北アルプス入門にオススメの燕岳。急登、景観、高山植物、山小屋、アルプスらしさが詰まった場所

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8月の声を聞くと、いよいよアルプスでの夏山シーズンは本格的な幕開けとなる。「初めて日本アルプスに行くなら?」と聞かれれば、まず真っ先に挙がる場所が北アルプス・燕岳。汗を流しながら急登を登り、アルプスらしい景観と高山植物を堪能、居心地の良い山小屋で過ごし、行きや帰りは温泉も堪能――。初めてのアルプスを楽しむには、多くの条件が揃っている。

燕岳は花崗岩と花崗岩砂礫で形成された山でハイマツの緑がコントラストとなっている。この日は東側から雲が押し寄せて流動的な姿となっていた(写真=白井源三)

 

暑さの厳しい夏は、やはりアルプスの山々が魅力です。北や南アルプスの高山を想い浮かべると――、稜線を吹き抜ける涼風、雪に耐えて一斉に咲き誇る高峰の花・高山植物に癒される魅力・・・、アルプスにしかない魅力が浮かんできて、思いはアプルスへと向かいます。

数ある日本アルプスの中でも、アルプス入門のポピュラーな山を挙げるなら、やはり北アルプス・燕岳でしょう。表銀座コースの始点ともなっている山で、縦走する登山者の多くが燕山荘に宿泊して翌朝は日の出を待つ、そんな風景は夏の北アルプスの風物詩と言えます。

燕山荘のスタッフが長年の保護活動で群落となった高山植物の女王・コマクサが稜線の風に吹かれている(写真=白井源三)


大糸線の穂高駅で下車し、ミニバスで一気に標高1,300mの中房温泉がある登山口に到着。燕岳へと向かう合戦尾根は急登で厳しいですが、国民宿舎有明温泉や文政期開湯とされる中房温泉に一泊して、翌朝燕岳を目指せば余裕のある登山ができます。今回は、温泉宿に前日泊して、北アルプスを堪能するプランを紹介します。

北アルプス・燕岳往復

■モデルコース
【1日目】
中房・燕岳登山口(宿泊)
【2日目】
中房・燕岳登山口・・・第2ベンチ・・・合戦小屋・・・燕山荘・・・燕岳・・・燕山荘(宿泊) 行程/約5時間
【3日目】
燕山荘・・・合戦小屋・・・第2ベンチ・・・中房・燕岳登山口 行程/約3時間

⇒ コースタイム付きの登山地図を見る

 

北アルプス三大急登を越えて、奇岩のオブジェが美しい燕岳へ

遅かった梅雨開けが告げられた2019年7月29日、電車とバスを乗り継いで登山口となる中房温泉に到着。ゆっくりと温泉宿を堪能し、翌朝に燕岳へと向かいました。

登山道となる合戦尾根は、登山口からいきなり根や岩を踏んでの急登からの登山開始となります。厳しい登りに体が慣れてきたころに第1ベンチに着きます。さらに30分程の登りを経ると第2ベンチに到着です。

合戦尾根は、ここから随所にベンチが置かれた台地で休息を取ることができます。急登を超え、第3ベンチ、富士見ベンチを過ぎながら登っていくと、合戦小屋へとたどり着きます。

夏の合戦小屋のいちばんの楽しみは冷えたスイカが売られていること。休憩地上部で冷たいスイカを食べながら見上げると、燕山荘へと荷揚げが行われているヘリコプター姿が見えます。登山口からここまで約3時間余り、行程の3分の2の高度を上げたことになります。

休憩後は、花崗岩が現れた登山路をさらに詰めていくと、樹林越しに大天井岳への稜線や槍ヶ岳が望めるようになります。ダケカンバ(岳樺)が点在する場所を過ぎるといよいよ森林限界、一挙に広がる北アルプスらしい景色に、周囲からは思わず歓声が上がります。

長く苦しかった登りが終わり、森林限界を抜けて青空の下に燕山荘から燕岳の稜線が延びる。感動の一瞬(写真=白井源三)


稜線へと続く登山道の先には今夜の宿の燕山荘も見えてきます。山荘を目指して燕岳への尾根の下部を進む登山道は、ゴゼンタチバナ、ミヤマキンポウゲなどの高山植物に癒されながらの最後の登りとなります。そしていよいよ小屋の立つ稜線へと立つと、槍ヶ岳や常念岳へ縦走の分岐、大天井岳や谷を隔てた上部に槍ヶ岳から穂高の峰々が延びて圧巻の展望が開けます。

山荘に手続きをすませて、寝場所を確保したら、空身で約30分の燕岳山頂を往復してみましょう。花崗岩と花崗岩砂礫で構成された山で、砂礫にはピング色の高山植物の女王、コマクサが点在して足が止まってしまいます。イルカ岩、メガネ岩などの奇岩のオブジェを眺めながら狭い燕岳山頂へ到着です。

燕岳山頂までの花崗岩のオブジェを巡ると、三角形のメガネ岩を仰ぎながら通過(写真=白井源三)

この日の深夜は濃霧となったものの、時折、上空が切れて燕山荘の上部には夏の星座が広がっていた(写真=白井源三)


コマクサ以外にも、燕岳周辺では種類の違った高山植物がこれから次々と開花して夏山を謳歌する時期到来です。燕岳からは、そのまま登ってきた道を下っても良いですが、時間があれば表銀座を縦走してみるのが良いでしょう。夏の間、憧れのアルプスをはじめて堪能するという場合、燕岳は適した場所と言えるでしょう。

翌朝、延々と続く北アルプス・表銀座の稜線を望む。常念岳や槍ヶ岳を目指した縦走が始まる(写真=白井源三)

 

プロフィール

白井源三

神奈川県相模原市生まれ。1989年ヒンドゥークシュ登山隊に参加、ゴッラゾム5100mに登頂。2005~2007年に南米取材。アコンカグアBCとインカ道をトレッキング。著書に『戸隠逍遙』(クレオ刊)、『北丹沢讃歌』(耕出版刊)、『冬の近郊低山案内』(山と溪谷社・共著)、『分県登山ガイド 神奈川県の山』(山と溪谷社・共著)など。丹沢の写真展を多数開催。

今がいい山、棚からひとつかみ

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