登山用アンダーウェアの選び方 2 -メリノウール-

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登山の服装で、地味なアイテムながら重要度が高いのがアンダーウェア。山に適した機能性をもたないものを選ぶと危険を伴うことがあり、逆にきちんと使いこなせば山での快適性がぐんと向上する。このようにレイヤリングの肝となる「登山用アンダーウェアの選び方」について、前回の「重要性と化繊のメリット」に引き続き、さかいやスポーツ 高橋さんに聞いた。

取材/文=辻 歌

 

メリノウールはオールシーズン重宝

登山用アンダーウェアが多彩に揃う、さかいやスポーツ ウェア館


ライターT:前回の「登山用アンダーウェアの選び方 1」では、山におけるアンダーウェアの重要性と化学繊維(化繊)のメリットについてうかがいました。そこで高橋さんがおすすめしていた素材が、ポリエステルなどの化繊とメリノウール。今回は、メリノウールについて教えてください。

高橋さん:前回もお話ししましたが、登山の服装は、体の冷えを防ぐために「濡らさない」ことがとても重要! だから、「雨で濡らさないための雨具」と「汗で濡らさないためのアンダーウェア」が必需品なのです。

ライターT:そこで、汗をかいてもよく吸収して、すばやく乾かしてくれる素材がおすすめということでしたね。

高橋さん:その一つが、吸水速乾性をもたせたポリエステルなどの化繊。それとは別に、速乾ではありませんが身体を冷やしにくい素材があります。それが、天然素材ながら優れた機能性をもつメリノウールです。化繊にありがちな肌にまとわりつく感じが苦手な方や、汗をかいた後の臭いが気になるという方には、メリノウールがおすすめです。

ライターT:「ウール」というと「寒いときに活躍する素材」という印象をもつ方もいますね。

高橋さん:保温性があるのはもちろんですが、生地の厚みによってさまざまな温度環境に対応しやすいのがウールの特徴。「夏に着ると暑い!」と思われがちですが、薄手を選べば基本的には夏場でも心地よく着用できる素材です。

 

天然の高機能素材・メリノウールの特徴

キャプション:山ではもちろん、普段の仕事着にもメリノウールを愛用するという高橋さん


ライターT:では、メリノウールの特徴は?

高橋さん:メリノウールとは、メリノ種の羊の毛のこと。とても繊細で長い毛をもつため肌に触れたときのチクチクした感じが少なく、素肌の上に1枚で着用しても着心地がよいため、アンダーウェアに適しています。

ライターT:登山用アンダーウェアには吸水速乾性が重要ということでしたが、メリノウールにもその機能があるのでしょうか。

高橋さん:メリノウールは、「吸湿性」に優れた素材。人の体は熱をもったときに皮膚呼吸で湿気を出していて、その湿気が汗になる前にメリノウールの繊維が吸収してくれます。「吸水」の場合は水滴状の汗になってから吸い取るので、汗がしたたる前に「吸湿」をしっかりしてくれると快適性が高いといえます。

ライターT:「速乾性」については、どうでしょう?

高橋さん:乾きの速さに関しては、ポリエステルに比べて時間がかかります。ただし、メリノウールには「濡れても冷えを感じにくい」という特性が。繊維の組織に吸湿・吸水することで、肌に触れる部分が冷たく感じにくく、体温を維持しやすいのです。

ライターT:乾きは多少遅くても、寒くならなければOKということですね!

高橋さん:「速乾」といえなくても、真夏の低山や運動量の多いアクティビティなど汗をたっぷりかくようなシーンでなければ、選ぶ厚さ次第でメリノウールは通年使える! ・・・と僕自信の経験上、実感しています。

ライターT:メリノウールは、登山で気になる「臭い対策」もできますよね。

高橋さん:メリノウールには羊毛が備えている天然の抗菌作用があって、防臭できます。何日か着続けても臭いにくいので、長期縦走のアンダーウェアとしてもおすすめです。

ライターT:化繊に比べて速乾性が劣るほかに、デメリットはあるのでしょうか?

高橋さん:洗濯や引き裂きに対する耐久性がやや低いことと、値段が化繊より高めになることでしょうか。ただ、なんといっても天然素材ならではの着心地のよさがあるので、登山以外の日常生活でも活躍度の高いアンダーウェアといえます。

 

厚さの目安とおすすめのアンダーウェア

ライターT:メリノウールのアンダーウェアはさまざまな厚みで作られていますが、選ぶ目安は?

高橋さん:メリノウールを使った登山用アンダーウェアの場合、生地の「目付」が表記されていることが多いです。「目付」とは、生地の1平方メートルあたりの重量のことで、「g/m2」などの単位で表現されます。その「目付」が、厚みの目安に。ブランドによって多少異なりますが、薄手タイプは150 g/m2前後、中厚手タイプが200 g/m2前後、厚手タイプが250~260 g/m2と分類されています。

ライターT:具体的には、どんなシーンでどの厚みを選ぶといいですか?

高橋さん:シーズンやアクティビティによる選び方の基本は、化繊のアンダーウェアとほぼ同じ。薄手タイプなら、夏場やよく汗をかく場合。また、機能性の優れたアウターや中間着を携行している場合は、薄手タイプでも幅広いシーンに対応できることがあります。中厚手タイプは、汎用性が高い厚み。春秋シーズンの登山にはもちろん、雪山登山にも重宝します。寒がりな方は、中厚手タイプより厚手タイプを選ぶと安心。厳冬期の雪山登山にスキーやスノーボード、冬場の観測などあまり運動量がないシーンで活躍してくれるでしょう。

ライターT:薄手タイプと中厚手タイプで、おすすめのアンダーウェアを紹介してください。

薄手タイプのおすすめアイテム

その名にある通り、メリノウールのアイテムに特化したブランド。生地重量が150g/m2の半袖タイプで、春夏秋の3シーズン活躍するアイテムです。ナイロン芯にメリノウールを巻き付けた糸を使用しているので、ウール100%に比べて耐久性に優れています。

スマートウール「メンズ メリノ150ベースレイヤーパターンショートスリーブ」

サイズ
XS、S、M、L
素材
ウール87%、ナイロン13%(150g/m2)
価格
本体価格8,300円(税別)

 

中厚手タイプのおすすめアイテム

ニュージーランドの契約農家で育てられたメリノウールを使用。ウール100%のため、素材がもつ機能性をしっかり発揮できます。生地重量が200g/m2の中厚手タイプは程よい保温性もあり、夏以外のシーズンに幅広く使いやすいのが魅力。普段着にも合わせやすい1着です。

アイスブレーカー「200オアシス ロングスリーブ クルー」

サイズ
XS、S、M、L
素材
ウール100%(200g/m2)
価格
本体価格9,800円(税別)

 

サイズ選びのポイントとTシャツとの違い

ライターT:サイズ選びで気をつけたほうがいいことはありますか?

高橋さん:アンダーウェアは、化繊やメリノウールといった素材にかかわらず、肩まわりなどが窮屈に感じない程度にぴったりフィットするものを選んでください。そのほうが汗をよく吸ってくれ、暖かくしたい場合も効率的にできるなど、本来の機能性を発揮しやすくなります。

ライターT:アンダーウェアとTシャツやカットソーなどのシャツは、どう違うのでしょうか?

高橋さん:アンダーウェアとシャツは、吸水速乾性のあるものであれば、基本的にはどちらの用途でも使えます。ただし、アンダーウェアに分類されているものは、あくまで下着として作られているということ。着心地を重視して肌あたりを優しく仕上げ、体にフィットしやすいサイジングになっているケースが多いです。肌触りがいいぶん生地の表面がやや弱く、バックパックなどと擦れたときの耐久性が少し低いというデメリットもあります。対してシャツは、1枚で着ることも想定しているから、そこまで体にフィットしたシルエットではありません。また、生地にピリング(毛玉)が起こりにくい加工を施しているなど、耐久性が強く作られているものもあります。

ライターT:使い分けは、どうすれはいいですか?

高橋さん:夏の低山なら、シャツだけ持っていれば対応できることも。標高の高い山や寒いシーズンはより確実に体を守る必要があるので、アンダーウェアとして作られているアイテムを着たほうがいいでしょう。状況に合わせてアンダーウェアにシャツを重ね着するのもおすすめです。

次回は「登山用アンダーウェアの選び方 3」として、汗冷え対策などで注目されている“メッシュアンダーウェア”と、アンダーウェアのお手入れ方法について紹介します。

 

プロフィール

高橋 典孝(さかいやスポーツ ウェア館)

山の世界で働いて20年のベテラン。ウェアに関する知識はオタク級だが山道具も大好き!!
ゆったりオートキャンプからガッツリ登山まで何でもこなすが特に最近は、トレイルランニング、テンカラ釣りに没頭中。

さかいやスポーツ

創業以来、約60年にわたり神田神保町で全国の登山家やアウトドアマンに愛されている登山用品店。ウェア、シューズ、ギアなど品目別の専門館を6店舗展開。ウェアや道具に詳しいスタッフが丁寧に解説してくれるので、ビギナーでも安心。

住所/東京都千代田区神田神保町2-48
TEL/03-3262-0432
営業時間/11:00~20:00
アクセス/神保町駅A4出口より徒歩6分、JR中央・総武線水道橋駅東口より徒歩8分

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