北アルプスで山岳遭難事故が過去最多のペース。背景には初心者のテント泊増加とコロナ自粛による体力低下も?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

北アルプスは2021年の夏山シーズンまっさかりですが、山岳遭難件数は過去最多ペースです。今年の遭難事故の特徴を考えながら、特にテント泊初心者に気を付けてもらいたいポイントを紹介します。

8月に入り、お盆休みに向けて登山者でさらに賑わうシーズンを迎えている夏の北アルプス。

しかし、7月の4連休の北アルプスは天候に恵まれ登山者も多かったため、7月時点で山岳遭難件数は過去最多ペースで多発している。

8月1日までの北アルプスでの遭難件数は71件に上る。(参考:長野県警https://www.pref.nagano.lg.jp/police/sangaku/index.html

今年の北アルプスの遭難の特徴として、疲労や熱中症による行動不能や、疲労を遠因とする転倒による負傷や道迷いなどが挙げられる。特に、テント泊初心者による遭難事例の増加も目立つという。

長野県山岳遭難防止常駐隊員で、鹿島槍ヶ岳周辺の北アルプス北部のパトロールを担当している篠原剛さんからお話を伺った。

「中高年の初心者によるテント泊が増加して、無理な計画を行った結果、疲労や脱水で遭難してしまうというケースが増加しているように思います。」

背景には、新型コロナウイルス感染拡大の影響で密を避けてテント泊が好まれるようになり、登山経験は豊富でもテント泊経験はないテント泊初心者が増えたこと、あるいは自粛で運動ができず、体力が低下した人も多いことが考えられる。また、今年は熱中症の件数も多いが、熱中症は疲労や寝不足の状態で特に発症しやすい。

「最近救助に関わったケースでは、70代の男性が柏原新道から冷池山荘のテント場まで行こうとして、爺ヶ岳からの途中で転倒して負傷、動けなくなってしまったので、山小屋へ運んだあと翌日ヘリ搬送をしました。バックパックはかなりの重さがあったような印象です。」(篠原さん)

柏原新道登山口から冷池山荘のテント場までは、コースタイム5時間30分ほどだ。

中高年による遭難が多い理由は、体力がある若い世代はやや無理な行程でもなんとかなってしまい、遭難に至らなかったから、とも考えられる。登山人口の比率としても中高年が多い。

以下に、北アルプスにテント泊山行に行く前に、改めて見直して欲しいポイントとアドバイスをまとめた。

 

1.自分の体力やレベルにあったコース計画を立てる

これは北アルプス、テント泊登山に限らず、どんな登山でも言えることだ。

レベルの指標としては、各県が登山コースの難易度を同一基準で評価した「山のグレーディング」を発表している。

グレーディングを参考にしつつ、自分でもいろいろな山に行き、経験値をためて判断することが大切だ。

 

また、コースに必要な体力はコース定数で数値化して考えることもできる。コース定数とは、歩行時間、総距離、累積標高差から体力難度を計算するものだ。

計算式は下記の通りだが、ヤマタイムにあるコースなら、自動的に計算が可能だ。

1.8×行動時間(h)+0.3×歩行距離(km)+10.0×登りの累積標高差+0.6×下りの標高差(km)=コース定数

コース定数について詳しくは下記の記事を読んでもらいたい。

 

2.装備の重量を確認し、軽量化する

重量を測る、ということは、単純なことだが、抜けてしまっている人も多いのではないだろうか? 自分がどれくらいの荷物なら無理なく背負えるのかを、数字にして知ることができるので、ぜひ実践を。

軽量化を意識した場合、1泊2日のテント泊であれば、7㎏程度(バックパック重量を含めて10㎏程度)になる。それよりも重い場合は、装備を見直したり、食糧計画を見直してみよう。

山行で背負う重さの目安(バックパック除く)

  • テント泊:7kg前後
  • 山小屋泊:4.5kg前後
  • 日帰り:3kg前後

※詳しい内訳はコチラ

 

また、食糧計画の参考として、消費カロリーから行動中のエネルギー消費量を計算して出すことができる。

行動中のエネルギー消費量(kcal)=コース定数×(体重+荷物の重量)

必要以上のものを持たないようにしつつ、フリーズドライを上手につかって軽量化しよう。

 

軽量化については、こちらの記事も参考にしてもらいたい。

 

最後に…

以上のことに気を付けつつ、体力不足を感じている人は、いきなり3000mの北アルプスではなく、標高を下げてトレーニング山行にいってみるのもいいだろう。

8月のお盆休みにははさらに登山者も増える。

「事故が起きてしまうこと自体を責める気は全くありません。ただ、遭難事故が1件起こると、県警の山岳救助隊、パトロール隊のほか、繁忙期の山小屋関係者など、数十人が対応する、ということは登山者の皆さんには知っていてほしいなと思います。」(篠原さん)

短い北アルプスの夏。楽しい夏山の思い出だけ残して家に帰りたいものである。

 

Yamakei Online Special Contents

特別インタビューやルポタージュなど、山と溪谷社からの特別コンテンツです。

編集部おすすめ記事