デートハイキングに行こう。#04 静岡県・満観峰「新幹線で日帰りできる、やや遠出の低山縦走の旅」

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気になるあの人と、はたまた気の知れた相方や友人とハイキングへ! デート、つまり「大切な人と一緒に歩く」をテーマにした、低山トラベラー大内征さんのミニ連載。今回は富士山と海を見ることのできる絶景低山が舞台。静岡はちょっと遠出するデートハイキングにはもってこいの地です。

文・写真=大内 征

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大切な誰かと、ちょっと遠出がしてみたい。でも泊まりではなく、日帰り希望で。そんなとき、静岡は狙い目だ。東京からも大阪からも新幹線でアクセスすることができ、駅前は大都会。飲み屋もめちゃめちゃ多い。富士山と駿河湾(するがわん)を一望できる絶景低山だっていくつもある。山と酒が好きなら、まさに楽園のような土地柄。これを日帰りで楽しまない手はない。

以前、とあるイベントの主催者を、下見のために案内したことがあった。山歩きの経験が少ないとのことで、スタートから緊張した面持ちだったことを覚えている。

朝イチの新幹線で静岡駅(しずおかえき)で集合し、そのまま在来線に乗り継いで焼津駅(やいづえき)に向かった。登山口のある花沢の里までは住宅地をしばらく歩くけれど、途中でコンビニに寄れるから、トイレを心配していた現場の担当者にとっては安心材料だったようだ。身支度を整えて、行動食などの買い出しをして、いざ山中へ……入るかと思いきや、花沢の里(はなざわのさと)がとてもいい雰囲気ゆえ、ちょっと散策することに。

山頂の東屋
広い山頂には東屋も

花沢の里は、静岡県初の国の重要伝統的建造物群保存地区である。古い東海道の一部だそうで、狭隘の谷間には古めかしい建物が立ち並ぶ。果物や焼き菓子なんかを軒先で売る民家があったり、カフェがあったりと、登山モードだったストイックな気分にのんびりしたい欲が芽生えてしまい、すっかりリラックス。登山の前に出現した思わぬ“名所”に、担当者はほくほくの笑顔だった。

花沢の里から満観峰(まんかんほう)の山頂までは、ざっと90分の道のり。頂に近づくと、一気に三六〇度の大展望になる。だだっ広い山頂にはベンチとテーブルがたくさんあり、レジャーシートを広げて憩うハイカーがそこかしこにいた。特等席は、富士山を正面に設えられたベンチとテーブル。ここを確保したいところだったけれど、気持ちのよい芝生の上でゴロンとして過ごすことにした。そういうことも担当者を笑顔にするいい理由になった。

静岡市街地の向こうに富士山
静岡市街地の向こうに富士山が!

眼下には、日本一深い駿河湾と、静岡の市街地が広がる。正面には日本一高い富士山。標高470mの低山とはいえ、この展望は最上級だ。さすがは「観て満足の峰」である。そんな由来かどうかは知らないんですけどね、とおどけて話す。ちょっと納得しかけていたのは可笑しかったけれど、朝から比べればずいぶんリラックスしていた証だったのだと思う。

個人的には、朝鮮岩(ちょうせんいわ)経由で安倍川駅(あべかわえき)をゴールとする下山ルートがお気に入りだ。朝鮮岩からの眺めが想像の斜め上をいく“低い大絶景”で、これがなかなかすばらしい。静岡の都市の営みを夕景・夜景で撮影するカメラマンにはよく知られた場所でもある。月刊誌『山と溪谷』の低山特集でもおなじみだから、ぜひバックナンバーから探してみてほしい。

低い絶景
朝鮮岩まで下りてくると、さらに街が近くなる。迫力ある“低い絶景”だ

安倍川駅から静岡駅までは、JR東海道本線で1駅という区間。新幹線までの時間が許す限り、静岡おでんと静岡麦酒で乾杯できるのがうれしいではないか。

下見の感想を共有する中で「見どころの説明もペースの作り方も丁寧にしていただいたおかげで、とても思いやりを感じながら歩けました。当日も参加者のみなさんを同じように案内してほしいです」とのお言葉。

これ、この連載の大きなヒント。相手のことを考えて計画し、思いやりと気遣いを持って先導するということ。

一番大切なのは「デートをする」ことではなく、相手の気持ちに立つということ。そして、自分自身も楽しむということなんだよね。

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム:4時間45分
行程:花沢の里駐車場・・・花沢の里臨時駐車場・・・法華寺・・・日本坂峠・・・満観峰・・・丸子富士・・・朝鮮岩・・・小野寺・・・安倍川駅
総歩行距離:約8,900m
累積標高差:上り 約861m 下り 約870m
コース定数:20

関連リンク

この記事に登場する山

静岡県 /

満観峰 標高 470m

静岡県焼津市にある山。一帯は焼津アルプスとして知られ、軽快な稜線歩きを楽しめる。 山頂は広く、芝生の広場が広がっていて、焼津市民に人気の高。山頂からは大パノラマが広がっていて、相模湾を見下ろしながら、富士山の展望を楽しめる。

プロフィール

大内 征(おおうち・せい)

低山トラベラー、山旅文筆家。歴史文化を辿りながら日本各地の低山・霊峰をたずね、自然や人の営みに触れるローカルハイクの魅力を探究。高山のピークハントだけではない“文化的な歩き旅”の情景を、文筆・写真・講演などで伝えている。NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」は10年目。NHKBS「にっぽん百名山」等の番組出演、近著に『低山からはじめるソロハイク超入門』(山と溪谷社)がある。熊野古道・サンティアゴの道 共通巡礼アンバサダー。

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