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遭難事故防止の講演会で気付いた、人から人へと直接伝わる言葉の力と、感動に伴う記憶の深さ

どうしたら山で事故に遭うリスクを軽減できるか――
たしなみ 2020年01月06日

羽根田治さんによる「事例から学ぶ山のリスクと事故回避策」という講演を聞く機会がありました。近年に発生してしまった例から、その原因や私たちがどんなことに気をつければいいのかを学ぶという趣旨でしたが、開場前の時間から列に並び、終了後も熱心に講師に語りかける人たちの姿を見て、「人から人へと直接伝わる言葉」の力、そして、画像や映像を見ての感動を伴った記憶は、深く心に残り続けることを感じました。

 

羽根田さんの講演風景。日本山岳救助機構は定期的にこうした機会を設けている


先日(12月2日)の夜、日本山岳救助機構(jRO)の会員向け講演会で、羽根田治さんのお話をうかがう機会がありました。

★日本山岳救助機構(jRO)/羽根田治の安全登山通信

フリーライターの羽根田さんは、「ドキュメント道迷い遭難」「ドキュメント単独行遭難」「山岳遭難の教訓」「人を襲うクマ」(いずれも山と溪谷社刊)ほか、沢山の山の事故に関する本を出されています。著作や雑誌記事を通じて知名度も高いため、この日も開場前から多くの人が、東京・四谷の会場につめかけました。自分自身の61回目の誕生日の夜ではありましたが、せっかくの機会を逃すわけにはいかないと聴講に向かいました。

数々の著作は今もヤマケイ文庫などで読むことができる。これまでに何人の人からお話を聞いて来たのだろうか


演題は「事例から学ぶ山のリスクと事故回避策」というもので、「“STOP THE遭難事故”増え続ける遭難者のひとりにならないために」という副題のとおり、近年、発生してしまった例を示し、各々の原因の分析や得られる教訓からのお話でした。

私は元々、人のお話をうかがうのが大好きで、若い頃から、登山雑誌を買うと催し物案内コーナーを確認して「今夜はどこに出かけて、だれのお話を聞こうか」と、楽しみに出かけていました。

その内容は、遭難対策やレスキュー講習会や雪崩の話などを通じて知識や技術を養うこともあれば、海外で登山や探検をして来た人の話に「いつかは自分も」とわくわくして聞き入ることもありました。はたまた、来日した著名登山家の講演会、山小屋のご主人のお話、自然保護や環境保全に関する話題などなど、勤め帰りは、だいたい山の講演会やシンポジウム等に足を運んできました。

そこでは、新しい知識を得られるばかりでなく、同じ志を持つ人との出会いもあります。例えば、「平和と登山のあり方懇話会」という集いに参加させてもらった際には、「世界の平和が保たれてこそ、登山もできるんだ」といった当たり前のことに気づかされたりもしました。

毎月1回、海外の山々や辺境の地を歩かれて来た人を招いて話をうかがう集まりでは、最初はただ聞かせていただく側でしたが、毎月通ううちに事務局メンバーの1人になり、企画や運営にも長く携わって来たりもしました。

最近は残念なことに、「山に連れていってもらえる機会ならいいけれど、それ以外のことは時間がもったいない」と考えるような人も多くなってしまったと聞きます。もちろん、本や雑誌や映像を通じて学べることも多々あります。しかし、人が実際に体験したり伝えたいと思っているお話を、会場に足を運び、講師の方の表情や声の抑揚、集まった方々の熱気や反応なども直接肌で感じながらお聞きできることは、本当に貴重なものだと感じます。

私は東京都内在住ですので、催しも多い恵まれた環境にいたのかも知れません。地域にお住まいの人には、こうした機会は決して多くはないと思いますが、各地を巡回しての講演や、地域の山岳団体や登山用具店等が主催する催しもありますので、山で事故に遭うリスクを軽減するためにも、機会を探して、ぜひ出かけていただければと思います。

 

「危険なことを危険だと考えられない」という言葉の重み

さて、今回の羽根田さんのお話についてお話します。長い間、取材を通じて事故に遭われてしまった多くの方々から、あるいは救助や捜索に当たられた救助隊・警備隊の人たちから、直接お会いして話をうかがって来た立場にいる羽根田さんだからこそ語れる言葉には説得力があります。

実際の遭難救助現場でのリアルな映像等を上映しながらの解説は、その緊迫した現場の音声からも、強く心に残るものが多々ありました。

そうしたなかで、私が特に印象深かったのは、「登山は危険と背中合わせであることを認識することです」という言葉でした。「危険が最も危険なのは、その危険を察知できないこと。問題なのは、なにが危険なのかわからない、危険をシュミレーションできない、危険なことを危険だと考えられない、ということなのです」と、危険の認識について語りました。

なるほど、そのとおりですよね。また、そうした箇所や状況の写真とともに語られる「想像力を働かせながら行動する」ということにも強く頷かされました。「この落ち葉に足を滑らせたら」、「上の人が石を落としたら」、「このままガスに巻かれて視界がきかなくなってしまったら」といった問いかけには、ひとつひとつの確実な動作や、少し先をイメージしながらの慎重な判断の大切さを感じました。

最後には、長く穂高岳山荘の支配人を務め、遭難救助の現場でも活躍なさって来た宮田八郎さんが、救助要請のあった登山者を探し出し、無事に小屋に退避するまでの映像を見せていただきました。

そうした宮田さんの行動や思いが記された「穂高小屋番レスキュー日記」(山と溪谷社刊)のことも紹介されましたが、その宮田さん自身も、2018年の4月、カヤックをしていた南伊豆の海で還らぬ人になってしまいました。

風雪が吹き付けるなか、行動できなくなってしまった人に、「さあ、助かるためには、がんばって歩いてもらうしかないよ」という励ましの言葉。ひげが濃くちょっと強面な顔の宮田さんが発する優しい励ましの声。その声は私も何度も聞いてきたものでした。

事故はどんな人にも起こりうる。もちろんこの私自身にも・・・。そう、遭難は「自分ごと」として考えなければいけない。改めてそんなことを教えてくれた羽根田さんの講演でした。

終了後も沢山の人に囲まれ、おひとりおひとりに丁寧に接している羽根田さん。事故に遭われた人やご家族の方々を訪ねて直接お話をうかがうことも、本当に辛いことだと思います。羽根田さんの人柄だからこそ貴重な体験談をうかがえ、そうして記述できた数多くの文章や言葉が、さらに事故防止のために役立ってくれることを願います。

 

遭難・事件 危機管理
教えてくれた人

久保田 賢次

元『山と溪谷』編集長、ヤマケイ登山総合研究所所長。山と渓谷社在職中は雑誌、書籍、登山教室、登山白書など、さまざまな業務に従事。
現在は筑波大学山岳科学学位プログラムに在籍、日本山岳救助機構研究員、AUTHENTIC JAPAN(ココヘリ)アドバイザー、山の日アンバサダーなども務め、各方面で安全確実登山の啓発や、登山の魅力を伝える活動を行っている。

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