信ヶ岳までは約1時間で、甲武信ヶ岳登山の際に通過する山という位置づけとなっている。

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