雪の奥多摩を歩く。川苔山、大岳山、三頭山へ、ちょっとハードな近郊スノーハイキング

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東京から行きやすい奥多摩は、登山者でにぎわう山域だ。しかし多少の積雪を見る冬場には、登山者少なく、静かな雪道と冬ならではの好展望を楽しめる。そんな奥多摩の三つの山を紹介しよう。

文・写真=打田鍈一

目次

奥多摩湖から静かなルートで人気のピークへ 三頭山(みとうさん)

1528m(東峰・三角点)

大岳山から見る三頭山。山腹に奥多摩周遊道路

三頭山は奥多摩でも奥まった山だが、都民の森を基点とする整備の行き届いた周回コースで人気は高い。こちらは標高差約540m、3時間20分ほどで周回できる。しかしその北面には奥多摩湖を基点にしたハードなコースが隠れている。2018年3月に中国人を含む13人パーティが遭難・救助されたヌカザス尾根と、その支稜ムロクボ尾根だ。事故はヌカザス山と三頭山の間での道迷いと言われるが、どこで迷ったのか不思議なほど登山道は明瞭だ。しかしムロクボ尾根には油断ならない箇所がひそんでいる。

三頭橋を渡るとすぐにムロクボ尾根登山口だが、車道の擁壁を登る木段は壊れかけている。不明瞭ながら尾根上に道は続くが、傾斜は次第にキツくなり上部のジグザグではナメた登山道に落葉が深々と積もり、滑落せぬよう細心の注意を払う。「丸山山頂」の錆びた道標でホッと一息だが、この落葉急斜面は行程中一番の悪場だ。傾斜はゆるむが地形図に現われない上下が多く、行く手にはヌカザス山がまだまだ高い。白い水道局の標柱とトラロープに「奥多摩湖→」の道標が一区切り。「ツネの泣き坂」の道標からロープの急登となり、ヌカザス尾根に登り出る。傾斜が急になると取材時は雪が現われ、チェーンスパイクを装着。木立越しに三頭山を見上げ、鶴(つる)峠分岐を過ぎると三頭山は近い。

ムロクボ尾根登山口。道標はあるが不安なはじまり
ムロクボ尾根核心部。急斜面の山腹道は落葉の堆積で滑落の危険が
雑木林のムロクボ尾根を行く。見上げる鋭鋒はヌカザス山か

大きな石標の立つ三頭山西峰は南に富士山方面、北に奥多摩の山々を望める。東にわずか下り御堂峠から登り返せば中央峰。三頭山最高点だが、樹林の中だ。すぐ先が展望デッキのある東峰で、大岳山、御前山を見下ろす。強風時にはありがたい施設だ。

何十年昔の道標だろう
傾斜が増すと雪が現われた
三頭山西峰。石標と案内看板が山頂らしさを演出する
東峰の展望デッキ。小さな建物だが風雨をしのげる
展望デッキから望む御前山(左)と大岳山(右)

帰りは御堂(みどう)峠から西峰をまいて往路に合流。ムロクボ尾根を分けたすぐ先がヌカザス山で「糠指山」の道標が。急な下りだが、次の目標イヨ山は3つ目のピークだ。植林に入ると奥多摩周遊道路は近く、湖岸の車道を深山橋へと戻る。川苔山より歩行時間、累積標高差、雪の量とすべて少ないのに、三頭山のほうがキツい印象だ。傾斜の激しさゆえだろう。

粉砂糖のような雪が雑木林にアクセントを添える
ヌカザス山で三頭山を振り返る
奥多摩周遊道路を深山橋へと戻る

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 8時間
※積雪期のため、コースタイムは著者の実踏タイムを記載(ヤマタイム記載の標準タイムのおよそ1.2倍相当)
行程:スタート地点・・・ヌカザス山・・・鶴峠分岐・・・三頭山西峰・・・鶴峠分岐・・・ヌカザス山・・・イヨ山・・・深山橋
総歩行距離:約11,800m
累積標高差:上り 約1,272m 下り 約1,273m
コース定数:29
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この記事に登場する山

東京都 / 関東山地

川苔山 標高 1,363m

 国土地理院の図中には川乗山と表示されているが、川苔山が正しい。  日原行きのバスを川乗橋で下車し、川苔川に沿って歩き、細倉橋から登山道に入る。川苔川を左右に渡り返して百尋ノ滝への分岐に出たら右に火打石谷に沿った登山道をたどる。百尋ノ滝は約40mほどの滝である。  川苔山へは登山道が火打石谷を渡る地点で二分する。左は火打石谷の源流に沿って曲ガ谷北峰との鞍部に達した後、また、右はウスバ尾根を登ってから頂上に登っていける。  山頂からは雲取山、天祖山、蕎麦粒山がよく見える。山頂から下った東の肩から舟井戸を経て大ダワ、大根ノ山ノ神を経て鳩ノ巣駅に下る。または曲ガ谷北峰へ登り、赤杭(あかぐな)尾根を下るコースもある。  奥多摩駅から川乗橋、百尋ノ滝から川苔山に達し、赤杭尾根から古里(こり)駅まで約6時間。

東京都 / 関東山地

大岳山 標高 1,266m

 片肩上がりの山体はどこからでも識別できる。『武蔵通志(山岳篇)』は「両総地方にて武蔵の鍋冠(なべかぶり)山と称し海路の標となす」と記され、江戸期には江戸湾に出入する船の目標でもあったようだ。いわゆる天文山の1つである。山名も古い文献を見ると大岳となっている。  大岳山へは御岳(みたけ)から登山道をたどるのが一番楽だ。山頂の下に大岳神社があり、広場からは馬頭刈(まずかり)尾根や浅間尾根のかなたに富士山も見える。  大岳神社の里宮は、南秋川の白倉にある。山頂への表参道は白倉からのもので、御岳からの道は単なる登山道だ。この表参道は立派に整備され、馬頭刈尾根に達し大岳山へ登っていく。途中鋸山の分岐に道祖神が1基祭られ、右へ進むと、奥社の横手から岩っぽい登山道となり山頂に立つ。下山路は御岳へ出るのが一番楽だが、馬頭刈尾根を軍道(ぐんどう)へ下るのが面白い。鋸山へは体力が物を言う下りである。  コースタイムは武蔵五日市で下車し、白倉から大岳山に至り、高明山を経て軍道に下りる。武蔵五日市駅まで約6時間。

東京都 / 関東山地

三頭山 標高 1,531m

 三頭山は自然豊かな美しい山。山頂付近は3つのピークからなる。主要登山口は「都民の森」として、登山者のみならず観光客も多く訪れる。  日帰りも可能であるが、できたら山麓の数馬に1泊してみたい。都民の森から登るコースのほか、笹尾根の西原峠から尾根通しに三頭山に登り、西にある鶴峠に下るコースもお勧め。そこには美しいブナ林が残っている。

プロフィール

打田鍈一(うちだ・えいいち)

1946年鎌倉市生まれ東京・中野育ち。埼玉県飯能市在住。低山専門山歩きライター。群馬県西上州で道なき薮岩山に開眼。越後の山へも足を延ばし、マイナーな低山の魅力を雑誌や書籍などで紹介している。『山と高原地図 西上州』(昭文社)を平成の30年間執筆。著書に『薮岩魂―ハイグレード・ハイキングの世界―』『続・薮岩魂 いつまでもハイグレード・ハイキング』『分県登山ガイド10 埼玉県の山』(いずれも山と溪谷社)、『晴れたら山へ』(実業之日本社)、『関越道の山88』(白山書房)のほか、『関東百名山』(山と溪谷社)など共著多数。
(プロフィール写真=曽根田 卓)

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