登山靴のプロに聞く! 長く使うための登山靴の修理のタイミングとメンテナンスの知識

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安全な登山楽しむときに欠かせない道具といえば、登山靴。歩きを支えてくれる重要なパートナーだからこそ、日頃のケアも怠らないようにしたいもの。そこで、Mt.石井スポーツの東京・市ヶ谷にある本社内にある製靴工場の中真人工場長に、修理やメンテナンスについて教えてもらった。

取材/文/構成 辻 歌


登山靴のプロが常駐する「登山靴技術研究所」

ライターT: さっそく伺いますが、工場の表に「登山靴技術研究所」という看板が掲げられていますね。

中さん: 私が入社した42年前には、すでに以前の製靴工場に掛かっていたものです。この看板には、弊社のルーツが関係しているんです。
Mt.石井スポーツは、今では「登山用品全般を取り扱う小売店」というイメージが強いかもしれませんが、もとは紳士靴の製造・販売からスタートした会社でした。紳士靴を作っているうちに、お客様から野球、ラグビー、サッカーなどのスポーツ靴を頼まれるようになりました。そのうち、スポーツシューズのほうがニーズが高いということもあり、登山靴やスキー靴を専門に手がけるようになったそうです。すると「登山用のザックは置かないの?」と聞かれ、今では登山用品を総合的に・・・というわけです。

ライターT: 工場に「研究所」と名付けられた意味は?

中さん: 当初は、紳士靴のことは分かっても、登山靴のことを知らないスタッフばかりでした。買ってきた輸入靴をバラして、登山靴はどのように作ればいいか手探りで研究していたから「登山靴技術研究所」と名付けたそうです。
そういう原点があるから、今でもこの工場はMt.石井スポーツの登山靴の開発・研究にとって欠かせない場所となっています。小売店が登山靴専門の自社工場を持っているのは、業界中を探してもかなり少ないと思いますよ。

株式会社ICI石井スポーツの本社内にある製靴工場(登山靴技術研究所)

 

「Mt.石井スポーツ」がオリジナルで開発・製作しているハンドメイド登山靴の歴代モデル

 

きちんと修理して、長く付き合いたい登山靴

ライターT: こちらでは現在、登山靴の修理の依頼が多いと聞きました。

中さん: 今でもオリジナルの靴も製作しているんですが、最近では特に、お客様から預かった靴の修理をすることが大切な仕事になってきています。弊社では「買っていただいたら最後」ではなく、長く大事にしてもらいたいと考えていることもあります。

ライターT: 登山靴は結構高い買い物だから、長くい使いたいですからね。こちらには、修理待ちの靴がたくさん並んでいますね。

修理を待つ登山靴が、工場内には所狭しと並んでいる

中さん: 平均すると1週間に30足、多いときなら60足くらいが全国のお店から届いています。「使い捨て」ではなく修理してでも履きたいと思われている、大切にされている靴が多いようで嬉しいです。

ライターT: ここでは、どういった修理ができるのですか?

中さん: 圧倒的に多いのは、ソール(靴底)の張り替えです。あとは、ほつれ直しや、傷んだパーツの交換などもあります。どれだけ難易度が高くても、大抵のことなら受けていますよ。登山靴で困ったこと、気になったことあれば、店頭で気軽に相談してくださいね。

ライターT: ちなみに、ほかのお店で買った靴の修理も頼めるのでしょうか?

中さん: 当然、引き受けますよ。むしろ、弊社で扱っていないブランドの靴なら勉強になるので、ありがたいくらいです。よその店で買ったからといって、修理代金を高く取ることもありませんよ(笑)。

 

歩きづらいすり減りを感じたらソールの張り替えどき

ライターT: 一番多いというソールの張り替えですが、どういう状態になったら替え時ですか?

中さん: 靴は履いているうちにソールがすり減ってきますよね。片側だけがすり減って歩きづらいときや、妙に滑るようになったときが、おすすめする交換のタイミングです。
もっとギリギリまで使いたい、というならなら(笑)、靴底部分をよく見てください。すると、靴のソールは2段構造(アウトソールとミッドソール)になっているのですが、地面に接するアウトソールが減ってゼロになってしまう直前が張り替え時です(下部写真参照)。靴の本体側にあるミッドソールまですり減ってしまうと、本体に影響が出てきがちです。こうなると、修理はできるけれど値段が高くついてしまいます。

ソールがすり減った状態の登山靴。写真のように小さな穴があいても使い続けると、本体もすり減ってしまうので、穴があく直前には修理を検討しよう

アウトソールとミッドソールの境目の部分。ミッドソールまですり減ってしまう前に修理を検討しよう


ライターT: ソールが劣化すると、歩き方にも影響がありそうですね。

中さん: 普段使っているのだから、ある意味、その人にとっては一番歩きやすい状態なのかもしれませんが、靴のことを考えるとグリップは悪くなってきてしまいますね。

 

修理できないのは「パーツ不足」と「素材劣化」

ライターT: ソール張り替え以外にも、いろんな修理品が並んでいますね。

中さん: 本体内側の革の部分が劣化してきたものを張り替えたり、外側に穴があいたものをふさいだりもできます。また、金具などのパーツが取れたものも、大体は直せます。

ボロボロになってしまった内側のレザー。この後、張り替え作業を行う

 

生地が破れてしまったところは、同じような素材を探して直す

ライターT: 修理できないのは、どんなものですか?

中さん: 弊社で取り扱いのない輸入メーカーの場合、ソールを海外から取り寄せることになるし、そもそも問い合わせても在庫がないこともあります。最近はどのメーカーもオリジナルのパターンのソールを採用しているから、汎用性がないんです。そんな場合も、私たちは簡単には諦めずに最善を尽くしますが、時間と費用がかかりすぎることがあるので・・・。パーツ欠けなどの修理も、同じ理由で難しいケースがあります。
あと、どうにもできないことがあるのが、素材自体の劣化です。近頃はポリウレタンなど経年劣化する素材が使われていることがあります。交換できるパーツなら可能ですが、本体側だと修理はできないことが多いですね。

 

修理できないものあるとはいえ「“できる/できない”を自分で決めないで。専門家がいるんだから、私たちに相談してもらえれば」という中さん。
次回は、実際に現場でどのような修理を行っているのかをレポートする。

 

プロフィール

中 真人

Mt.石井スポーツの本社内にある製靴工場(登山靴技術研究所)の工場長。学生時代、石井スポーツが発行した山道具カタログに載っていた同工場の記事を見て入社を決意。以来約42年間、登山靴職人として製造と修理を手がける「登山靴のプロ」。

Mt.石井スポーツ 製靴工場

「Mt.石井スポーツ」オリジナルのハンドメイド靴の製作と、登山靴の修理を行う、通称「登山靴技術研究所」。店舗へ出張しての「登山靴相談会」を不定期で開催している。
Mt.石井スポーツ

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