広い広い北海道の旅がスタート。海峡横断と、大千軒岳から羊蹄山までの5座を振り返る! 田中陽希さん旅先インタビュー第29弾
「日本3百名山ひと筆書き」の旅を続ける、プロアドベンチャーレーサー田中陽希さんの人力旅。最後の都道府県・北海道に到着した。北の大地の秋は短い…。疲労困憊の海峡横断から、休みなく登り、歩き続ける陽希さん。9月末から10月中旬の旅を振り返る。
- 冬が迫る北海道の山。海峡横断の翌日には北海道1座目の大千軒岳へ
- 山へのアプローチも長い狩場山では、お腹の不調で大ピンチに
- 最高の天気を待ち、ニセコアンヌプリ、羊蹄山の2座を2日で登りつなぐ
冬が迫る北海道の山。海峡横断の翌日には北海道1座目の大千軒岳へ
9月29日、青森から北海道へ、シーカヤック横断でした。シーカヤックは昨年の佐渡島往復以来、11ヶ月ぶりです。久しぶりのシーカヤックでしたが、竜飛岬からではなく、手前の三厩の砂浜から漕ぎ出して、岬まで10kmを1時間くらいかけて進んだので、ウォーミングアップになりました。
いよいよ海峡横断となったのですが、西から東へ、海流に流されていきました。
6年前は小潮のタイミングで、潮目はそれほどでもなかったのですが、今回は次第に波が高くなる若潮のタイミング。潮目も大きかったです。
テレビクルーの乗った漁船から見えるのと、水面を漕いでいるシーカヤックから見える景色は違うのですが、最初500mくらい離れていたのが、あれよあれよという間に近づいてしまいました。
潮目の中に入ってみたら、東側に出てしまったほうが穏やかだったので、ルートを変更することにして、潮目の東側を進んで、北海道の福島町の港に進むことにしました。
そのあとは、クロマグロの群れ(300kgで時速100km/h)と、それを追うレジャーボートが行き交って、緊張が続きました。竜飛岬からは4時間20分で海峡横断ができました。疲労困憊でした。
編集部から:いよいよ最後の都道府県・北海道。とはいえ、北海道だけでも三百名山の山は26座あり、点在しているため、ロードの移動距離は約2000kmにも上る。海峡横断したのが、9月29日。北海道の冬は早く、ギリギリでも11月上旬まで。田中陽希さんは、「体調よりも天候優先。登れるチャンスは登る」と、休養を取らずに、翌日、北海道1座目の大千軒岳を登ることにした。
大千軒岳は、江戸時代初期には砂金が採れるとして知られ、知内川周辺は栄えたそうです。キリシタンの方が隠れて働いていたのが、幕府の圧力で処刑されるという悲しい歴史があり、そのモニュメントがありました。沢沿いをさかのぼって稜線に出て、稜線伝いに山頂を目指す、というところは、先月登った、秋田県の太平山・丸舞ルートに似ていました。
この日の行程は、登山口まで15kmのロード、さらに山中で往復13kmと、40km以上の長丁場でした。前日の海峡横断の疲れは、上腕・肩周り・背中にあるので、歩くのは大丈夫と思って進んだのですが、疲労が腹痛や頭痛となって表れてきて、途中、薬を飲みながら進みました。
森林限界が低く、稜線で木が無い笹原が続く、北海道らしい山の光景でした。北海道では秋が短く、秋が深まらないうちにあっという間に冬になります。なので秋の山では寂しさを感じるのですが、疲労困憊のなかで、北海道での最初の1座を登頂することができ、大きな達成感を得る山行になりました。
いよいよ北海道の人力旅が始まりました。山が離れているので、山と山の間の移動の距離が長くなります。次の駒ヶ岳(北海道駒ヶ岳)まで、天気優先で、休まず4日かけて移動しました。
北海道の主要道路では、車が時速70~80kmで飛ばしていきます。本州までとは、音・風圧が違います。しかも、道路を歩いている人はいない前提なので、運転する人にびっくりされることが多いです。歩いている人を見ると減速して避けてくれた東北との、ギャップが大きかったです。
10月6日に登った駒ヶ岳(北海道駒ヶ岳)は、火山活動のため、標高900mの馬の背までしか登れません。久しぶりに「山頂に立たない山」になりました。さらに規制のため15時までに下山しなくてはならないルールになっています。
この日は北西からの風が断続的にありました。雨雲レーダーにも映らないような雲が発生して、予報より天気が悪くなりました。雲の動きを見ながら、時雨の中を2時間くらい待ったおかげで、馬の背から山頂を見ることができました。
翌日も、休まず次の山へと移動しました。この日は晴れで、駒ヶ岳の姿がよく見えました。登山は今日だったかなと思いながら進みました。移動して振り返るたびに、駒ヶ岳の姿が変わっていき、きれいな双耳峰の姿を見せてくれました。
10月8日の移動は、間に町も宿もなく、三百名山の旅では珍しい48kmもの移動になりました。北海道に入って、こういう距離で移動することは、今後も起こりそうです。15kgを背負って、時速7~8kmのランニングで、せたな町まで進みました。
山へのアプローチも長い狩場山では、お腹の不調で大ピンチに
渡島半島の最後の一座、三百名山の狩場山へは、10月9日に登りました。この日は、宿から登山口までが18kmもありましたので、4時起きでした。
ヒグマの生息地に踏み入っていくような山なのですが、この日は、朝食で、いろんなものを食べすぎてしまい、消化不良と低い気温でお腹が絶不調になってしまいました。登山口まで、民家で借りたりして、何度もトイレに入りました。登山口には9時に着いたのですが、お腹にも脚にも力が入らない状態でした。ここまで体調が悪いなかで登るのは、久しぶりでした。
薬を飲み、だましだまし登っていくのですが、エネルギー不足と腹痛で、まったく余裕がありませんでした。紅葉がきれいなタイミングで、南狩場山を越えてからは、心地よい稜線でした。しかし、予定より1時間も遅れてしまい、山頂だけ雲に覆われてしまいました。
下山が長いコースで、ヒグマの気配も感じながら進みました。あとで聞いたのですが、狩場山には、とても大きなヒグマが生息しているのだそうです。
後半は薬が効いてきて、なんとか無事に下山することができました。日本海に向かっていく下山路はとても気持ちが良かったです。下山後は、日本一標高の高い灯台「茂津多岬灯台」にも立ち寄ることができました。
狩場山から次のニセコアンヌプリの麓まで1週間かかりました。北海道の大きさを感じながら進んで行きました。海沿いの国道はトンネルが多く、気を付けて進みました。
10月16日は、移動が10kmなので、途中で立ち寄り温泉に入りました。
農家の方が敷地を自前で掘り、岩風呂などを手作りしたという黄金温泉は、珍しい炭酸泉ということと、露天風呂から、これから登るニセコアンヌプリと羊蹄山がドンと見えることで、とても良い温泉でした。
最高の天気を待ち、ニセコアンヌプリ、羊蹄山の2座を2日で登りつなぐ
10月17日は、三百名山のニセコアンヌプリに登りました。見返坂登山口から尾根を越えて少し下って五色温泉に立ち寄り、そこから標高差560m、距離2.5kmを登りました。登山道には溶け残った雪が見られました。今シーズン初めて見る雪でした。
この日は土曜日で、五色温泉の駐車場からは、足元がスニーカーの、軽装で登ってくる若い観光客が大勢いて、雪を見てはしゃいでいる中を登っていきました。
天気の良い日を待って登り、山頂では展望に恵まれました。黒松内町で3泊、昆布温泉で2泊と調整した甲斐がありました。スキー場がたくさんある山という印象でしたが、北側から見たら、違う印象を持ちました。13時半まで山頂で展望を楽しみ。比羅夫側に下山しました。
翌10月18日は、羊蹄山へ登りました。山の宿・蝦夷富士小屋のご主人から「いつかニセコアンヌプリから羊蹄山へと2つの山を徒歩だけで登りつなぐ人が泊まってくれると思って、ここに宿を構えた」と聞いたのですが、僕がその第1号になったようです。
羊蹄山は蝦夷富士とも呼ばれるように、きれいな円錐形をしています。この時期、標高1500m以上は初冬の趣で、積雪があります。今シーズン初めて雪を踏みしめて登ることになりました。7合目からはチェーンアイゼンを使用し、3時間半で山頂のお鉢の縁に立ちました。
西側から登ったので、お鉢に出るまでは日陰で気温が低かったです。足元の銀世界から、裾野にかけては晩秋を感じさせる紅葉が広がっていて、季節の変化がわかりました。
6年前は、強風と厚い雲で視界不良でお鉢の周回を断念したのですが、今回は時計回りで登頂できました。今シーズン初めての雪の山になりましたが、展望良く、これ以上ない天気に恵まれました。
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10月も下旬に差し掛かり、冬の足音が聞こえてきた。北海道の山は、11月上旬くらいまでがリミットと想定していた田中陽希さん。富良野の実家に帰るまでに、今年、どこまで進むことができるのか。
取材日=2021年1月6日
協力=グレートトラバース事務局
関連リンク
人力10,000kmの山旅。日本3百名山ひと筆書きに挑戦中の田中陽希さんを応援しよう!
もっと知りたいという方は、ウェブサイトで。
グレートトラバース事務局ウェブサイト
https://www.greattraverse.com/
今回のレポートで登った山
大千軒岳 [9月30日]
駒ヶ岳 [10月6日]
狩場山 [10月9日]
ニセコアンヌプリ [10月17日]
後方羊蹄山 [10月18日]
プロフィール
田中 陽希
1983年、埼玉県生まれ、北海道育ち。学生時代はクロスカントリースキー競技に取り組み、「全日本学生スキー選手権」などで入賞。2007年よりチームイーストウインドに所属する。陸上と海上を人力のみで進む「日本百名山ひと筆書き」「日本2百名山ひと筆書き」を達成。
2018年1月1日から「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦し、2021年8月に成し遂げた。
田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き」旅先インタビュー
2018年1月1日から、日本三百名山を歩き通す人力旅「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦中、田中陽希さんを応援するコーナー。 旅先の田中陽希さんのインタビューと各地の名山を紹介!!