予約金やキャンセル料の導入も。アルプスの山小屋予約事情

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コロナ禍以降、定員数を削減し、予約制が一般的になった山小屋。予約方法やキャンセル規定に関しては、山小屋によってさまざまだ。アルプスの山小屋に今年の予約事情について、取材した。

文=大関直樹

全国各地から山開きのニュースも届き、いよいよ本格的な夏山シーズンが到来した。今年は、新型コロナウィルスが5類に移行したことで、山小屋には多くの登山者が訪れることが予想される。しかし、多くの山小屋ではコロナ対応として宿泊定員を削減し、完全予約制を導入しているため、週末や連休などは予約開始日にすぐ満員になってしまうこともある。

また、マナーとして控えたいことだが登山者の中には好天のときに登りたいという理由から、「重複予約」をして直前の天気予報を確認してキャンセルをする人もいる。山小屋では、このようなキャンセルが頻発する状況を考慮して、予約金やキャンセル料を徴収するところも増えてきた。この記事では北アルプス3軒、南アルプス1軒の山小屋に取材した、最新の予約事情、さらに計画時のアドバイスを報告する。

【北アルプス】燕山荘グループ

燕山荘、大天荘、ヒュッテ大槍など WEBサイト

7月~9月の連休、週末はすでに満室の小屋も 

「山と溪谷」本誌の読者アンケートで「泊まってみたい山小屋」の1位に選ばれたこともある燕山荘。登山者から人気の山小屋だけあって、同小屋と系列の大天荘、ヒュッテ大槍、有明荘ではコロナ前から予約制を導入している。予約は、燕山荘グループのホームページの予約フォームに入力するか、松本事務所に電話(TEL:0263-32-1535 月~金曜日 9:00~17:00)をする。今年の夏山の混雑状況については、6月中旬時点では7月~9月の週末や連休は満室となっている小屋が多く、平日も梅雨明けが予想される7月下旬から8月上旬は定員に達する日も出てきている。

燕山荘のWEB予約画面。すでに満室の日もある

テント場は、燕山荘は要予約。大天荘は予約不要

グループ内の山小屋のなかでテント場があるのは、燕山荘と大天荘の2つだ(料金は、ともに1泊1名2000円)。このうち大天荘は以前と変わらず先着順だが、燕山荘は完全予約制となっている(上記松本事務所に電話をするかWEBから予約)。燕山荘のテント場の敷地は非常に狭いため、2020年から新型コロナ感染防止のために予約制が導入された。コロナは今年から5類に移行したが、引き続き予約制は続いているので、注意しよう。

燕山荘テント場(lamjung さんの登山記録より)

予約金は必要ないが、重複予約はやめて欲しい

「今シーズンの燕山荘グループは、予約金はいただいておりません。また、グループの山小屋では、体調などやむを得ない事情がある場合はキャンセル料をいただいておりません。しかし、なかには同じ日程で複数の山小屋を予約して、後からまとめてキャンセルをする登山者の方もお見受けします。重複予約をする方が増え続けるようなら予約金の導入も検討しなければいけません。重複予約は、ほかの登山者の方が予約を取ることができずご迷惑になりますので、どうか避けていただきたいです」(燕山荘グループ代表 赤沼健至さん) 

ファミリー料金で親子三世代の登山をサポートしたい

燕山荘グループの山小屋では、約20年前からファミリー料金を設定。これは、家族で登山を楽しむ人たちを応援したいという考えに基づくものだ。今シーズンは、大人が1万5000円、大学生1万4500円(学生証提示のこと)、高校生1万2500円、中学生9000円、小学生8000円となっている。

「登山は、親子三世代で楽しめる数少ないスポーツのひとつだと思うんですよ。大自然の中で励まし合ったり、笑い合ったりする経験は、きっと素敵な思い出になると思います。燕山荘グループでは、そんなかけがえのない時間をサポートできたらという想いからファミリー料金を設定しているんです」

天気予報に一喜一憂せず、雨の山歩きも楽しんで下さい!

最近の登山者は、天気予報で雨マークがつくと、すぐにキャンセルする人が増えてきたと赤沼さんは言う。

「登山はアウトドアスポーツなので、天気が良いときもあれば、悪いときもあります。天気は1日のなかでも変わりやすいので、あまり天気予報に神経質になる必要はないと思います。夏山シーズンは梅雨が明けると終日山が見えない日は、何日もありません。また、燕岳は合戦小屋までは樹林帯で、その上の稜線も東向きなので風も弱く、多少の悪天候でも低体温症の心配は少ないです。雨の中での山歩きもなかなか楽しいので、台風などの極端な悪天以外は、ぜひチャンレジしていただけたらと思います」 
 

【北アルプス】槍ヶ岳山荘グループ

槍ヶ岳山荘、槍沢ロッヂ、南岳小屋など WEBサイト

電話予約よりもWEB予約を推奨

槍ヶ岳山荘、槍沢ロッヂなど5軒の山小屋を運営する槍ヶ岳山荘グループでは、コロナ禍が始まった2020年より完全予約性を導入。今シーズンも引き続き、WEBと電話(各山小屋へ)で1ヶ月先の宿泊から予約を受け付けている。ただし、電話は混み合うことが多いので、WEBを推奨しているとのことだ。

今シーズンの予約状況は例年並みで、8月の週末やお盆、9月のシルバーウィークなどは満員になりそうだが、平日は余裕のある日が多いと思われる。

宿泊前日の18時以降はキャンセル料が発生

キャンセルをする場合は、2日前までならWEBで、それ以降は各山小屋に電話連絡が必要だ。また、前日の18時までのキャンセルは無料で、それ以降は7000円のキャンセル料が発生する。

「ただし、急な天候悪化や体調不良等のやむを得ない場合は、事情を考慮して対応させていただくこともありますので、まずは現地にご一報ください。また、重複予約をして直前にまとめてキャンセルをされる方もいらっしゃいますが、他の宿泊希望者の方にご迷惑をおかけすることになりますので、ご遠慮いただけたらと思います」(槍ヶ岳山荘グループ代表 穂苅大輔さん)

槍ヶ岳山荘と槍の穂先(パン太郎さんの登山記録より)

現在のところテント泊は、予約不要

槍ヶ岳山荘グループの場合、大天井ヒュッテを除く4つの山小屋にテント場があるが、予約は必要ない(料金は1人1泊2000円)。ただし、槍ヶ岳山荘のテント場は狭いので、ハイシーズンだと遅くに到着すると満員ということもある。その場合は、近くにある殺生ヒュッテのテント場を案内しているそうだ。

「山小屋を完全予約制にしたので、テント場についてはできるだけ自由に利用できるようにしたいと思っています。しかし、キャパシティを越える状況が続くようでしたら、やむなく予約制を導入することも視野に入れています。とりあえず現時点では、予約不要のまま継続するつもりです」 

槍ヶ岳山荘のテント場(みやさんの登山記録より)

日本の登山文化を担う子どもや若者を支援してきたい

今年の槍ヶ岳山荘グループの宿泊料金(1泊2食)は、大人が1万4000円だが、小学生以下は6000円引き、中高生以下は3000円引きとなっている。また、テント泊の料金も大人は2000円のところ、大学生以下は1000円とした。

「これは、子どもや若者が山に登らなくては日本の登山文化に未来はないからと考えたからです。私たちの山小屋は、立地上それほど多くの家族連れが訪れる訳ではありませんが、ファミリー登山をはじめ、大学や高校の山岳部・ワンダーフォーゲル部の活動を支援してきたいと思っています」 

【北アルプス】剱澤小屋

WEBサイト

梅雨明け後に8月の平日の予約が増える

コロナ前から完全予約性を実施し、1枚の布団に1人で寝られるように配慮をしてきた剱澤小屋。これは、一般ルートで最難関のひとつといわれる剱岳登山に備えて、しっかりと睡眠を取ってほしいという考えに基づいてのものだ。今シーズンも例年通り、電話(TEL:080-1968-1620)による予約制としている。

予約状況については、7~9月の土日や連休はすでに埋まっている日が多い。平日に関してはコロナ禍だった過去2年間よりも増えているが、6月中旬時点では、まだ余裕がある。ただし、梅雨が明けた7月後半に週間天気予報が発表されると、8月の平日も一気に予約が入ると予想されている。

剱澤小屋(楽人さんの登山記録より) 

10日前までに予約金の振込が必要

電話で予約をした後には、通常日は3000円、金曜・土・祝祭日の前日は4000円の予約金が必要だ。予約を確定させるためには、山行の10日前までに指定の銀行口座に予約金を振り込まなくてはいけない。なお、キャンセルした場合でも予約金は返金されない。

「予約金を導入したのは、キャンセルがあまりにも多かったからです。天候悪化などでキャンセルが出るのは仕方ないと思うのですが、こちらではお客さんのために食材を用意して、スタッフも準備をしています。そこで、お客さんに少しでも負担をしていただかないと、山小屋事業を続けていくのが厳しくなってきました。キャンセル料の金額もできるだけ抑えていますので、ご理解いただけたらと思います」(剱澤小屋オーナー 佐伯新平さん)

また、今シーズンの剱澤小屋は、新たに有料のWi-Fiサービスの導入を予定している(料金は未定)。これに伴って宿泊料金についてエアペイでのクレジットカード、QRコード、電子マネー決済も可能となった。

雪渓を使ったルートは、代替プランを考えておくこと

今年の剱岳周辺は残雪が非常に少なく、標高2400mにある剱澤小屋周辺でも、3週間ほど雪解けも早いという。このため雪渓を使ったルートでは、早い時期にスノーブリッジの崩壊も予想されるため、予定の前倒しや代替プランを考えておく必要がある。

「例えば長次郎谷に行かれる予定の方は、出合の下部が割れている場合は源次郎尾根に変えるとか、八ツ峰の上半を登るつもりなら北方稜線経由で回り、チンネ左稜線に進むなどのプランBも検討してください。また、7月下旬には長次郎谷が登れなくなる可能性もあります。最新情報は、富山県山岳警備隊のTwitterが参考なりますので、チェックしてみてください」

また、最近は悪質な登山者が増えていることに懸念を抱いていると佐伯さんは言う。

「例えば、6月に早月尾根に張っていたテントからガスとコンロが盗まれる事件がありました。これらのアイテムは、季節や天候によっては致命的な事になる可能性が非常に高いです。数年前にも剱澤キャンプ場でテントの盗難や、剱岳山頂からお賽銭が盗まれる事案も発生しています。こういった行為をする登山者はごく一部だと思いますが、みなさんは適切なモラルを持って山を楽しんでいただけたらと思います」 

源次郎尾根(yetiさんの登山記録より)

【南アルプス】特種東海フォレスト

椹島ロッヂ、千枚小屋、荒川小屋など WEBサイト

山小屋、避難小屋ともに事前予約制

南アルプスの南部の山小屋10軒(食事提供のある山小屋6軒、素泊まりの避難小屋4軒)を運営している特種東海フォレストは、コロナ禍で2020年と21年を休業。昨年から営業を再開するにあたって、電話とWEBによる予約制を導入した。今年も予約は、特種東海フォレスト予約センターのホームページか、電話(TEL:03-6265-6967 10:00~16:00)で受け付けている。なお、9月25日以降の予約については椹島ロッヂ(TEL:0547-46-4717 9:00~16:00)まで連絡のこと。また、宿泊と同時に送迎バスも忘れずに行おう。

今年の予約状況に関しては、6月1日のWEBでの予約受付開始とともに、7~8月は平日、週末を問わず埋まっている。9~10月の平日は、まだ比較的余裕があるので、検討していただきたいとのことだ。

荒川小屋(勅使河原彗碧院さんの登山記録より)

キャンセル料は2日前から発生

予約時には宿泊料金の事前決済が必要だ。WEB予約の場合はクレジットカードを使用し、電話予約の場合は金融機関への振込を行なうこと。なお、キャンセル料については2日前と前日は5000円、当日または無連絡は、宿泊代金の100%となっている。 
「コロナ禍以降は山小屋の定員を5~7割に近くにしており、それに伴ってキャンセル料を設定させていただきました。これも山小屋事業を継続していくための措置なので、登山者のみなさまにはご理解いただけたらと思います。なお、キャンセル料を2日前からとしたのは、例えば3泊4日の登山計画を立てた場合に、最終日の天気について週間天気予報を見てから登山の可否を判断していただく時間を確保するためです」(特種東海フォレスト事業開発部  増田尚徳さん) 

テント場に関しては、今年から予約不要

10軒の山小屋のうちテント場を併設しているのは椹島ロッヂなど7軒で、昨年は予約制だったが今シーズンは予約不要となった。これは、静岡県と静岡市が策定したガイドラインの改訂に沿った結果だ。料金については、昨年と同様に大人2000円、大学生以下は若者の登山を応援する目的で1000円となっている。

「キャンプ場の予約が不要になったことで、テント泊の方は登山計画を臨機応変にアレンジしていただけると思います。また、他の変更点としては、千枚小屋・荒川小屋・赤石小屋・百間洞山の家では、朝食の開始時刻を6時とさせていただきます(椹島ロッジは、5時)。早朝の出発を希望する方は、予約の際に朝食をお弁当で注文していただけたらと思います。また、熊の平小屋の朝食は、お弁当での提供のみとさせていただきます」

聖平小屋のテント場(コシアブラさんの登山記録より)

ほかにも、諸般の事情から下記のように幕営のみ対応する日を試験的に設けた山小屋もあるので注意しよう。

 8月27日 千枚小屋 
 8月28日 荒川小屋、熊の平小屋 
 8月29日 赤石小屋、百間洞山の家

くれぐれも余裕を持った登山計画を立てて欲しい

南アルプス南部は縦走路が長いため、自分の体力を考慮して、無理のない計画を立てていただきたいと増田さんはいう。

「昨年は、山小屋の予約が満員だったために、通常なら3泊の行程を無理やり1泊や2泊で回られている方もいらっしゃいました。予約が取れないことは私どもとしても心苦しいのですが、どうかご自身の体力に合ったスケジュールを組んでいただきたいと思います。また、悪天候や体調不良にもかかわらず、山小屋を予約しているからといって無理をせずに撤退や行程変更も考慮してください。また、赤石岳避難小屋や荒川中岳避難小屋といった“避難小屋”は、収容人数が限られているので、登山者の安全を守るために悪天候や体調不良時に駆け込める施設として利用していただきたいと思っています。登山計画をたてる際は、“避難小屋”ではなく食事提供のある山小屋を利用する計画を立てるようにお願いします」

赤石岳(VANさんの登山記録より)

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