4歳の娘と富士登山するための練習登山の進め方、コース選びのポイント

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「いきいき登山ガイド・ヤッホー!! さん」こと芳須勲ガイドが、この夏、4歳の娘と富士登山に挑戦。そのために準備したこと、考えたこと――。多くのファミリー登山者に、参考になるノウハウが満載の経験談。今回は練習登山編をお届けする。

 

登山ガイドの私に、44歳という遅い年齢で待望の「子供」が生まれ、ただただ可愛がって、甘やかして育ててしまったので、まさか4歳で一緒に富士山に登れるなんて考えてもいませんでした。

今年、こうやって4歳の娘と剣ヶ峰に立ち、無事下山できたことは夢のようです。一度も抱っこなどせず、すべて自分の足で、笑顔のまま登りきった娘の姿。私にとって、生涯忘れることのできない「最高の思い出」となりました。

今回、登山ガイド・健康運動指導士の目線から見て、装備(持って行ってよかったもの・持っていけばよかったと思うもの)、練習登山の進め方、コース選び、などたくさんの発見がありました。いつか親子で富士登山にチャレンジしたいという方は、ご参考にして頂ければと思います。

★子供は何歳から富士山に登れる? 4歳の娘と富士登山に行ってわかったこと・感じたこと

★子供の「登山靴」選びは何を基準に? 4歳の娘と富士登山に行ってわかったこと・感じたこと

2017年、娘が3歳の夏休みの際に富士山のふもとにキャンプに行った時に、「お父さんはあの山を、お仕事で登っているんだよ」と教えたところ、「私も富士山に登りたい!!」と言うようになりました。私は幼稚園児には無理だろうと考えていたので、数年かけて練習し、小学生になってから富士山に登ることを目標として、スローペースで練習を始めたつもりだったのですが、子供の成長はとても早く、きちんと練習登山をすれば幼稚園児でも登れるということを実感しました。

2017年9月~2018年4月までの8ヶ月間は、近所にある標高50mの展望台まで、約3kmのハイキングコースを、週に一回のペースで登りました。体力的にきついコースではありませんが、毎週必ず行うことで、少しずつ体力や根気がついていきました。

ただむやみに山歩きをさせるのではなく、富士登山を成功させるために、私が心がけた練習時のポイントをいくつかご紹介します。

 

ポイント1. ぜったいに急かさない

山歩きを楽しむことを目的として、自然と触れ合う時間を大切にしました。ハート形の葉っぱを見つけたり、ミミズやカエルを見つけたり、どれだけ立ち止まって道草を食っても急かしませんでした。子供を大人のコースタイム通りに歩かせるのではなく、道草の時間を含めて、コースタイムの何倍くらいかかるのかを毎回記録して、次回のコース選びの参考にしました。

 

ポイント2. わざわざ休憩しない。子供に「疲れた?」と訊ねない

不思議に思う人もいるかもしれませんが、これには理由があります。子供に「そろそろ疲れた? 休憩しようか?」と言ってしまうと、登山=疲れる=休憩するという概念を植え付けてしまい、ちょっと登っただけですぐに「疲れた」「休憩したい」と言うようになります。これを防ぐため、子供の様子を見ながらこまめに立ち止まり、「水を飲む?」や「おやつ食べる?」といった声掛けをしました。


この結果、登山ではこまめに水を飲む・行動食を食べるという習慣が身につき、富士登山でも「疲れた」「休憩したい」という言葉を一度も口に出すことはなく、ハァハァと息が荒くなるような場所を越えると、すぐに「水を飲みたい」と伝えるようになりました。このおかげで登山中、充分に水分を摂取することができたので、高山病の予防につながったと思います。

 

ポイント3. 飽きさせない

ガイドとしての経験上、子供が山登りの途中で「疲れた~」というのは、本当に疲れたのではなく、ただ「飽きた」だけのことがほとんどです。子供はそれまで疲れた表情をしていても、クワガタを見つけただけで一気にテンションが上がり元気になるものです。

自然体験だけで飽きさせないことが理想かもしれませんが、子供の興味ある話題で飽きさせないようにすることも大切だと思います。私の場合、休みの日には娘が大好きなアニメ番組を録画して何度も観て記憶し、山を登りながら一緒にアニメの主題歌を歌ったり、「ごっこ遊び」に付き合ったりして飽きさせないようにしました。

 

ポイント4. トイレでなくても用を足せるようにする

水分をこまめに摂取していれば、トイレに行きたくなることもありますが、山中ではトイレが全く無かったり、次のトイレまで2時間以上かかったりということがざらにあります。

こういった場合は携帯トイレを使いますが、普段、洋式トイレしか使うことのない子供にとっては至難の業です。日頃から携帯トイレで用を足す練習をしておく必要があります。

 

4回行った「練習登山」の実際

2018年5月からは、週一回のハイキングに加え、月に一回の練習登山を始め、合計4回登りました。その実際を紹介いたします。

5月26日 金時山(1,212m)

はじめての本格的な山歩きでは、富士山が良く見え、金太郎伝説が娘の興味を引きそうな山ということで金時山を選びました。通常のコースタイムの2倍の時間がかかりましたが、疲れた様子もなく、簡単に登ってしまったという印象でした。

翌日も筋肉痛などを訴えることなく、普段通り元気に幼稚園に行きました。この時、初めて「今年、富士山に登れるかもしれない」と感じました。
 

6月9日 金冠山(816m)~達磨山(982m)

2座目に選んだ金冠山・達磨山は標高こそ高くありませんが、約9kmのロングコースを選ぶことで、長距離・長時間を歩いた時の娘の様子を観察しました。

6月に入ると一気に気温が高くなって熱中症の危険も高まるため、うちわを持っていきました。

大人なら風を感じる稜線でも、子供の身長では草木に防がれて風が届かないこともあります。暑い時期の親子登山にうちわは必需品です。

 

7月10日 筑波山(下りはケーブルカーを利用)

3座目に選んだのは、約600mの標高差を登る筑波山白雲橋コースです。富士山では1日に600~700m程度登ることになるので、ちょうどよい目安になると考えました。

岩場が多く4歳の身長ではかなり苦戦している様子でした。コースタイムで比較すると、一般的な登山道ではコースタイムの約1.5倍で登れるのに対し、岩場では2.5倍くらいの時間がかかりました。このことから、富士登山では比較的岩場の少ないプリンスルートで登ることに決めました。
 

7月14日 富士山須山口ルート1合目~5合目(下りはバスを利用)

プリンスルートは砂の多いコースなので、砂歩きを練習するために、富士山須山口ルート1合目~5合目で最後の練習登山を行ないました。前回の筑波山から数日しか経っていなかったのですが、娘の体力はすでに回復していて全く問題ありませんでした。

5合目まで登る様子を観察することで、高山病になりやすいかどうかを判断する目安になると考え、パルスオキシメーターを持参して血中酸素飽和度(SpO2)を測定しましたが、高山病のない大人と同程度の数値でした。

砂歩きには多少苦戦していましたが、岩場歩きに比べて相性が良く、コースタイムの1.5倍の時間で登ることができました。私の予想よりも早く登れてしまったので、下山バスの時間調整のために6合目まで登ってみました。それでも娘の体力は余っていたので、天候さえよければ100%富士山に登頂できると確信しました。

 

以上の練習登山を終え、8月1日プリンスルートで登りました。4歳でもすべて自分の足で登って剣ヶ峰に立つことができました。

なお、富士登山で娘が実際に歩いたタイムは以下になります。

初日(2018年8月1日)

富士宮五合目(2400m)→宝永山(2693m)→わらじ館(3090m)
4.2km(高低差、登り690m)
登り5時間57分

二日目(2018年8月2日)

わらじ館(3090m)→剣ヶ峰(3776m)→わらじ館(3090m)
5.5km(高低差、登り686m/下り686m)
登り5時間51分、下り3時間12分

三日目2018年(8月3日)

わらじ館(3090m)→宝永山(2693m)→御殿場口新五合目(1440m)
6.6km(高低差、下り1650m)
下り3時間44分


この1年間の練習登山を振り返ってみると、以前に比べ、娘と一緒に過ごす時間が長くなったように思います。山に一緒に行くだけでなく、お母さんがいない環境でも寝られるよう、父娘二人だけでキャンプに行きました。「船酔い」という症状を正確に親に伝える訓練として、ボート釣りにも行きました。雨の休日には、共通の話題を持つため、娘の大好きなアニメを一緒に観ました。もちろん練習登山の帰りには、毎回、温泉に入った後、美味しい食事を楽しみました。

今回の富士登山は、私にとって娘との「絆」を深めるものとなったのは言うまでもありません。そして、娘にとっては「頑張れば何でも出来る」という自信につながったようです。

これからもたくさんの山を家族で登っていくつもりです。日々成長する娘に負けないよう、私も体力づくり&メンテナンスを続けて、いつまでも元気に山登りを楽しみたいと思います。

 

※本記事は、いきいき登山ガイド・ヤッホー!!さん。の「山ごはん」のブログより、許可を得て転載(一部編集)させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらからご確認ください。

プロフィール

いきいき登山ガイド・ヤッホー!!さん

本名:芳須勲。横浜市金沢区在住。管理栄養士・健康運動指導士・登山ガイドの資格を持ち、中高年登山者の健康づくりを、栄養と運動の両面からサポート。
山ごはん・アウトドア料理を得意とし、災害時における野外炊飯法などの講習会も各地で行なっている。
著書に山登りABC「登山ボディのつくり方」(山と溪谷社)、山登りABC「もっと登れる山の食料計画」(山と溪谷社)など。
⇒ホームページInstagram

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